第10話 泊まりの始まり

 駅から数分歩いた住宅街の中にある向日葵の家に、泊まることになった私は気持ちを高ぶらせながら家に上がって行く。


「ただいまー」

 向日葵が普段とあまり変わらないトーンでそう言ったので、私も続けて小声で挨拶をする。

「お邪魔しまーす」


 家の中から返事が返ってくることはなかったので、私は恐る恐る向日葵に質問をする。


「向日葵ー、向日葵の親は? いないの?」


 すると向日葵は、それはねーというような笑顔をして喋りだした。


「そんなにビビらなくても大丈夫だよ。普通に親二人とも普段あんまり帰って来ないだけだから」


 私はホッと安堵のため息をついた、しかしその安堵のため息がすぐに消え去ってしまうぐらいのことに私は気がついた。


「でも百合さんは?」


 それを聞いた向日葵は、頭を掻きながら少し戸惑った表情をしていた。


「そーいえばお姉ちゃんどうしたんだろ、先帰ったはずなのにね」


 今日百合さんは少しノリ気じゃないような雰囲気で、私たちよりも早くに用事あるからと言って、プールから帰ってしまったのだ。

 まぁ単純にその用事が終わっていないということなのかもと、私の中で勝手に答えをまとめるとちょうど同じくらいのタイミングで、向日葵も同じ答えに辿り着いたようで元気に喋りだした。


「単純にその用事が終わってないだけじゃない?」


 それを聞いて私は「ふふ」と微笑んだ。

 すると向日葵はさっきまで笑顔だった表情を、きょとんとした表情に変えて「どうしたの?」と聞いてきた。


「いや私も向日葵と同じこと考えてたから、少し面白くなっちゃって」

 私が微笑みながらそう言うと、なぜだか向日葵も微笑んでいた。

 少しの間一緒に微笑んでいた。


 すると向日葵が突然予想外のことを勢いよく言い始めた。


「葵! 一緒にお風呂入ろ!」


「ええーーーーー!」


 私は思わず驚きの声を上げてしまった。

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