第3話 再会

 午後の授業も無事に終わり、向日葵ひまわりと一緒に向日葵の家に行くために学校を出ていく。

 向日葵とアニメのキャラクターのカップリングで、熱く語りあっているとあっという間に向日葵の家についてしまった。


 向日葵は「ただいまー」と言いながら玄関

 ドアを開けて、家の中に入っていく。

 家の中に完全に入った向日葵は、私に「どうぞ」と言いながら入っていいよという目で手招きをしている。

 それを見て私は「お邪魔しまーす」と呟きながら家の中に入っていく。


「それじゃあ葵、先に上に上がってて、飲み物用意してから行くから」


 そう言うと向日葵は台所に向かう。

 最近は来てなかったが、前はそこそこのペースで遊びに来ていたので、向日葵の部屋の位置をわかっている私は、向日葵に部屋の位置を聞くことなく階段を上がっていく。


 向日葵の部屋のドアを開け部屋の中に入っていく。

 部屋の中に丸い机が置かれていて、私は机の周りに置かれている座布団の上に座り向日葵が来るのを待っていると、階段を上がってくる足音が聞こえてくる。


 そのまま階段を登りきったその音はだんだんとこの部屋に近づいてくる。

 するとドアが開きそれと同時に声が聞こえてくる。


「おまたせー」


 足音と声の主は向日葵だった、向日葵は部屋に入ってくると、机の上に飲み物が入ったお盆をそっと置き、座布団に座る。

 私は飲み物を一言「ありがと」と言って飲み始める。

 すると向日葵が、じゃあさっそくと言わんばかりに私の顔を見ながら喋りだす。


「単刀直入に聞くけど葵は、その百合さんのことことどう思ってるの?」


 向日葵はいつものふざけた様子ではなく、もの凄く真剣に聞いてきてくれている、これだけ真剣な向日葵を私は見たことがなかったので、少し驚いてしまう。

 そんな向日葵を見て私も一切濁さずに真剣に答える。


「好きだよ、百合さんにはまだ一度しか会ったことはないけど、今まで感じたことがないような感情が百合さんのことを考えると、湧いてくるんだよ、そのぐらい好き」


 私は思いの丈を全て向日葵にぶつけて少し心が、軽くなったような気がした。

 するとその話を聞いた向日葵が、一言「そっか」と少し寂しげに呟きながらスマホをいじりだす。

 スマホをいじり終えた向日葵は、私に「今からびっくりすることが起こるから」とだけ言って机に置いてある飲み物に口をつける。


 私がなになにと驚いていると、すぐさま誰かが階段を上がってくる音が聞こえてくる。

 その音は先ほどと同じように階段を登りきり、そのままこの部屋に向かってくる。

 するとこの部屋のドアがノックされる、ノックが終わったタイミングでドアが開きそれと同時に声が聞こえ体も見えてくる。


 その声は昨日私がぶつかった人、白石 百合さんの声だった。


「なーにー向日葵、急に呼び出して」


 え? と私が驚いていると百合さんが私に気づいてくれたようで、勢いよくドアを閉めて部屋の中に入ってくる。


「葵ちゃん、なんでここにいるの? もしかして向日葵が話してた百合好きの友達って、葵ちゃんのこと?」


 私は百合さんの勢いに押されて、うんうんと首を縦に振ることしかできなかった。

 そのままの勢いで百合さんは喋る続けている。


「そっかそっかーこの向日葵の友達が、こんな行儀良くてしかもこんなに可愛いなんて、いつもうちの向日葵がお世話になってます」


 そう言いながら百合さんは私に向かって頭を下げてくるので、私も勢いに任せて百合さんに頭を下げる。

 すると向日葵が少しキレ気味に主に百合さんに向かって喋りだす。


「ちょっとお姉ちゃん一回黙って! 葵困ってるじゃん」


 百合さんは小声で「あんま困ってなさそうだけどなー」と呟くとそれが向日葵の怒りに触れてしまったようで、向日葵はもっと怒った様子で喋りだす。


「昨日初めて葵に会ったお姉ちゃんに、葵の何がわかるの? 私はもう高校入ってからずっと葵を見てきたんだから」


 二人が言い合っている姿を見て私は「ふふ」と微笑んでしまう、すると二人は言い合いをやめて座布団に座りなおし始める。

 百合さんは座り直した直後に喋り出した。


「それで向日葵、私を呼んだ理由は何?」


 さっき私が向日葵に百合さんのことどう思ってるかを、話終わった時にスマホをいじったのは、百合さんを呼ぶためだったのかと自分の中で勝手に納得してしまった。


「私が用があって呼んだわけじゃないんだよね、用があるのは葵なんだ」


 すると向日葵はすーっと私の後ろに移動して、耳元で囁いた。


「この後二人きりにしてあげるから、お姉ちゃんを押し倒すぐらいはやっちゃいなよ」


 その言葉を聞いて私は顔が赤く染まるぐらいに熱くなってしまう。


 私が百合さんに「百合さん」と呟きながらゆっくりと押し倒す、すると百合さんが私に「いいよ」と少し顔を赤らめながら呟いたところで私は、これ以上はと妄想を中断させるために、首を横に勢いよく振り払う。


 妄想を終わらせて、眼を開くと目の前にあった百合さんの顔が心配そうに私を見ていた。


「葵ちゃん大丈夫? なんか少しの間顔赤くしてニヤニヤしてたよ」


 私は恥ずかしくなり、思わず目線をそらししながら、「大丈夫です」とだけ答えた。

 私は助けを求めるために向日葵を探すが、部屋の中に向日葵の姿はなかった。


「向日葵ならさっき私に、葵が言いたいことがあるから聞いてあげてって言って、部屋から出てったよ、最後に一言、葵わかんないだろうからリードしてあげてって言ってたけど葵ちゃんなんのことかわかる?」


 私は「わかんないです」と答えたが、心の中では百合さんにリードしてもらう妄想を、始めようとするがなんとか理性を保つためまた、首を横に振り払う。


「そっかわかんないか、まぁいいかそれで葵ちゃんが私に話したいことって何?」


 百合さんは少し残念そうに問いかけてきた。

 私はこのまま告白する勇気なんてないので、とりあえず世間話として昨日のお礼をしてみる。


「百合さん、その昨日はありがとうございました」


 百合さんの表情はきょとんとしていた。


「昨日私何かしたっけ?」


 ここで何かカッコいいセリフが言えたらよかったのだが、そんなもの思いつかないし、たとえ思いついたとしても私にはそんなセリフを言えるほどの心構えができてはいない。


「スマホ拾ってくれたじゃないですか、それに他にも色々してくれましたし」


 そんな訳の分からないお礼にも百合さんは、優しく返してくれた。


「ふふ、そんなことでお礼言ってたら葵ちゃん精神的に持たないよ」


 私は心の中で、こんなことでお礼言うのは、百合さんに対してだけですよと呟き、決心をした、ここで好きだと伝えようと。

 私は深呼吸をして息を整え終わると、百合さんに眼をきっちりと合わせて真剣な表情で喋りだす。


「百合さん私が本当に」


 私の言葉をわざと遮るかのようなタイミングで電話の着信音が鳴り始めた。

 鳴っていたスマホは百合さんのものだった、百合さんはスマホを持ち上げ私に一言「ごめん彼氏からかかってきちゃった」とだけ言って部屋を出ていく。

 ただ部屋を出ていく百合さんの表情は、とても暗く下を俯いていた。


 百合さんが部屋を出ていった後、なぜだかはわからなかったが、私の眼から涙が一粒落ちていった、その後もまた一粒そしてまた一粒とどんどん涙が垂れる速さが上がっていく。

 私はいつのまにか号泣してしまっていた。

 多分下にいるであろう百合さんには聞こえないように私は静かに泣いた。

 すると部屋のドアが開き声が聞こえてくる。


「葵ー、お姉ちゃんなんか慌てて下に降りてきたけど、何かあったの?」


 向日葵はそう言い終わると私の顔を見て「どうしたの?」と言いながら驚きの表情で私に駆け寄ってくる。


「何があったの? 話せる?」


 そう言いながら向日葵は机に置いてあるテッシュ箱から、何枚かを抜き取り私に渡してくれる。

 私は渡されたテッシュを受け取り涙を拭いていく、どれだけ拭いても拭いても涙が出てくるのは止まらなかった。


 すると向日葵が私の体を優しく包み込むように抱きしめてくれた。

 その温もりを感じていると、さっきまで収まる気配がなかった涙がだんだんと収まっていく。


 完全に涙が収まったタイミングで、私は向日葵に一言「ありがとう」と向日葵の顔を見ながらそう言った。


「別にお礼なんていらないから、それで何があったの?」


 向日葵は少し照れながらも、すぐに内容に踏み込んできてくれるので私は、気負うことなく話し始められた。


「向日葵が部屋出てって少し経ったぐらいに、私百合さんに好きって言おうとしたのでも、そこでタイミング悪く百合さんに電話がかかってきちゃってね。しかもその相手が彼氏さんらしくて」


 私はなんとか何があったのかを向日葵に伝えきったのだが、伝えきった直後にまた涙が少し流れてくる。


「お姉ちゃん彼氏いたの? 知らなかった」


 そう言い終わると向日葵は、私の肩にゆっくりと手をついた。


「葵ごめん! 彼氏がいるのに色々煽っちゃって、結局葵を悲しませる結果になってたと思うと、本当にごめん」


 向日葵は何も悪くないのに、向日葵自身もなぜかとても悲しそうな表情をしていた。


「向日葵は何も悪くないよ、そもそも昨日会ったばっかりの人に思いを伝えようって言う私の考えが間違ってたんだから」


 これは私の本心、私は自分自身にそう言い聞かせる、すると向日葵は私の眼をしっかりと見ながら、私の思いを搔き消すかのように喋りだす。


「そんなことないよ、だって人が人を好きになることなんて普通のことだもん。それに好きでいた期間なんて関係ないよ、結局はその人のことがどのくらい好きなのか、ただそれだけのことだと私は思う」


「でも百合さんにはもう相手がいるし、私にはもうどうしようもないよ!」


 私は向日葵の意見に凄く納得しつつも、最後に私に張り付いて剥がれない、悩み事を向日葵に強くぶつけてしまう。


「ならとりあえず友達から初めて見たらいいんじゃない? お姉ちゃんが今の彼氏さんのことずっと好きとも限んないしさ、少しずつでもいいからお姉ちゃんに近づけばいいんじゃない?」


 強く当たってしまった私のことも向日葵は、優しく包み込んでくれる、そんなように感じる言葉だった。


「友達として?」


「そう友達としてしてでもお姉ちゃんともっと話せば彼氏が、いたとしても好きでいられるのかわかるんじゃないのかな? っていう考えなんだけど、どう?」


 私はその考えを聞くと自然と表情が笑顔になっていくのを、感じながら向日葵を押し倒す。


「ありがとう向日葵! その考えでしばらく頑張ってみるよ、あくまで友達としてだよね」


「うん! 葵が笑顔でいてくれるなら私はなんでも賛成だよ」


 そう言った向日葵は私の顔を見て「ふふ」と微笑んだ、その微笑みに私もつられて「ふふ」と微笑んでいた。

 そんな状況の中、部屋のドアが開き声が聞こえる。


「葵ちゃんごめん、すごい待たしちゃったよね、それで話って」


 そこで百合さんは言葉を切って別のことを喋り始めた。


「ごめん二人でお楽しみ中だったかな? ノックもしないで部屋入ってきちゃってごめんね」


 すると百合さんは「お楽しみー」と言いながらドアを閉じていく。

 私は一瞬百合さんが何を言っているのか理解できなかったが、冷静に今の状況を考えてみるとすぐに理解ができた。

 女子高生二人が二人きりの部屋で一人が押し倒されていて、しかも百合さんからしてみれば私がいない間にと考えていてもおかしくはない。


 私は状況を説明するために百合さんを追いかける。

 部屋を勢いよく出て行き階段に向かうと、まだ階段を降りてる最中の百合さんの姿があった。

 百合さんの姿を見つけた私はすぐさま百合さんを引き止める。


「百合さん待ってください」


 その声を聞いた百合さんは、きょとんとした表情でこちらに振り向いた。


「さっきのは別にやましい気持ちは一個もなくてですね、ただ向日葵にお礼を言いたかっただけなんですけど勢い余って押し倒しちゃった、ただそれだけの理由なんですよ」


 私は本筋に触れないように精一杯言い訳をした。

 すると百合さんは階段をまた降り始めた。


「大丈夫だよそんな真剣に説明しなくても、二人の仲が良ければそれでいいよ」


 その言葉を聞いた私は、何を思ったのか自分でも気づかないうちに百合さんに話しかけていた。


「百合さん私と、友達になってください」


 すると百合さんは友達? ときょとんとしながらも笑顔で答えてくれた。


「私はもう葵ちゃんと友達だと思ってたけどなーまぁ葵ちゃんがそう言うなら」


 百合さんは階段を登り始め、私の前に立つと私の手を握りながら。


「葵ちゃんこれからよろしくね」


 そう言い終わるとまた階段を降り始めた。

 いきなりで動揺していた私は、最後に聞かないといけないことを忘れていた。


「百合さん何回もごめんなさい、その連絡先を教えて欲しいです!」


 すると百合さんは笑顔で「いいよ」と答えて、ポケットからスマホを取り出し連絡先を教えてくれた。

 連絡先を教えてもらった私は、笑みをこぼしながら部屋に戻っていく。

 部屋に戻ると座布団に座り、だらーっとしている向日葵の姿があった、向日葵は私に「どうだった?」と一言聞いてきた。


「なんか私たちの仲が良かったらそれでいいって言ってた」


 それを聞いた向日葵はもっとだらーっとしてしまった、そんなことを気にせず私はそのまま言葉を続ける。


「それとね百合さんの連絡先教えてもらってきた」


 すると向日葵は勢いよく飛び起きて「ホントに?」とあまり疑ってはいなさそうだったが、聞いてきた。

 私が「ホントホント」と答えると向日葵は少し寂しそうに私に寄ってきて、一言。


「やったね」


 とだけ呟いた。

 私はそのまま帰るまでの時間を向日葵と雑談をして過ごした。

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