第四章10 『幼女神と猫箱の魔女と楽園』
異端審問官ハインリヒ・クラ―マーとの戦いを終え、
カグラたちは飛行艇で、元の町に戻ってきた。
いつもの安宿のカグラの部屋。
この部屋にはカグラたち一行と、
幼女女神と猫箱の魔女デュパン。
「……まず、今回の一件について、いろいろと教えてもらってもいいか?」
「はい。異端審問官ハインリヒ・クラ―マーの介入は想定外の出来事でした。本来はカグラさんたちの相手をしてもらうのは、魔女ジャンヌ・ダルクのはずでした。その……私の誤った判断が――彼女を殺しました」
(…………)
「なぜ、俺にジャンヌ・ダルクさんを仕掛けてきたのかは今は聞かねぇ……だけど、それが、どうしてあんなことになったんだ? あの異端審問官とやらの登場を予期できなかったのか?」
「それは、あっちが話すにゃ。異端審問官の登場は女神ちゃんの完全な予想外……。どうやったのかは知らにぇーが監視の網を潜ってこの世界に侵入しやがった。それに、そもそも一連の千子村正とかマルコ・ポーロの戦闘は、カグラたちを成長させるための女神ちゃんの用意していた試練の一つだったにゃ」
「成長させるための……試練?」
「そう、試練。難度こそ高いものの3人で協力して戦えば、絶対に倒せないという類いの相手をぶつけていたにゃ。そのために……他世界の転生者をこの世界に女神ちゃんが招いていたにゃ」
「俺たちを成長させるためって、どうしてそんな試練を与えるんだ?」
「……カグラさん。一つだけ誤解があります。この試練はあなたたちだけに課されているものではありません。この世界に生きる人間に等しく課された試練です」
「なぜ、そんな試練を課す?」
「それは……この世界に住む人々。カグラさん、あなたたちがこの世界で、精一杯一生懸命に楽しく生きてもらうためです」
「楽しく? 俺たちゃ、何度死にかけたか分からねぇぞ?!」
「では――カグラさん。この世界での生活は楽しくなかったと
(女神の言うとおりセレネやソレイユとの冒険は楽しいと感じていたのは事実だ)
「…………っ」
「……カグラさん、あなたが今抱いている気持ち。それが答えです。私はこれ以上は語る言葉を持ちません」
(……否定はできねぇな)
カグラの頭の中はぐちゃぐちゃだが、それでも
心を落ち着けて、確認しなければいけない事を聞く。
「世界の人間に課された試練。それの終着点はどうなっていったんだ?」
「本来の筋書きはこうです。……この世界に暮らす誰かが冒険を順を追って達成し、最上位階層――つまり、私のもとにたどりついてもらい――そこでラスボスとして控えている私を倒してもらう。こういう筋書きでした」
「ラスボスって。それじゃまるで、ゲームみたいじゃないか……?」
「はいカグラさんの言うとおりです……。今となっては、そうですね。もちろんそう思われないように緻密に計算されていたのです。ですが……」
女神の言葉を遮って、デュパンが続ける。
彼女の友人として、これ以上見てはいられないう判断だ。
「カグラ、おまえの気持ちはわかるにゃ。だけど、これ以上女神ちゃんを責めないであげてほしいにゃ。女神ちゃんの存在は、全てはこの世界の人間のための行動だったのは事実にゃ」
「いえ、デュパンさん。……カグラさん達が言うことももっともです」
「……本来の筋書きで、女神を倒していたらどうなっていたんだ?」
「私を倒した人間には、ある……二つの選択肢を提示する予定でした」
「……二つの選択肢?」
「はい。新しい世界で一から始めるか、この世界にとどまるかというものです。それをかなえるための権限を私は与えられています」
「……元の世界に戻るっていう選択肢は存在しないわけだな?」
「残念ながら……
女神は、強い言葉で言い切る。
(不可能……?)
「なぜ……できない?」
「すみません。私はあくまで創造主の代行者……その理由までは知りません」
「おい――カグラ……調子に乗って女神ちゃんに尋問始めるんじゃねーにゃ。ぶち殺すぞ」
ギロリと
デュパンはため息をついた後に言葉を続けた。
「だいたい、おまえたちはもしあそこで女神ちゃんとあっちが助けていなければ、全滅していたにゃ。その点をまず理解すべきにゃ」
(……二人が助けにきてくれなければ死んでいたのは事実だ)
「そうだな。女神とデュパンの主張は大体分かったよ。……んで俺たちがこの世界に転生させられた理由は何だ? この世界は一体どういう世界なんだ?」
「前者のあなたたちがこの世界に転生させられた理由は……知りません。後者なら答えられます。この世界の機能は……楽園」
「楽園?」
(――こんなに化け物があふれる危険な世界が?!)
「そう……。転生前の世界で理不尽な人生に
一旦間を置いて、言葉を続ける。
「所詮、私は代行者です。私に答えられるのはここまで。カグラさんたちに隠している訳ではありません。……別にカグラさんたちを煙に巻いているつもりはありません。創造主と直接会ったことは私もないので、知らないのです」
「……彼女は嘘は言ってないにゃ。カグラ、これでおまえは満足にゃ? 本来はこの世界に暮らす人間が知るべきではない情報まで女神は伝えているにゃ」
(……創造主に女神に楽園。訳が分からねぇ……)
「ふん。それで、カグラ。一おまえたちはこれからどうするにゃ? 本来はこの世界のデウスエクスマキナ……ラスボスとして控えていた女神ちゃんや、あっちがこうやって出しゃばってきたにゃ。つまり、もうおまえたちがどーこーできるレベルの問題じゃなくかっているってことにゃ」
「少し……考えさえてくれ。正直、いろいろな情報で頭が混乱している」
「……おまえにはもとより何も期待していないにゃ。好きにすればいいにゃ」
双方とも、余裕がないせいか
っているのは明らかであった。
険悪な雰囲気のままで、時間だけが過ぎていった。
「カグラ……ちょっと頭に血がのぼりすぎデス。いったん外に出て頭を冷やしましショウ」
「ボクもそう思う。カリカリしすぎにへ。カルシウム足りてないんじゃない?」
「すまない。確かにそうだな。ということで、女神、デュパン。俺たちは一旦、外で頭冷やしてくるわ。……女神……いろいろ質問責めにして悪かった。ごめん」
*****
「さっきの女神への態度、カグラらしくなかったにへ」
「そうですよ、カグラどうしたデスか?」
「……俺は、目の前で一人の女性をみすみす死なせてしまった」
「ジャンヌ・ダルクさんのことデスね……」
「ああ。目の前で存在が砕けたガラスのように砕け散った……俺が力が足りないせいで、救えなかった」
「カグラだけのせいじゃないデス……。力の無いワタシたち全員の責任デス」
「それを言うなら……ボクなんて……最初から最後まで何もできなかった」
ソレイユは、自分自身が今回の死闘において、
一切の力になれなかったことがよほど
悔しかったのか、瞳に涙を
「カグラ、しっかりしてくだサイ。……非常事態で余裕がないのは女神さんたちも同じデス。確かにワタシたちは女神やデュパンさんと比べれば非力かもしれない。だけど、できることはあるはずデス」
「……俺たちでもできること?」
「そうそう。カグラらしくないにへ。いつもの根拠のない自信のカグラに戻ってくれなきゃこっちの調子が狂うにへぇ」
「そうデスよっ! ほら、笑顔……苦しい時こそ笑顔」
(俺、そんな辛気くさい顔しているのか……情けねぇな)
「……こ、こんな感じかな?」
「……うーん。30点。ブサイク。まぁ、赤点だけど努力は認めるにへ」
「プッ……カグラ、変な顔デス」
(……こいつらには、いつも救われてばかりだ。せめて空元気とハッタリくらいはみせてやるのが俺の役目か)
「セレネ、ソレイユ、ありがとな! 馬鹿の考え休むに似たり。まったくもってその通りだな」
「そーにへ。それでこそカグラにへ」
「俺みたいなアホが小難しい事考えても仕方ねぇ。あとで、女神とデュパンにわび入れて、何か俺たちで、できることが無いか聞こうぜ。なに、三人なら何かできることもあるだろうよ」
「了解デス。まずはお
「それがいいにへ」
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