第四章11 『ギルドと女神と魔女と人-1』

 カグラたちは、幼女神と、猫箱暴きの魔女デュパンの

 待つ宿へ向かう。


 宿に向かうのはカグラと、ソレイユ、セレネと、

 そして――ギルドの職員。

 

 この戦いは、カグラ達だけでは手に負えないと

 想定しての判断。ギルドにおいて最も

 信頼のおける窓口のおじさんに声をかけた。


 事情を説明したら、午後半休を取り、

 話を聞きに駆けつけて来てくれたのだ。


「さっきは、取り乱して悪かった。改めて詫びる《わびる》……。すまなっかた。その上で改めて相談があるのだけど、いいか?」


「こちらこそ、力足らずで申し訳ございません。……そして、そちらの方は?」


 ギルドの職員は、女神に向かって軽く一礼をする。

 カグラは目の前にいる幼女がこの世界の女神ということは

 事前に説明している。それを知った上でなかなか堂々たる態度だ。


「このおっさんは、俺たちがいつもお世話になっている、ギルドの職員だ。俺たちだけでは力不足というなら、ギルドの力も必要だろ。この世界の戦闘職のほとんどがギルドに所属している。だから呼んできた。どこまで話して良いのか分からねぇから、細かい事までは話していねぇ」


「ふん。ギルドの連中ねぇ……。有象無象が増えても、いたずらに戦場に死体の数を増やすだけにゃ……。ギルドとやらで金のために働いているやつに、その覚悟はあるのかあっちにははなはだ疑問にゃ」


 50代も半ばのギルドの職員はにこやかに語る。

 相手が誰であれ、対応を変えない辺りはさすがだ。


「ははは。その点は心配は要りません。ギルドに所属しているハンターたちは皆、命知らずの馬鹿者ばかりです。特に……この世界に転生する前に勇者をやっていたと語る人たちは、血の気が多すぎる、死にたがりばかりで、頼まなくても死地に赴くので、こっちの方が手を焼いているくらいですよ。ははは」


(まあ……その勇者を死地に送っているのはこのおっさんだが)


「そういうわけで、だ。俺たち三人以外にも、この世界を守ろうとする戦力は沢山いるってわけだ」


「ははは。ギルドの職員として、質は分からないですが、球数は保証しますよ。命知らずの馬鹿者の紹介であれば、いくらでもできます」


「点で駄目なら、面でぶつかれって趣向だ。この世界と異端審問官との総力戦のぶつかりあいを行う! そもそも……この世界は俺たちのものだ。責任をほっぽりだして、女神とデュパンだけにあいつらを任せようとと思ってはいねぇぜ」


「カグラさんの意見にギルドとしても同意しますよ。世界の危機と言うのであればギルドも全面的に協力しますよ。元々そのためのギルドですからね」


「ありがとうございます」


「……それに血の気が多い元勇者たちなら、金を払ってでも参戦したいと言いたがるでしょうね。あいつら、脳筋ですからねぇ。ははは」


「……ですが」


 幼女神は、カグラたちの申し出に困惑した表情


「女神ちゃんの代わりに……あっちが代わって言ってやるにゃ。あいつらに殺されるという魂の死を意味するにゃ。その意味をおまえらは理解していないにゃ」


(……魂の死?)


「デュパンの言うとおりです。彼らがもたらすのは、肉体としての死では無い……魂の死。魔女ジャンヌ・ダルクの肉体を復元してもその存在を助けられなかったように、彼らは魂を犯し殺す存在。魂が死ぬという事は、輪廻りんねの枠から外れるということです」


「そうにゃ。存在の消滅にゃ」


「肉体が死んでも魂があれば、輪廻りんねを巡り、また新しい世界で生をやり直す機会は訪れるでしょう。ですが魂が死ねば、そこで終わりです」


「まっ、100年ぽちしか生きない定命の人間には、想像が難しいことだろうけどにゃ」


「確かに理解はできねぇが、凄いやべえってことは理解した。それなら、なおさら総力で掛からなきゃいけねぇじゃねえか。この戦いに負ければこの世界が終わるんだろう? それにそこの幼女神は戦いはできねーんだ。それなら……少しでも勝率を上げるために、この世界の総力を結集するしかねぇだろ」


「カグラさんの言うとおり、私は戦力になりません。地上での戦力はカグラさんたちとそう代わりません。……私が最大限の力を発揮できるのは、この世界の最上位階層でのみ。……そして、それも異端審問官ハインリヒ・クラ―マー相手には通用しないでしょう」


「だから。カグラ……あっちが一人いれば大丈夫だって言っているにゃ!」


「確かに、デュパンお前は強い。それはクラ―マーとの戦いを見ている俺も理解している」


「分かっているじゃにゃいか……」


「そうだな。確かにお前なら、あの化け物相手でも互角の戦いができるんだろうよ。……だけど今回の戦いでそれを知られてしまった。つまり、今後あいつが襲撃する時は複数人、またはお前を倒すための入念な準備をするだろうな」


「……にゃっにゃぁ……」


「……あの異端審問官ハインリヒ・クラーマーとやらが言っていたが、あいつらの第一目標が幼女神なんだろ? もし複数人で襲ってきたら、デュパンは女神を守れると言い切れるのか?」


「それは……言い切れないにゃ。ぶっちゃけ前回も本気で戦っていたにゃ。仮にあのクラスの敵がほかにもいるとなると、守り切れる自信はないにゃ」


(……こいつも話せば分からないやつでもないということか)


「だからそれに備えて共闘だ。あいつの私怨というか、逆恨みなのだが……第二目標は俺たちだ。つまり、あいつを引きつけるための良い撒き餌になるっていうわけだな」


「う……にゃあ」


「仮に複数人で襲撃してきたら、各個撃破。またあいつが一人で襲ってきたら、その時は、この世界の人間達たちの総力戦で攻撃する。これでどうだ?」


「超……危険な戦いになるにゃ。だけど手伝ってくれると助かるにゃ。……いまさら助けて欲しいというのは都合が良いかもしれにゃいけど、もし助けてくれるなら助かるのは事実にゃ」


 プライドの高い猫箱暴きの魔女デュパンが、

 深々と頭を垂れ、ただの人間であるカグラたちに助けを乞う。


(デュパン……結構良い奴じゃんか)


「お願いなんてしてくれなくたって、元々俺たちの世界を守るためだ、むしろこの世界に関係のないデュパン、お前が助けてくれている事に俺は感謝しているよ」


 カグラは、目の前でバツが悪そうに意気消沈している、

 猫箱暴きの魔女デュパンを励ますためにそう言った。

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