第四章8  『魔女に鉄槌を下す者』

 飛空艇で指定座標にたどり着いたカグラ。

 ここは、魔女ジャンヌダルクとの決闘の地。


 ――だが、既に何者かが戦闘を始めていたようで、

 辺り一面に一面に強い死の気配が立ちこめている。



(一体、何が起こっている……?)


「カグラ………1キロ先の地点に熱源反応2。行きマスカ?」


「ああ、まずは向かおう……」


 カグラ達は、その熱源に向かって歩みを進める。

 あちらこちらに激しい戦闘の跡。

 ここで、激しい戦闘が行われたことは疑う余地はない。


(いや……戦闘というよりも、これは戦争だな)


 数百メートる先に何かが燃えている……


(……あの形状は、十字架?)


「カグラ、生態反応2。ただ……片方が虫の息デス……」


「セレネ。戦闘準備を、ソレイユも詠唱準備を」


「了解にへぇ!」


 十字架まで50メートル、カグラ達の肉眼で、

 その光景が異様であることが一目で分かる。


(……十字架に架けられた女性が燃やされている?!)


 カグラは、正確な状況を把握してはいなかったが

 とにかく駆けた。状況的にこの目の前の男が、

 女性をはりつけにして火をつけているのは明らかだ。


「――忍冬すいかずら


 神楽流祭法、足刀の型――忍冬すいかずら

 その蹴りが、目の前の男を捉える。


(――なに?!)


 カグラの水月を狙った足刀は男の片手で受け止められる。

 まるで、鋼鉄の扉でも蹴っているような感触。


「……ひひひっ。。あなたが、カグラさんですねぇ」


「ああ……、そうだ。俺がカグラだ」


「あの奇跡の法廷とやらで、解釈の魔女プルガトリオを粛清するのを、邪魔したあなた達を裁きにはるばる大法曹界からやってきた異端審問官ハインリッヒ・クラ―マー。別名、魔女に鉄槌を下す者です。どうぞお見知り置きを」


「クラ―マー……あのロンギヌスの槍の仕掛けをした奴か」


「はぁい。……そうです。確実に殺せるはずだったんですが残念ですよ」


 カグラはクラ―マーに向けた足刀を、

 地面に戻し、バックステップで距離を取る。

 この男は今までの相手とは違う、妙な違和感。


『……して』


(……。かすれているが、女性の声?)


『……ろ……して』


 カグラの耳にも聞き取れた。その声が十字架に

 架けられている女性からの声であるという事に。


「ひひひ。駄目ですねぇ……まだ半日燃えているだけじゃないですか? その位ではあなたが人間である疑惑が晴れないですよ。だから殺してあげませぇん」


 体全身が破損し、辛うじて人型を保っている。

 燃え続けながら生きさせられている。

 さながら地獄の刑罰の再現である。


「……あの十字架にはりつけにされている女性は誰だ」


「魔女ジャンヌダルクを騙る者です。ただ、異端審問官の私としては確信が持てないので、人間か魔女かを見極めるために18個ほどの実験をさせていただきました」


「てめぇ……それでも人間か?!」


「ひひひ。まあ……一応そのつもりですが」


 カグラは背中に背負ったソードオフガンを引き抜き、

 引き金を引く。既に弾丸は装填済みである。


 チン、カラン。空薬莢がソードオフからはじき出される音。

 つまりすでに、カグラの銃口は火を噴いている!


 ――ズドン


「……ぐほ」


 ホロウポイント弾により、クラ―マーの脇腹の肉と骨が

 引き千切られ、脇腹に半月上の穴が開いている


(……やったか?!)


「ひひひ。なあんて……ね」


 まるで催眠術をかけるかのようにタリスマンを

 左右にゆらぁりゆらぁりと揺らすと。


 まるで何もなかったかのように服も肉体も

 元通りの状態に戻っていった。


「カグラ……クラ―マーから、反魔法の反応。……あのタリスマンは超実在物質フラグメンツデス。あらゆる超常的な現象は無効化されマスッ」


「あのタリスマンは遺跡で見つけた鏡と同じような物質というわけか」


(……本当はなぜこの男がそんな物をなんで持っているのかと聞きたいところだが、そんな余裕はなさそうだ)


「……ソレイユ。聞いての通りだ。こいつの反魔法と、お前の魔法の相性は最悪だ。先に飛空艇に戻って、マルコポーロに離脱の準備をさせろ」


「了解。ボクは一足先にお暇するにへ」


 ソレイユはそう言うと、カグラ達を背に飛空艇に駆ける。

 飛空艇までは約、1キロメートルほど。


「おやおや、お仲間さんはいち抜けですかぁ。随分と薄情ですねぇ」


「……セレネ。マシンガンを掃射っ!」


「ラジャデスッ……!」


 肩にしっかりと固定し、弾幕を男に直撃させる。

 だが、クラ―マーはこの銃による掃射を回避する。


(……それで良い。お前が逃げた方向は!)


白檀びゃくだん――茉莉花まつりか――夕影草ゆうかげぐさ

 

 神楽流の三連撃の蹴りのアーツ。

 白檀が、クラ―マーの水月を抉り、

 茉莉花が肋骨を粉砕し、夕影草が気道をすり潰す。


 ――高速の殺人拳を全身に受け、きりもみ状に吹き飛ぶ


 カグラの足底に男を蹴り飛ばした確かな感触。

 確実に男の急所を砕いていいる感触。


「……っひゅう……」


 気道を完全に潰したのだから、喋れるはずは無い。

 肋骨も砕き、水月にも足刀をお見舞いしている

 のだから、まともに呼吸することすら

 おぼつかないはずである。


 ――だが、この男は立っていてる。


 また、あのタリスマンを揺らそうとしているので、

 先手を打って、その腕をカグラは蹴り上げる。


(……これで、奴の再生は防げたか?!)


 ニヤリと不気味な笑みを浮かべているが、

 気道を潰されたせいか、無言で近づいてくる。


 ……ひたり……ひたり……


 一歩一歩、踏みしめるように確実にカグラの元に近づいて来る。

 ……カグラまでの距離は、2メートル。


(……相手が近接戦を挑むのであれば攻勢結界に頼るまで)


 クラ―マーと、カグラの距離は30cm

 ――攻勢防御結界の異能が発動っ!


 カグラの体が淡く光り、反撃の結界を生みだす! 

 クラ―マーとの距離は……0cm。


 クラ―マーの何らかの力によって防御結界が……

 バリバリと音を立て、硝子のように砕け散る。


 ニヤリと、笑みを浮かべたままクラ―マーは

 カグラの右腕を掴み、万力のような力でしめつける。


 ギリギリとカグラの骨が音を立て、ヒビが入る。

 ただ手で掴まれているだけなのに、まるで

 工業用機械で潰されているような感触が伝う。


(……何なんだ、この馬鹿力、振りほどけねぇ)


 右腕を掴んだまま、カグラを地面に叩き付ける。

 地面に高速で叩き付けられる。


 ――カグラは枳殻からたちで受けきるが、

 それでも全身を襲うダメージは深刻だ。


 状況が予断を許さない状況であることを

 理解した、セレネが、カグラにあてるリスクを

 承知の上で、マシンガンを掃射し弾幕をぶつける。


 ――クラ―マーはこれを回避。


 回避行動の際に、カグラの腕を離したため、

 カグラの身体は自由に動くようになった。


「セレネ……ソレイユは飛空艇に着いたか?」


「データリンクによりソレイユの飛空艇への帰還を確認ッ!」


(……最悪の自体は免れたみたいだが、さてどうした物か。とにかくあのタリスマンを揺らせるのはかなりまずい……やはり俺がおとりになるしか)


 ――その刹那。カグラの足元に、巨大な影。

 カグラは、空を見上げる。飛空艇!


『よおそろおおおおおっ!! 取舵いっぱい! 全砲門開け! 標的はあの不気味な男。……カグラにセレネは巻き込まれるなよおおおおうそろぉっ!!』


 巨大な鉄球が空中から、滅茶苦茶に放たれる。

 その巨大な砲弾の内の一つが

 クラ―マーに直撃し、岩壁に叩き付けられる!


 ――砂煙で、クラ―マーの姿を見失ってしまった。

 

 だが、高高度から高速で落下する巨大な質量の鉄球を

 生身で受けて、生きている人間が存在するはずがない……。


「ひひひ。いまのはなかなかに痛かったですよ。さて……そろそろ君たちに尋問をしましょうかねぇ? さあ、最初の質問です。あなた方は、人間ですか、魔女ですか? ひゃーっははははははははっ!!」

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