第三章9 『介錯の魔女プルガトリオ』
「検察側、ここは奇跡を問う法廷です…………今更、そんなちゃぶ台返しが通用するはず…………。裁判長として超越者権限を行使、大法曹界に、裁決を…………嘘ッ…………そんな、有効?!」
「裁判長殿、当然だ。何故なら、被告人当人が法廷闘争継続の意志を認め、そして、それを裁判長殿が、記録してしまった。裁判長殿と言えども、大法曹界の決議を覆すことなどは不可能と知り給えっ」
「く………っ、検察側、再審請求有効。よって、被告人カグラ、被告人ソレイユ、あなた方は再度証言台に立つことが義務付けられました」
「っ…………っなんだと。プルガトリオぉおおおおおお!!!」
「ボクとした事が、魔女の性根、侮っていたにへ………」
先ほどまで傍聴席最前列に座っていた二人の足首には、いつの間にか白金の鎖、それが、引きずり強制的に舞台上に引きずり上げる。そして無限に続くような高さの天井から、証言台が目の前に墜落。こうして、被告人カグラ、被告人ソレイユは再度、尋問を受けることとなった。
「おい。解釈の魔女プルガトリオ、お前との勝負は既についた筈だ、この期に及んで今更何をしようって言うんだ? 奇跡の証明、悪魔の証明、それでも貴様はまだ俺に何か告発することがあるというのか?
「ふふふ。確かになぁ。解釈の魔女としてのお前の勝負はお前の勝ちだ、だが介錯の魔女としての決着はまだついていないのでなぁ…………。くっくっくっく」
「ふざけた戯言をっ! 解釈だか介錯だか癇癪だか諧謔だかしらねぇがまとめてなますにしてやらぁっ!!」
「はははははっ! 面白い。それでは、検察側、介錯の魔女プルガトリオ、第一の断罪ぃっ!! 被告人カグラへ刑事訴追だ。罪状は傷害罪。ふふふ、ドクサレカグラの記憶映像では語られなかった真実をこの、猫箱が証明するであろうさ」
「ぐぅ…………………刑事訴追だ、とっ」
「何を驚いている。確かにこの法廷の争点は『奇跡乱用罪』、だが、私は検察官。つまり刑事事件の断罪も可能ぅ? ドゥーユーアンダスタンっ?! しかも、検察側の刑事訴追を受けることを愚かにもドクサレカグラは受け入れてしまった。そして、裁判長殿も記録し、大法曹界もそれを認めた。くっくっくっく。だから、これは正当な法の裁きなのだっ!! きゃーはっはっはっはっ!!!」
そのプルガトリオの声を最後まで聞き届けた弁護人グレンデルは冷めた声で斬りつける。
「おい、プルガトリオ。貴様の矜持はどこにある? 優雅なる魔女としての矜持、そして検察としての矜持はお前のどこにある?…………少なくともな、貴様の中にあるその美学のような物について、私様は評価していたんだぜ。それが、こんななりふり構わぬ醜悪な手段まで使うとは、見下げ果てたぞ、魔女っ!」
「ふふふ。超常なる力を持つとは言え、所詮は定命の子の価値観だな。グレンデル。矜持などは一切不要。美醜については、全ては勝者が決める物だ。よって、どんな汚い手を使った勝利であったとしても、勝ってしまえば同じこと。あとは、長い長い時間をかけて、その醜い記録を消していけばいいだけの話さぁ。そして、その記録を観て、あとは後世の歴史家がいかにでも綺麗な物語に造り変えてくれるだそうさぁ」
「…………っカグラ、ソレイユ。すまねぇ。これは、私様のプルガトリオに対する油断のせいだ。その油断が、お前たちを再び法廷に立たせるような結果を招いてしまった。心から詫びる。すまねぇ…………この失態、謝っても、謝り切れねぇ」
「そろそろお喋りは良いかな?検察側、介錯の魔女プルガトリオ、第一の断罪、カグラの傷害罪を告発。さあ開け……猫箱よ! カグラの傷害罪を暴くのだ! 朽ち果てて、死ねゴミカスカグラぃあああああああああ!!!」
黄金の宝石箱が開くと、そこから黄金の光が法廷全体を包み込む。傍聴人を含む、法廷内の全員に猫箱が開示する記録映像が脳内に投影される。…………猫箱がの記録映像は、少女が複数の青年たちによって暴行される直前の映像。
【【【未成年の少女、映像では強姦される直前のようだ。全身の服は男たちに脱がされ、女性の体には複数個所に痣を確認。抵抗の際に受けた傷害と思われる。状況証拠から合意の上での性交渉ではない事は明らかである。
その女性をを3人の男が取り囲む。男の内の一人は女性の上に跨っている。そこに、狐面を被ったジャージ姿の少年が現れる。この少年はカグラだ。その少年は一切の言葉を発さず、終始無言。取り囲む男の内の一人に近寄り、左腕を腕ひしぎにより完全に破壊。医師の診断によると左腕粉砕骨折。
仲間の危機を察したもう一人の男がナイフを構え、これを振り降ろすがカグラはこれを軽くいなし、脇腹に足刀を抉らせる。医師の診断によると肋骨の粉砕骨折。
3人の内の2人を倒された男は、女性の首元にナイフを突きつけ脅す。カグラはその言葉に従い両腕を上げる。男は、にやりと笑みを浮かべナイフ片手にカグラに襲いかかる。
カグラはそこから一歩も動かず、そのナイフを古武術の演武を披露するかのように捌き、男の顎部に掌底を決める。医師の診断によると下顎骨骨折。男は当面の間は流動食を余儀なくされるであろう。そして、狐面の男は女性の安全の確保を確認すると、無言で立ち去っていった】】】
「くっくっく。見えたかっ! この映像! これが全てを暴く猫箱の力ぁ!! やはり、カグラは犯罪者であったな。よって、検察側の主張、被告人カグラの傷害罪わぁ!! 有効っ!! 被告人カグラは卑劣にも仮面を被り、夜な夜な傷害事件を繰り返す、血に飢えた獣であった。それは本件の記録映像からも明らかである。故にぃ?! 証拠物品を提出『左腕粉砕骨折』、『肋骨骨折』、『下顎骨骨折』。全ては、医師の診断書という客観証拠のお墨付きだぁ。犯罪者め! それにしても、この記録映像にはダンダリオンがこの猫箱では見えぬが、どこに消えたやらのぉ?」
「俺は、検察側のプルガトリオの主張に異存はねぇぜ。ソロモン72柱は、その存在を知るものにしか見えない。だからこの記録映像自体には問題がない………そしてこの記録映像は確かに真実を記している。俺も俺自身の罪は、いつかは司法により裁かれなければいけないと思っていた。故に、プルガトリオ、お前の主張は正しいと認めるぜ。いかなる理由があれ、俺が彼等に怪我をさせたというのは消せない事実だ。俺は検察側の主張を正しいと、認める」
「ふん、つまらぬな。あっさり罪を認めるとはな。妾としてはなんとも興覚めよ」
「…………。弁護側グレンデル、カグラの『正当防衛』を主張。この記憶映像は全て事実を映している。そして、この映像の中で、少女は明らかに複数の男性から強姦される寸前だった。それは体の複数の打撲痕からも明らかである。よって、カグラの取った行為は緊急避難に該当。正当防衛が成立する。ここまでは裁判長ちゃん問題ないか?」
「弁護側、主張、有効。説明を続けなさい」
「弁護側、続ける。なお、正当防衛は、被救助者が本人であるか、親族であるか、他人であるかは一切関係なく適用される。なおかつ、この記憶映像が示す通り三人の男のうちの二人の男が刃物の所持を確認。これが致命的だ。カグラは一切の凶器を保有していない。つまりは凶器を保有していない丸腰の少年に対し、少年たちは凶刃を振るったことになる。つまり、彼等の行動は、銃砲刀剣類所持等取締法違反、殺人未遂罪、に該当。その認識で間違っていないな、裁判長ちゃん?」
「弁護側の主張は………。引き続き有効である。この裁判長が保証しよう」
「捕捉するならだ、殺傷能力の高いナイフなどの武器による場合においては、たとえ、被害者が無傷であったとしても殺人未遂罪が成立する。まぁ、被告人カグラの行動も、狐面を被り街の自警団気取をしていたことは、後に職務質問と反省文くらいは書かされると思うが、青春のあだ花ということで処理されると思うぜ。裁判長ちゃん、本件の判決を」
「弁護側、暫し待たれよ………。過去の京を超す同様の判例を照会中。過去の判例と照らし合わせても、弁護側グレンデルの主張が正当と判断。強姦される寸前の少女を救助するための緊急避難対応であったこと、相手が複数人及び刃物を所持していた事を加味して考えると、多少過剰な防衛だったかもしれないが叙情酌量の余地あり。よって、被告人カグラの無罪が確定。よって、検察側の主張を退けます。…………。その報いは…………。幾多の魔女を殺めてきたペンデュラム。このペンデュラムはセイラム魔女裁判で使われた物。命の保証は出来ません、この意味は分かりますね、プルガトリオ」
「ふっ。裁判長殿、構わず続けろ、魔女に確認などは不要だ」
ペンデュラム。振り子のような三日月型の巨大な刃物。魔女を断罪するための拷問道具。それが、解釈の魔女に降り降ろされる。否、そんな生易しいものであれば拷問道具などとは言わない。
プルガトリオの頬を掠め、髪を引き裂き、服を裂き、肩口の薄皮を剥がし、徐々に高度を下げる、悪意の塊のような刃物…………。この拷問道具は、魔女を自白させるために使われた曰く付きの拷問道具。
だが、プルガトリオは一切の言葉を発しない。ペンデュラムの刃は、肩の肉を歪に引き裂き、更に骨も砕いた、そして、最後の振り子の一振りで、プルガトリオの左腕は回転しながら遥か彼方ににふきとんでいった。カグラは、プルガトリオの額に一瞬汗のような物が見えた気がしたが、瞬きをした次の瞬間にはその汗も消え、元の冷たい表情に戻っていた
「検察側、プルガトリオいまだに健在である。裁判長殿、裁判は継続だ」
プルガトリは残った右手で、左肩の傷口を撫でると左腕が白いバラの花びらを散らしながら、まるで何事もなかったように、復元している。喪服のようなドレスも威風堂々と、まるで何事もなかったのようだ
「あいつ、不死身かよ…………」
「ふん。なるほど、これが検察としての…………。プルガトリオ」
「ふふふ。ははっはははっははっ! 魔女に人の道理を求めるな人の子らよ。それにいまの妾は介錯の魔女。故に、罪を犯した犯罪者を法に則り、断罪するっ! 猫箱の真実が、貴様らを苛むのみだ、さあ次は被告人ソレイユ、貴様の罪を断罪する!!」
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