第三章6 『観測された本当の奇跡』
「ふふふ。なんの真似だ。ソレイユぅ。貴様は、アリシアではなく、邪悪なる魔女ソレイユだろぉ。裁判長殿、この実の妹であるアリシアの名をを騙る、ソレイユの証言の真偽を示せっ!」
「アリシアの述べた証言に、偽証反応0、なおかつ真実?! つまり………。弁護側グレンデルが提示した証拠物品が有効化されます。つまり、裁判は継続っ! 両者の証拠物品ともに、有効と判断。よって弁護側、検察側、双方にペナルティーが課されますっ!」
解釈の魔女プルガトリオは胸に手を当て、苦痛に顔を歪める………。胸元に黒い鮮血がにじみ出る、そしてじわじわと血が流れ落ち、黒色のドレスを漆黒に染める。もはや、彼女の血は白いバラには変わらない。
一方で、弁護側も、背中からおびただしい出血。息も絶え絶え、止血のために包帯を巻く、彼女がまだ立っていられるのは、意志の力によるものだ。
「アリシアさん、是から超越者権限を行使します………。私の言葉に虚偽で答えた場合、あなたの存在は永劫の輪廻から消し去ります。良いですね、さあ、アリシアよ答えなさい。あなたはソレイユの妹、アリシアですね?」
「はい。私は、ソレイユの妹、アリシアです」
「彼女の証言は真実。裁判長の私が保証しましょう。彼女はアリシアであると」
「出廷が遅くなり申し訳ございません。異端審問官どもをぶち殺すのに忙しく遅れました。以後、ソレイユの体に憑依したこの私、魔法少女アリシアが全ての証言を行います。それで良いですね、裁判長?」
「裁判長である私が認めます。どうやら確かに……あなたにはその資格がお有りの様だ」
「醜悪なる解釈の魔女プルガトリオッ! 私は同じ魔女としてあなたのような存在がいることを恥じます。私の姉を、私のお姉ちゃんの思い出を汚しやがってぇ!! 私はあなたを絶対に許さないっ!!!」
「ふふふ。良いでしょう。魔法処女アリシアとやら。それでは検察側、解釈の魔女プルガトリオ、それでは優雅で華麗で凄惨なる第三の解釈、第二の解釈を更に掘り下げるた解釈を提示する。貴様の姉のソレイユとド腐れ夫婦の共謀説。証拠物品は『アリシアが偶然耳にしたド腐れ夫婦とソレイユの喧嘩は演技』。卑劣なソレイユは、妹のアリシアに自分だけは信頼にたる味方だと思わせるために、あえて喧嘩を目撃させた。つまりあれは偶然ではなく、仕組まれた偶然っ! あっはっはっは! なんとも邪悪なお姉ちゃんだねぇ、貴様のお姉ちゃんわぁ。きゃーっはっはっはっはっ!」
「………アリシア、こんな屑野郎の言葉に耳を傾ける必要ねぇぜ。これは裁判じゃねえ、ただの私刑だ。私様が、鮮烈に切り返してやる」
「ありがとう。弁護人グレンデル。私のお姉ちゃんの尊厳と名誉のために怒ってくれたこと、本当に感謝しています。私はそれで十分です。だけど、これは私が姉の名誉を守る戦いでもあります。だから、ここは私に証言させて。裁判長っ! 証人である私が、解釈の魔女プルガトリオの『物的証拠』に反証しますが宜しいでしょうか?」
「認めます。アリシア。ただし、宣誓に従い、真実のみを述べなさい」
「《あの事件の当日、確かに私、アリシアは屋根裏部屋に居ました。しばらく部屋で本を読んでいると、階下で大きな怒鳴り声が聞こえてきました。それは、聞いたことがないくらいに大きな姉の怒り声でした。その声が気になったので、私は許可なく屋根裏部屋から決して出てはいけないという禁を破り、階下に降り目撃したのです。姉とあの夫婦との壮絶な喧嘩を。それは、全て、お姉ちゃんが私を守るための闘いでした。そして、あの日だけではなく、記憶映像にない、いかなる時も姉は自分を犠牲にし、私を守ってきました。》それは、薄汚ねぇ、てめぇのヘドロのようなクソッたれ解釈に汚されるものじゃねぇぞおっ!!! クソッたれ魔女プロガトリオおおおっっ!!!!!!!!!!」
「裁判長の私が証人アリシアの証言は全て真実であることを保証します。証拠物品として有効、検察側の証拠物品は棄却。よって、ペナルティー」
解釈の魔女プルガトリオの左手が業火に包まれる。苦悶の表情をあげ、額に汗を流しながら、これに耐える。火傷の後を見せないためにか、魔法で白い手袋を作りだし左手に身に着けた。
「検察側、解釈の魔女プルガトリオ。これ以上の裁判の続行は危険です。これ以上は………あなたの命の保証はできません」
「くぅ…………。はあ、はぁ。解釈の魔女プルガトリオ、いまだ健在。裁判長殿、まだ、続行します。検察側、第四の解釈ぅを提示ぃ………。記憶の混濁、妄想、虚構、幻想、捏造、これはすべてソレイユの生みだした捏造物語、元々アリシアなんて存在しない。証拠物品は『記憶映像全編』、この映像記憶はすべてアリシアの視点で描かれている。ソレイユの記憶を問う映像のはずなのに、なぜソレイユの視点がないのだ。…っはぁ…………。つまり、このことが意味するは……っあ………全てが妄想。……………なんらかの、薬物によ…………ごほっ………………る、幻覚。それが正体」
「弁護側、グレンデルが反証する。魔術と魔力の源泉は知識。そして、アリシアは姉であるソレイユが異界に渡る前に、自身の魔力の半分を継承している。これによって、知識として記憶情報も共有されたと考えるのが妥当である。そして、弁護側からの証拠物品を提出『アリシアからソレイユへの魔力提供』。アリシアが、ソレイユへ魔力を提供するということは、知識情報を提供するということ。つまり、アリシアしか持ちえない知識や記憶がソレイユに流れ込んでもなんら不思議はない。弁護側の反証は、以上だ」
「…………。千日手。検察側、弁護側、双方の証拠物品が同等量の信憑性を保有。よって、双方にペナルティー」
検察側、解釈の魔女プルガトリオの左右の腕の関節が壊れた人形のようにあらぬ方向に曲がり、折れた骨が皮を破り………。黒い鮮血はもう………鮮やかな花を咲かせることはない。
弁護側は、脇腹を両手で抑え顔を歪める、脇腹からおびただしい出血。抑えても、血の流れを止めることは叶わない。…………全身を伝う脂汗が、その苦しさを伝えるのみ。
「裁判長として告げます。これ以上の裁判の続行は不可能。これ以上は、弁護側、検察側、双方の命を保証できません。よって、本日は閉廷とし、被告人ソレイユの尋問は、別日に延期。これ以上は、裁判長として見過ごす訳にはいけませんっ!」
「検察側、解釈の魔女プルガトリオ。………断るっ………。裁判長殿、妾の第五の解釈は一瞬で済む。だからこのまま裁判は継続だ………。頼む」
「弁護側、グレンデルも同じく断るぜっ! アリシアが、実のお姉ちゃんソレイユの名誉を一生懸命に守ろうとしているんだぜっ! そんな大一番で活躍できなくてなにが弁護人だっ! 私様の命の火が燃え尽きるその最後の瞬間まで、俺はソレイユの、アリシアの奇跡と、名誉と尊厳を守ると誓うぜっ!!」
「……………っ! 裁判、継続。ただし、次の尋問を最終尋問とします。検察側、速やかに解釈の提示をっ!」
解釈の魔女プルガトリオは、ニヤリと笑い、ドレスの胸元から何かを取り出す。銀色に光るそれは……………。マシンピストルッ!
魔法を否定する銃を魔女が携帯する異常事態。魔女にとっては触れるだけで、大火傷をするほどの代物。それをこの公判中肌身離さず隠し持っていたということは、激痛に耐えながら、この裁判に立ち会っていたということに他ならない。
何が彼女をそのような行為に駆り立てるのかは分からない。狂気か、悪意か、いやそれよりも……………。
「検察側、解釈の魔女プルガトリオ。これが妾の最終解釈だ。アリシア、奇跡。起こして見せなよ。今から私がこの銃を放つから、それをあんたの魔法で止めてみなよ。……………もしもできるのならなぁあああああ!!ぎゃははははっはははっ!」
「その引き金を引き、私に向かって撃ちなさい。それで、奇跡の実存が示せるというのであれば、私は、それをやり遂げる…………っ」
解釈の魔女プルガトリオが引き金を引くと、魔女の指は魔法を拒絶する反魔法力により人差し指を起点として、炎に包まれる。だが、確実にプルガトリオが放った弾丸は今も、銃口から射出され続けている。そして、それは間違いなくアリシアに向かって一直線に向かって進んでいた。
だが、弾丸はアリシアの展開した魔法結界に妨げられ、減速するがっ………完全に弾を止めるには至らない。アリシアの額に汗。もしこれができれば、お姉ちゃんを守ることができる。私が真実の魔法を使うことができれば、きっとお姉ちゃんの尊厳を、名誉を守れる。そして一緒に冒険に………。
そして、その時、確かに奇跡が起きた………。それは、アリシアが行使する超常なる魔法による出来事の事ではない。あの日、あの時に起きた、本当に…………真実の魔法よりも尊い………本当の奇跡。アリシアは自分の体を包む優しい気配に気づく。そして、鮮明に思い出す。
アリシアの命を守るために、ソレイユが自分を肉の盾とするために覆いかぶさる。そのソレイユの行動があまりに自然すぎて、傍聴人の中には目撃しながらも目の前で何が起きるのか理解できない者もいた。そう、覚悟でも勇気でもない。ソレイユにとって、妹であるアリシアを身を呈して守ることがあまりにも、自然なことであり、当然のことだったから………。
確かに、この光景は幻影。だけど、それは、裁判長、弁護士、検察、傍聴人、全ての瞳に、ソレイユがアリシアを命を賭して守る姿が見えていたのだ。そして、それが誰の目から見ても奇跡であることが理解できた。それは、解釈の魔女プルガトリオにしても例外ではない。本当の奇跡は、魔女の解釈ですら汚すことはできないのだ。
そして、解釈の魔女プルガトリオが放った弾丸は、アリシアをかばうソレイユの背中を突き破りっ…………っ! いやだっ! 私はこんな光景、絶対に見ていない! 見たことなんてないんだっ! だって、そんなことは、絶対、起こっていないのだから。……アリシアの頬を熱い物が伝う。そしてアリシアには、聞こえた気がした。お姉ちゃんの声が。
『にひひっ! 頑張れっ! アリシアは私の自慢のかわいい妹にへっ!』
アリシアの全身を、高潔なる、絶対に侵すことができない、白金色の光の結界が包む。あの日と同じ真実の魔法の発現。弾丸は、引き金を引いた魔女の元に戻り、解釈の魔女プルガトリオの全身を蜂の巣にする。
「ふふっ………見事なっ、奇跡であったぞ。裁判長殿、判決を読んで、くれ」
「傍聴席、満場一致っ!…ッ奇跡は存在。よって被告人ソレイユ、無罪っ!」
その裁判長の言葉を最後まで聞きとげると、魔女は意識を失い、木目の床にドサリと倒れる。弁護側のグレンデルは、無言で解釈の魔女プルガトリオを担いだまま駆け足で舞台袖から、どこかに走り去って行った。
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