第三章4 『法廷外闘争』
「なんの用だ、プルガトリオ………裁判は終わったはずだ」
「ふふふ。おめでとうカグラ。晴れてお前は、無罪の身。だからぁ、これから起こるのは気紛れな魔女の思いつきのただの一般人の殺戮。ルールブックには、弁護側、及び検察側は裁判中は被告人を傷つけてはいけないという条文があったがなぁ、今のカグラ、貴様は無罪放免、つまりは、だ………。この法廷のルールとは一切何の関係ないただの一般人っ! だからぁ、貴様を殺すことは、この法廷の神聖なるルールに一切抵触しないわけだぁ。残念だったなぁ、カグラぁあ!! 妾が貴様を殺し、私が築いてきた数多の屍の山の一つとなる栄誉を与えてやろう。くひゃーっははははははっ!」
「………っ! ソレイユ、セレネ、この解釈の魔女プルガトリオとやらの、戦力を教えてくれ。誰がお前に黙って殺されてやるものか。逆に俺がぶちのめしてやるぜっ!!」
「カグラ、コイツヤバイッ…………。熱量無尽蔵。…………更に能力や特性の解析は不能ッ! こいつ計測不能なほどにとんでもなく強いッ!」
「にっひひひひっ! 魔力量も尋常じゃないっ! どれだけの魔力を貯蔵しているかは、一切不明………。そして、すでにボクが魔法の術式をあいつの周りに10は展開しているけどっ、全て、ことごとく術式の展開と同時にかき消されている、なんでにへ?!」
「ふふふ。被告人、魔法少女ソレイユ、貴様の魔術体系は妾によって既に解釈済みさ。よって、お前の魔法は妾の前では一切発動すること叶わぬものと知れっ! ソレイユ、お前は妾と同族の魔女。つまりは妾の敵だ。被告人でないなら真っ先に潰していたところだがな。残念だ。くっくっく、まあ楽しみは後に残すと言うのもまた、乙ではあるのだがなぁ」
「ざけてんなっ! てめぇの相手は俺だぁ………うらああああああっ!!」
カグラは勢いをつけて、解釈の魔女プルガトリオに殴りかかろうとするも………。そのカグラを引き留めるために、肩に手を置く者が一人。最強の女グレンデル。
「おいっ! プルーちゃん、こりゃあ一体、どういう了見だぁ…………。法廷内の闘争を法廷外に持ち込むっつーのは、そりゃ駄目だろ。優雅さを誇る魔女と言うのであれば、潔く負けを認めろプルーちゃん。お前は、私様とカグラに負けたんだ。それともお前は盤上の勝負に負けたら、ゲーム盤外の、リアルファイトで勝てばいいっていう考えなのか? 優雅さを尊しとなす魔女、その価値観だけは評価していただけに、この行為、残念だ…………」
「ふふふ。その通りさなぁ。盤外の勝負……。魔女の世界においては常識さ。ルールに則り盤上での勝負を行い、仮に負けたらその後は盤外の闘いで勝利することで、盤上の勝負をなかったものとすることができる。ふふふ。なんとも魔女らしい闘い方だろうよ。ひゃーっはっはっはっはっは」
「………残念だプルーちゃん。お前との勝負は法廷内で行いたかったのだがな。だが、直接の危害を加えるっつーなら話は別だぁっ! 私様がお前をここで斬り捨てるっ! 法廷での争いにおいて、検察としての矜持を捨てた、貴様を私様は許さねぇっ!」
「ふふふ。やれるもんならやってみろよぉ、たかが人の身で妾に何ができるというのか? きゃっはっはっは。ルールに則って闘わなければいけない制約のある法廷内の闘いと、ルール無用の法廷外の闘いが同じように行えると思うなっ!」
「はん。貴様こそすぐに法廷外の闘いを仕掛けたことを後悔することになるぜっ!いままで法廷というルールに守られていたということを私様が教えてやるよ。………こいよプルーちゃん。私様が遊んでやるよ」
「ふふふ。グレンデル、解釈の魔女が宣言しよう。貴様は妾には絶対に勝てない。それは解釈の魔女の名において提示する、貴様が妾に敗北する物的証拠が1385個。それが妾の勝利を約束するっ! それでもなお、妾に抗うというのかな?」
「面白れぇ。さっきまで景気よく億兆京の可能性をうたっていた魔女が、たった千程度しか勝てない理由をあげられないっつーことは、つまりは俺の方が強いっつーことだろあああ!! 解釈も分析も考察も必要ねぇぜっ! 俺の勝率は100%だあっ!!!」
グレンデルという女の周りに凄まじい突風…………否。これは彼女の発する闘気の塊。あまりの闘気の凄まじさに大気が震えているのだ。だが、その凄まじい闘気を受けてなお、この解釈の魔女は眉一つ動かさず、冷静さを失わない。
「なるほど………………貴様の力、妾が解釈した。さあこい、人の子よ」
グレンデルの凄まじい威力と速度の抜剣。振りおろした剣の切っ先が魔女の喉笛を断ち切らんとした瞬間、見えない壁に阻まれるっ!
魔女の首の皮一枚の箇所に詠唱術式………。魔女は、超極薄の氷の膜で、剣を受け止める。グレンデルの振りおろした剣は瞬時に凍結して、ガラス細工のように砕け散った………。
「ふふふ。これが解釈の魔女の優雅なる戦いっ! そのような下劣な鉄の棒切れで妾を殺めること能わずぅ。せめて、その剣が鉛ででもできたのなら、掠り傷を負わせることくらいは叶ったかもしれないがなぁ? きゃっはは」
「はん。っならこれならどうだっ!」
超高速の水月を狙った、前蹴り。確かに当たった…………っ何故なら、グレンデルは水月への衝撃を足のつま先に感じていたのだから…………なのに。それは、残像。そして、そこにはトラップとして仕掛けられた爆破術式。そして起爆っ!
「ふふふ。これこそが優雅なる魔女の闘い。貴様の体が発する情報を全て妾が解釈し、貴様が次に行う行動を予測、そしてそこにちょっとした妾の置き土産」
解釈の魔女プルガトリオは、残像を作り、その後方50cmの最小限の位置に転移、そして彼女の元居た位置にはトラップ魔法の術式を展開。あまりにも圧倒的な闘い方。………轟音。
だがグレンデルとて、ただ者ではない。トラップ魔法によって発動した爆炎の中から、ゆらりと現れる人影。そして、その顔は強敵の到来を心の底から楽しんでいる表情。にやりと笑っている。
「思しれえじゃねえか。法廷外闘争。俺がここでお前をぶっ倒してやるよっ!!」
*****
法廷内の裁判長室にて
「肩揉んで~」
「………………………」
「なんで黙ってるの?」
「あれ、無口キャラって設定じゃなかったっけ? 僕、喋って良いの?」
「そうだったっけ? 休憩室の中だから、おけ」
「なんかさ、緊張のせいかどっと疲れたよ、僕」
「確かに。緊張感が凄かったね」
「本当に。異がキリキリ痛かったぁ」
「これ、胃薬と、水。大変だろうけど、頑張って」
「はいはい。じゃあ、今度こそ肩揉んで」
「はいはい」
「………。って、そこは肩じゃなくて、胸なんですがぁ……」
「ごめん。間違えた。って、結構、肩凝ってるねぇ」
「緊張のせいだよ。ストレスも凄い。終わったらなんかゲームでもしよう」
「そうだね。美味しいケーキでも食べながら、休もう」
「検察側も弁護側も双方やばいね。事故が起こらないよう頑張らないとっ」
「そうだね。僕はこの『奇跡を問う法廷』が万事滞りなくいくように、手のひらに神って文字3回書いて食べたよ」
「なにそれ怖い。どこの国のおまじない」
「あれ、書く文字は人だったっけ?」
「そっちもそっちで怖いっ! カニバリズムッ!!」
「………ってそもそも、僕達、人間なの?」
「しーらないっ」
「はてさて、それじゃ、僕は次の裁判のために掃除とか、準備とかの作業しに行ってくるからね。それと、裁判長としての威厳が大事だから暴飲暴食して肌荒れとか禁物だよ。戻り次第お風呂いれてあげるから、それまで仮眠でもとって、明日に備えて、できるだけ休んでいたらいいよ」
「りょーかーい」
その言葉を最後に仮面の男は部屋から立ち去り、明日の準備に向かった。明日は、被告人ソレイユの尋問の日である。
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