第三章 『奇跡を問う法廷』
第三章1 『魔女による魔女裁判』
カグラと、ソレイユ、セレネの3人は漆黒の空間で目を覚ます。…………明らかに最後に意識を失った、あの遺跡の霊廟とは異なる場所。
「………ついさっきまでの映像は、俺たちの過去の記憶? 俺は、ソレイユと、セレネが、この異世界に渡るまでの記憶を見えていたんだけど、同じように俺の記憶もお前たちに見えていたのか? なんか恥ずかしいぜ」
「ハイ。ワタシも同じように見えていたデスッ。カグラがゲートを潜る光景と、ソレイユが門に落ちていく光景を見まシタッ! 特に、カグラの見た桜の木の周りをガラスの螺旋階段で昇る光景は美しかったデスッ」
「一体さっきの映像はなんだったにへぇ………? まるで本当に経験したかのような物凄い現実感があったにへ。あれが魔法だとしたら相当やばいものにへぇ」
突如三人の頭上が照らされ、方々の暗闇の中から拍手と喝采が湧き上がる。まるで自分自身が舞台の上に立たされているかのような違和感。一体自分達に何が起きているのか彼らには理解することができない。
「さっきまで遺跡に居て……過去の映像を観せられて……そしてここは一体どこだ? 周りが真っ暗で何も見えねぇ。………っくそ。すまないが、セレネ、ソナーと熱源探知をお願いしていいか? 意識を失っているうちにどこかの施設に捕らえられた可能性がある」
「ラジャッ………ソナー発信…………最大出力………異常な広さ、ソナーの反響がありまセンッ…………ですが………熱源反応は無量大数ッ……計測不能……敵勢生物かは不明ッ…………そして確かな物質反応……幻覚でもありまセン………!」
「無数の魔法反応と………反魔法反応…………あわわ。ここはどこにへぇ。とんでもないところに飛ばさてしまったみたいにへぇ」
「ソレイユ、セレネ、サンキュー! た………ただならぬ事が起きているということは分かったぜ! 万事休すって奴だなぁ……ちぃっとばかしやべぇな」
照らされた光源を元に辺りを見回すと、ここが舞台上らしい場所であることはすぐに理解することができた。綺麗な木目の床からみても、ここが遺跡やダンジョンの中ではなく、どこかの施設の中であることは明らかだ。
そして、仮にここが舞台上だとするならば、無数に存在する熱源反応は、観客といったところか…………? 照らされた光源を頼りに辺りを見回すと観客席のような物があり、そこの椅子に座っている人間たちは、全員が奇妙な仮面を被っている。それは、さながら絵本の中で読んだ仮面舞踏会を想像させた。
「…………お前たち、こいつらが何者か分かるか?」
「すみまセン。データベース上に存在しない生物デス。一つ言えることは…………あれらは人型ですが、人とは異なりマス」
「にっひひひひ。ボクにはぜんぜん、分からないにへぇ」
「だよなぁ…………」
その暗闇の世界に、カツカツと歩く足音が二つ。そして舞台上にもう一つ、新たにスポットライトが当たる………その光によって照らされた存在は、2人。明らかに人間の形状をした存在。女性と、体躯からおそらく男性の召使い。
女性はチュールレースを深々とかけており顔のディテールを覗くことは叶わない。召使いに至っては、あの観客と同じように仮面をつけており表情をうかがうことすらできない。
彼と彼女の登場が確認されると、割れんばかりの拍手と喝采があがった。本日の主役が彼等であることは、その声を聞いただけで明らかであった。仮面付けた召使が、口を開く。
「本日はお忙しい中、当法廷に傍聴にいらっしゃっていただきありがとうございました。今日、偉大なる皆々さまにお見せする演目では、この数多の世界の中で奇跡なる奇怪なものが本当に存在するのかを確かめるための喜劇、または悲劇。それでは、これより『奇跡乱用事件』における、魔女による魔女裁判を開廷致します」
仮面の男が、言葉を最後まで紡ぐと、女性が木槌を打ち鳴らす。その音は、力強く荘厳でかつ、有無を言わせぬ絶対的な力を持つものに感じられた。
「されでは、奇跡の実在を否定する検察官、解釈の魔女入廷!」
そう裁判官が声を発すると、暗闇の舞台上にもう一つカッと強い光が照らされる。そこにいる人物はとても高貴な感じの女性。…………喪服の様に真っ黒なドレス。まるでブライダルドレスのような荘厳な衣装を着た女性。
「ふふふ。検察側、解釈の魔女プルガトリオ。元より準備は完了しておるわ」
裁判長に向かい、 堂々たる声音で告げる。冷たく、だが気高さを感じる声色で言い切る。それはおそらく、彼女の絶対なる自信がもたらすものであろう。
「それでは、奇跡の実在を証明する弁護側、猫箱暴きの魔女入廷!」
暗闇の舞台上にもう一つカッと強い光が照らされる…………っが、そこには誰もいない。無人の弁護側の席だけが空しく光で灯される。
「ふむ……。弁護側が無断欠席ということは、無条件で
演目を心待ちにしていた傍聴者から、落胆のため息が聞こえてくる。そして、明らかな異常事態にざわついている。
「プルガトリオ検察官、あなたは弁護側の魔女を、当法廷に入廷する前に殺めたと……そう言うのですね?」
「ふふふ。その通りだ。入廷前に弁護士を殺めてはいけないという法律はないだろう? それともこれから新たな弁護士をここに呼んで妾を罪に問う魔女裁判でも始めるかぁ? それも一興。今日を境に、『検察側は開廷前に弁護側に攻撃をしないこと』という条項を新たに追加するが良いわ。これこそが、魔女による魔女裁判っ! ふはははははははひゃっはははははははっ!!」
この裁判は決して正当な裁判ではない。検察側が弁護側の人間を開廷前に殺すなんていうデタラメが許されるはずがない………。だが、ここは通常の法廷ではない。当然、他の世界の象徴たる傍聴者から野次が飛ぶ。
暗闇の舞台上をダダダッと物凄い勢いで駆ける足音?! が聞こえるそして、無人の弁護側の席を照らしていたその光の下に女性が姿を現す。
「はんっ。弁護側がサボりっつーなら、しゃーねーなぁ。私様が代打ちだっ! 私様が猫箱暴きの魔女の代理、最強の女……グレンデルだっ! ここに至れた時点で、弁護の資格は十分に持っているぜぇ」
傍聴席は突然の来訪者にガヤガヤと賑わしく騒いでいる。弁護士の代打ちなどという話はいままでに聞いたことがない…………。彼らは、この異常事態を目撃できたことに、歓喜する。
「ここは神聖なる法廷、皆様ご静粛に。………良いでしょう。あなたは、確かに人の身でありながらも、この法廷に単身で訪れることができるだけの力の持ち主。そなたには十分以上の力があることを、裁判官である私が保証しよう。超法規的措置として、グレンデル、そなたに弁護の資格を与えよう」
「はん。当然だぜっ! この私様が来たからには、カグラ、ソレイユ、セレネお前たちが敗北などはさせねぇ。私様に不可能はねぇ。解釈の魔女だか、癇癪の魔女だが知らねぇが、私様がぶちのめしてやるぜっ!」
「くくく。………人間風情が思い上がりを。だが、面白いぞ。これこそ、この異常事態こそが魔女による魔女裁判の醍醐味。もっとも、今宵の法廷における弁護士は人間というのだから、なおさら面白い。貴様がどのような力を持つのか、妾は知らない。だが、この演目の結末だけは分かるぞ。貴様は、妾の解釈で肉片一つ残らずに消し飛ばし、万華鏡の海に沈む。それが、この演目の脚本だっ!! はっはっは」
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