第二章8 『魔法少女の誕生』
「お前たちぃ!!! 絶対に許さないにへぇ!! 私の事はどうでも良い。だから今までお前たちの**にも耐えたっ!!! だけど、ボクの妹にこんなふざけた真似をしやがって、ボクが許すと思ってんのかぁ!! ぶっ殺してやるにへぇ!!!」
「所詮はお前たちは奴隷。私達は所有物に何をしても許される。ほら、奴隷条項第二条にもそう書いてあるだろうぉ。お前の妹にもそろそろ娼館で働いてもらう。いま稼ぎの良い働き先を見つけてあげたんだ。せっかく俺たち夫婦が、お金をかけて育てたお前の妹は付加価値があって優秀だぁ。手付金だけでもたんまりもらえたからなぁ。ぎゃはははははっ!」
「そうよ。娼館では、身長の低い子や幼い女の子に需要があるそうじゃない。だからアリシアちゃんにはずーっと長い間、成長を止めるお注射を投与してあげてたのよ。あのお注射とーっとても高かったのよぉ。くすす。でも、病院に連れて行ったのはあなたよぉ? 自分の妹を薬漬けにしていたのが自分だって知った気持ちってどんなものなのかしら? あっははははは。だから、あの子ずーっと、成長しないでしょ? あの子きっと大金を稼ぐわよ。金の卵を産む鶏のようにね。当然でしょう? その注射に掛かるお金を私達が払ってあげたのよ。感謝されても、恨まれる道理はないのだけどぉ? ひゃっははははははは」
「ドクサレがぁっ!!!! 外道!!! 非道!!! ゴミ以下のヘドロ野郎!!! お前らの血は何色だぁ!!! ボクがお前らの内臓をこの場でぶちまけて確認してやるにへぇ!! 死ねぇええええええええええっ!!!!!」
大ぶりのパンチでソレイユが目の前の男に殴り掛かる。拳が男を捉えるも………その拳では、目の前の男を怯ませることすらできない。男は無表情のままソレイユの顔を思いきり殴りつけ、地面に倒れたソレイユの頭を靴底で踏みにじる。
「あなたっ! ソイツの商品価値が下がるから、顔を殴るのだけはやめてって言ったでしょ。まったく。まーたあの娼館の連中に値切られるわよ? 気を付けてよ。顔だけは駄目よ。痛めつけるなら客の目に触れないところをやって!」
「おうよ。このクソぼけがぁ。奴隷の分際で、ご主人様に手を挙げるとは何事だああっ! ソレイユ………やーっぱり、お前、もう一地下室で、調教し直す必要がありそうだなぁ。こっちへこいっ………地下室送りだ」
「やめて………。あそこだけは………許してぇ………。わあああああん」
その男は思いきりソレイユのお腹を蹴り飛ばし、髪の毛を引きずり地下室へ連れて行った。ソレイユは私の前で哀しみの涙をながしたことはない。ソレイユが物語を聞いて流す涙は美しい、だけどいま彼女が流している涙は………。太陽のような彼女の笑顔を奪ったあいつを………ぜ っ た い に 許 す な い
「あらぁ、アリシアちゃん。いつからそこにいたの? 駄目じゃない。屋根裏部屋から勝手に部屋から出てきたら。早く戻りなさい。あなたのお姉ちゃんと私達夫婦は、ちょっとお話をしなければいけないから」
「………………」
「はん。察しの悪い子だねぇ。グズ。あなたのお姉ちゃんをこれ以上酷い目にあわせて欲しくなければあなたが働けばいいじゃない? そうよぉ。そろそろあなたも働くべきだわぁ。そのための先行投資を私達がちゃーんとしてあげたのだから。だから、次はあなたのお姉ちゃんに変わってあなたが働く番よぉ………」
アリシアの片手にはお姉ちゃんから買ってもらった魔導書。その魔導書が黄金の光に包まれる。………本来は百年の歳月を費やして魔女の領域に入ってからではなければ使えない。魔法。その魔導の全てを今やこの少女はその年齢で修得している。…………曰く、天才。曰く、狂人。曰く、魔法少女アリシア。
「人間…………あなたの息の根を止めるのに大げさな魔法は不要かしら。そんなことをしたら他の格の高い異界の魔女達に笑われちゃうわね。そうね、ならこんな趣向はどうかしら。あなたの愛用の台所用品達と踊ってもらうなんて面白い、かもね?」
「くそガキがぁ。なんだその反抗的な目は。てめぇは商品価値を落としたくねぇから地下室送りを我慢していたに。お前も地下室で十分に反省してもらった方が良さそうだなぁ。躾のなってないガキは一度しっかり調教しなきゃ駄目だな!」
「ふふふ。…………
最初は、ガタガタと鍋や包丁が揺れるだけだった。その揺れがだんだん大きくなり………鍋やフライパンや包丁が台所で踊り出す。………これが、魔法。女には何が起きているのか理解できない。
「さあさあ。鍋よ、フライパンよ、包丁よ。踊りなさい、あなたのご主人様と楽しい
リズミカルに踊る寸胴鍋が、目の前の女の頭に覆いかぶさる。それはさながら、子犬がじゃれているような愛くるしい光景だった。そこにいたずらっ子のフライパンが飛んできて、寸胴鍋をバンバンとまるで太鼓のように叩きリズムをとる。
寸胴鍋の中は音という暴力に包まれていた。女は鼓膜がやぶれていた。高らかに美しい歌声をあげていた包丁は、フライパンのリズムと同じように女のお腹を出たり入ったりと忙しく踊っていた。
「くすす。あの女もキッチンとの
私は魔法少女として、優雅に地下通路の階段を降りる。笑顔しか見せたことのない太陽のようなお姉ちゃんを奪った泥棒にはそれ相応の罰が必要だから。
そして地下室に辿りつく。お姉ちゃんが豚に*****ている。クソ******。やはり、こいつは確実に殺すしかない。****野郎!!!
「豚に魔法を使うことなどしたくなかったのだけど仕方が無いわね。まずはさくっと食い破れ、果物ナイフちゃん」
ぺこりとかわいくお辞儀をして、果物ナイフは飛んでいく。まだまだ包丁としては半人前の包丁首を狙って飛んだはずなのに、男の太ももに刺さってしまう。
「痛ぇなぁ! てめぇ。気でも狂ったか? マジで殺されてぇのか?!」
「あーっはははははっ! おっかしい。人の分際で魔法少女に至った私に抗おうとでも? あの男、ちょおっと暑苦しいから、風通しを良くしてあげなさい。アイスピックさん」
慇懃に一礼をし、アイスピックは一直線に男に向かって飛んでいく。だが強力な反魔法の発現によりアイスピックは跳ね返される。………この男は信仰がない無知蒙昧な愚かな男。だから魔法を理解できず、故に魔法少女が闘う相手としては少々厄介な相手ではある。
「化物めぇ! お前を*して*****した後! ぶっ殺してやるっ!」
「お行きなさい。柳葉包丁くん。あの男の心臓をあなたの牙で食い破りなさいっ!」
挨拶もなく一気に男を目がけて飛んでいく柳葉包丁。だが、男の信仰を否定する力によって軌道が逸れ、男の頬をわずかに掠めるだけで、地下室の奥の暗闇に消えていく。
「へっへっへ。おめぇももう終わりだ。1年間たぁっぷり地下室で可愛がってやるかなぁ。覚悟しろよ。きぃえっへっへへへっ!!!」
アリシアがまるで手品を行うようにくるっと手首を反転させると、闇の中に消えたはずの包丁が再び浮き上がり、歯を剥き出しにしてにやりと笑った。
先ほどの空振りは魔法抵抗力の強いこの男を油断させるための罠っ! いかに魔法抵抗力が強かろうが、意識外からの攻撃であれば別っ! 鈍色の光を放ち歌いながら今度こそっ男の背中から今度こそ1ミリの狂いもなく心臓を正確に貫く!!
のみならず、よほどこの豚の肉が美味しいからなのか、何十回も柳葉包丁が背中から男の肉に噛みつき臓物を食い破る。
……しばらくして、男の口からごぽりと泡のまざった血を吐き出すと。柳葉包丁くんはえっへんっと胸を張り、キッチンの包丁入れに帰っていった。
「お姉ちゃん。助けるのが遅くなってごめんっ! さあ、早く服を着て。こんな街から二人で逃げ出そう。約束していた二人の冒険の始まりだよっ!」
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