第二章2  『霊廟の棺に封印されしモノ』

「触診にて棺の内部構造を解析。ソナー、熱源、光学的内部透視全ての能力を使い棺内部の分析を行いまシタ。その棺内部の分析結果を3Dスキャンデータとしてデータリンクします。………カグラ、データの確認ヲ頼みマス」


「サンキューセレネ! ふむふむ。なるほど。額縁状のナニカを抱えた人間の白骨か。白骨の大きさ形状から女性、または子供の可能性が高い。それ以外はおそらく宝石とかの装飾品だな。となると、この棺は太古の昔のやんごとなき人のお墓という感じかな? 俺の見立てでは、解析データをみる限りトラップやクリーチャーの可能性は少ないとは思うが………」


「ハイッ。ワタシもカグラの分析と同じ結論に至りました。白骨にはアンデット種固有の敵勢反応は無し。きっと、棺を開けてもあの白骨が襲ってくるようなことは無いと思いマスがカグラは念のためソードオフを構えていてクダサイ」


「了解。仮死状態、または休眠中のスケルトンの可能性も無いということだな?」


「ボクの方でも、調べてみたけど、あらゆる観点から棺の中にあるものはただの無機物しかないように思えるにへぇ」


「うむ了解。この棺の蓋自体が重そうだから俺が開けるとしよう。万が一のことを考えて、臨戦態勢を取ることとする。ソレイユは俺から後方7メートルほどの位置で重力魔法の詠唱準備を。セレネは俺の後方から5メートルほど離れた位置で狙撃準備を。もし何らかの敵勢生物の場合は躊躇なく弾幕で蜂の巣にしてやれ」


「ロジャ」


「にへぇ」


「っという訳で、力仕事は男の仕事ぉ! うおりゃあああっ!」


 ズズズっと石と石が擦れる音がして、大理石でできた棺が開かれる。中には事前にデータリンクされていた情報通り、人間の白骨死体が見つかった。遺体の周りには宝石や貴金属類などが散りばめられていた。


 棺の中に宝石や貴金属が一緒に入れられていること自体は珍しいことではない。実際、ピラミッドの棺の中には黒曜石やオニキスなどの宝石類が一緒に入っているし、日本の古墳だって同様だ。…………ただ、一つ違和感があるとすれば


「その………白骨が抱えているのは。なんだ?」


「形状から推察するに…………私のデータベースには存在しない何らかの貴金属…………の額縁で覆われた鏡かと思われマス。鈍い銀色からオリハルコンかと思いましたが………違う物質のようデス」


「鏡かぁ………。太古の昔にとある国の女王が祭祀の道具に使っていたというような話も聞いた事がある。そういった意味では何らかの宗教的な儀式的なものなのかもしれないな」


「そうデスね。そのように考えるのが妥当と思われマス」


「鏡か。何か歴史的な遺物の可能性もあるから、盗掘者が来る前に回収してギルドに解析してもらおうか。セレネのデータベースに存在しない貴金属というのもかなり気になる点ではあるしな。その他の宝石や、貴金属はおそらく『研究』の名目でギルドに召し上げられるだろうが、まあお前たちもおとなしく諦めろ」


「残念にへぇ~。焼き肉がぁ。満漢全席がぁ。なえなぇ~」


「涙を惜しんで………我慢しまショウ………」


「それじゃあ、白骨を気づつけないように宝石用手袋をはめてと………まずは、右の腕から開いて、今度は左の腕っと………。これで鏡だけを取り出すことができそうだぞ。なんというかジェンガをする時みたいに妙に緊張したなぁ」


 カグラはそう言って白骨の遺体から鏡を取り出す。鏡の額縁や鏡の表面にほこりやチリが積もっているものの、宝石用の手袋で拭いてあげればキラキラと輝きだした。どうやら錆びない特殊な素材で造られた鏡のようである。


「カグラッ! その鏡を手放して下サイッ………磁場がオカシイデス。ワタシのデータリンクもうまくいきません。何らかのジャミングが働いていると思われマス。その発生地点はその………鏡ッ! 即座に棺に鏡を戻し蓋を閉じてくだサイ。それは………きっとヤバいものデスッ!」


「サンキューな! くっ………今、鏡を、棺にぃ戻そうとしているがぁ、この鏡意志を持ったように、中空に浮き上がろうとしやがる。とんでもねぇ力だ。このままだと腕が引き千切れそうだ。…………ソレイユ、この鏡の魔力反応は?!」


「ソレの魔力係数は………………虚数。魔法の値がゼロを下回るなんて………そんなの、あり得ない。魔法の値がマイナスに振り切るなんてことっ………まさかこの鏡は………概念否定…………反魔法存在アンチ・マジック……………超実在物質……………魔法の存在が否定されて行く…………フラグメンツっ?…………そんなモノが実在するはずがないにへ!!」


 鏡はカグラの手元を離れ、中空に浮き上がり。神秘的な光を放つ………あるいは霊的なといった方が正確であろうか。部屋は鏡から発せられる虹色の光によって、影一つ残さず消え去る。影一つ存在しないなんてことはあり得ない。何らかの超常的な現象が起きているということだ。


 鏡は虹色の光を放ち、部屋はまるで毒々しい万華鏡の中にの呑み込まれたような状況となっている。さっきまで自分が立っていた地面ですら今は虹色の光によって侵され。自分が地面を立っているのか、どうなのかすらわからなくなってきている。


「セレネ、ソレイユ、手を出せ。みんなで手を繋ぐぞっ! そしてこの虹色の光はきっとやばいっ! 手を繋いだら目を瞑れ! いいな!」


「了解にへっ!」


「了解しましたデスッ!」


 そして、三人で手をつないだのを最後に…………カグラ達の意識は途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る