第一章8 『寄生蜂の巣ゴリアテ』
ギルドの指定の討伐相手を、発見。
カグラは遠方から双眼鏡で覗き見る。
「でかいなぁ。あれがゴリアテかあ…………」
……大きい。とても大きい。
どれくらい大きいのかというと、
ランスロットアルビオンくらいの大きさ。
またはエステバリスくらい。
……端的に言うとだいたい5メートルくらいの大きさである。
当然5メートルの体を支えるため各部が尋常じゃなく太い。
特に自重をささえるために、大腿部が異形に肥大化している。
足ほどではないが腕も丸太のような太さである。
かなりの分厚い体。カグラはソードオフの弾丸を
貫通弾からホローポイント弾に変更。
ホロ―ポイント弾は貫通力こそは一歩劣るものの、
一度当たれば広い範囲を損壊させることが出来る。
対人間であれば腹部に大穴を開けることが可能な弾丸。
ゴリアテ相手には、貫通力の高い貫通弾や、散弾では
怯ませることすら難しいだろう。
ホロ―ポイントの様に面で破壊する弾が最適なのだ。
「セレネ。敵の解析を! 俺と敵との距離、地形データ含む現状分析をデータリンクにて送ってくれ」
カグラの後方で待機しているセレネが、解析を開始する。
既にデータベースにある既知の情報でああれば、
敵の弱点も一発で分かる便利な代物である。
「カグラからゴリアテまでの距離は約100メートル。敵勢生物の解析結果………巨人族ゴリアテ。……普段は温厚な性格で、基本的に攻撃をしかけなければ人を襲うようなことはしないクリーチャー……デスがっ、今は脳に寄生した蜂によって操られているためまったく異なる性質を持っていると考えてくだサイ!」
カグラはゴリアテの進行先を双眼鏡で見る。
ゴリアテの進行方向には、人の住む市街地。
「セレネ。次に、ゴリアテと街との距離を教えてくれ」
「ゴリアテと街の距離はおよそ1キロメートル。この歩行速度で行けばおよそ、20分後に街に到着する者と思われます」
「……街の到着までに20分か……想像以上に時間が無いな。奴の目的は?」
「………目的は、おそらく新たなる寄生先の確保デスッ……カグラの言う通りに、急いで来て良かったデス。新しい宿主を探しているということは、もうゴリアテ内部のコロニーでの卵の孵化は済んでいると考えた方が良いデスッ………場合によっては既に羽化もしているかもしれまセン」
寄生蜂は宿主を巨人ゴリアテの体を使い、
街に住む人間達を新たな苗床にしようとしているのだろう。
つまり寄生蜂にとって、ゴリアテは『街の人間』
という巨大な苗床を確保するまでの間の
中間宿主という訳だ。
「ソレイユ。この距離から魔法を放つことはできるか?」
「ボクの辞書には不可能はないにへぇ……と言いたいところだけど、ゴリアテは一歩辺りの歩幅が大きいのと、蜂に操られているせいか歩行パターンが不安定。失敗した時のリキャストも考えると、動きを止めてくれなきゃ魔法をぶっ放すのは難しいにへ。……魔法が不発に終わったら、一巻の終わりにへ」
「……っ残り18分くらいか、街は目前、住人の退避はまだ……ヤバいな……。時間が無い」
「このままだと、ゴリアテは街に侵入するのデス」
「だよなぁ。俺がゴリアテの前で引き付けながらソードオフで膝の関節を破壊し、街への進行を止める」
「カグラ、頼みます!」
「おう! おそらく、宿主の体を破壊すれば、ゴリアテの内部に巣くっている寄生蜂が体内から飛び出してくる、その無数の寄生蜂をセレネにはマシンガンの掃射で撃ち落として欲しい。そして、今回は指示もセレネが出してくれ。今回の作戦で最も難度が高い仕事がセレネの仕事だ。すまないが頼めるか?」
「ラジャ! ワタシの射撃精度もこの一ヵ月間で劇的に向上しています。マスターはゴリアテの足止めに専念して下サイッ!」
(……俺が前衛で一騎討ちに専念できるのも、セレネのおかげなんだよな。感謝しきれねぇぜ)
「ソレイユの詠唱のタイミングは今回は、戦場を俯瞰的に見れるセレネに任せる。ソレイユはセレネの指示に従って欲しい」
「にっひひひひ。ガッチャ。ジャイアントキリングは心躍るにへぇ!」
「それじゃ、行ってくる。さあ、巨人狩りだっ!」
草むらを屈みながら一気に駆け、
カグラはゴリアテの前に立ちはだかる。
ゴリアテは、足元の小動物程度の存在を歯牙にもかけない。
否――。いかに温厚なゴリアテと言えども、寄生蜂に操られていない
正常な思考ができる状況であれば、外敵をこんな至近距離まで
みすみす見逃すようなことは無かっただろう。
カグラの、ホロ―ポイント弾を装填したソードオフが火を噴く。
目標は巨人の膝。右膝にホロ―ポイントの着弾を確認!
草むらに腐った肉片が飛び散る。だがまだ骨には到達していない!
カグラを外敵だと認識したゴリアテの脳を操る寄生蜂は、
ゴリアテの巨腕を振り下ろしカグラを圧し潰そうとする。
――轟音!
レバーアクションの再装填は既に完了済み。
遅れて空の薬莢が地面に落ちた時の、カランッという音が聞こえた。
ゴリアテの振りおろした巨人の手のひらがカグラの上で爆散する。
肉片と鮮血の雨が降り注がれるが、カグラはそれに気を取られている余裕などはない。
何故なら、ゴリアテの右足が既にカグラを捕らえていたのだから………。
――そして衝撃っ!
カグラはゴリアテの右足の蹴りの直撃を受け後方に吹きとばされる。
神楽流、衝撃逃しの型、
そして更にその衝撃を地面に受け流すことによって、致命傷を避けることに成功!
――その回避したカグラ直上に巨大な影………ゴリアテの
足の裏は目の前まで迫っている。
そのまま踏み潰さんと足を振り下ろす。
カグラは間一髪で、これを回避ッ!
カグラは立ち上がりゴリアテを中心として、
その周りをぐるりと駆ける。
肉を削ぎ落とし、骨が剥き出しになった右膝に、
再度、引き金を引く。ソードオフは火を噴き、
今度こそ右膝の骨が粉砕する!
「ふぅ………。ゴリアテの右膝の破壊に成功。これで、ゴリアテの歩行速度を劇的に落とすことができたはずだ。セレネ。次の行動の指示を頼む」
「………ゴリアテの歩行停止を確認。後は、ソレイユの魔法で蜂のコロニーごと燃やし尽くせば……終わりデスッ……カグラは念のために左膝も破壊後に、その場から速やかに離脱し、ワタシと合流を………ッ」
ソードオフガンによって倒れたゴリアテの左膝の肉を破壊し、
剥き出しになった骨も破壊した。
――装填されている残弾は、1。再装填の余裕は無い。
セレネのゴリアテの両膝を破壊後は退避するようにという指示は、
へたに腹部などの他の部位を破壊すれば、
中から羽化した寄生蜂が飛び出してくるということを警戒してのことだろう。
――違和感。
(巨人にしては出血量が少ない………? 内部が腐っているからか? それとも気のせいか……? それとも、何か別な物に血液や栄養を吸いあげられているから?)
カグラは考えても分からない。
セレネの指示通りに、戦線を離脱しようとすると、
カグラの後方からゴリアテの腹部から破裂音。
と、巨大な羽虫特有の羽音。
「セレネ。何が起こっている?」
「新たな目標……っ敵勢熱源反応1、小熱源反応無数。ソンナ……ゴリアテのお腹の中から……ゴリアテの胎内の子が………寄生蜂の本命はこの、ゴリアテの胎内の子だったようデスッ………体長は約2メートル」
「……セレネ。サンキュ! ガキのくせに2メートルかよ。俺よりでけぇじゃねえか……」
「情報更新……地形誤差修正………座標及び標的情報………ソレイユへデータリンク。対象術式を広域魔法に変更求ム。寄生されたゴリアテを中心に広範囲の重力魔法を展開してくだサイ!」
「セレネっちりょーかいっ! 黒炎の術式から、重力術式広域展開のコンバートに60秒ほど時間が欲しいにへ。そして、ボクの元にそのキモイ寄生蜂が来ないように! セレネは護衛は頼むにへ」
寄生先のコロニーを破壊された寄生蜂は、
顎の牙をガチガチと鳴らし、警告音をあげながら、
狂ったように執拗にカグラを追いかけてくる。
一匹であれば脅威にはならないが、
群れをなした小型の生物の群体に対して、
生身の人間はあまりに無力っ!
ソードオフの自慢の破壊力も、神楽流の武術も
この寄生蜂相手には何の意味も持たない!
とにかく逃げるしかない。……とは言え、
逃げるのは本来の合流先のセレネの方ではない。
――むしろカグラは、セレネに背を向け逆の方向に駆ける。
全ての目標をソレイユの魔法で圧し潰すには、
少しでもカグラに全ての敵を引き付けておく、
それしか方法が無いからだ。
――寄生蜂が拡散したら、もう手の施しようがない。
セレネのマシンガンの弾幕はカグラに麻痺針を突き刺そうとする
その一瞬の寄生蜂の硬直を見逃さずに、
蜂を正確に撃ち落としていく。
――恐るべきはセレネの動体視力と射撃の練度である。
破壊目標は3つ、
寄生蜂の巣と化したゴリアテの死骸、
無数の寄生蜂、
そして……目の前の寄生蜂に操られた
2メートル大のゴリアテだ。
「セレネ。俺は目の前の寄生蜂に操られたゴリアテの子を殺す。すまないが、その間に俺に付きまとっている寄生蜂を撃ち落としてくれ」
目の前にゆらゆらと動く巨人の子。
寄生蜂によって、動きが不安定だ。
単純な子供の筋力量で言えばおそらく熊と同程度。
つまり………熊程度の筋力の相手ならば、
今のカグラに倒せない相手ではないっ!!
寄生蜂に操られているゴリアテの子の大ぶりな
テレフォンパンチを、神楽流の受け身の
巨人の片手を、神楽流、
顎下に掌底による一撃を加える―――
巨人の頭頂部が破裂し鮮血の花が咲き誇る。
脳漿と鮮血をブチマケこれで決着――っ!
…………
「マスター! 屈んで! ソイツガ、寄生蜂のクイーンッ!」
脳漿をぶちまけた空の頭蓋の中から、
頭部と同じ程度の大きさのバカでかい蜂が姿を現す。
明らかに他の蜂とは異形なる姿。
例えるならばその姿は《巣》。
寄生蜂のクイーンは顎をガチガチと音を鳴らし、
仲間の蜂を呼ぶ音を発する。
カグラは、ソードオフに最後の一発が残っていた事を神に感謝する。
――轟音。そして、寄生蜂のクイーンの胴体は引き千切れ、
金切り声をあげて息絶えた。
――ソレイユの重力魔法の発動まで、あと5秒もない!
カグラはとにかく逃げれる範囲まで走り去る。
「潰れろっ!! 圧し潰せ月と大地よ圧し潰せ!! にゃらあっ!!」
後方で巨大な重力魔法の展開を確認。
すぐ後ろにいる蜂がセレネのマシンガンが撃ち落とす。
カグラはとにかく逃げる。
「潰れて消えろ!」
まるで空中から万力が落ちてきたかのような、
超重力の渦に虫達はなすすべもなく、
羽虫はまずは地面に叩き落とされ、そのまますり潰され、
今や地面と一体化している!
もちろん、ゴリアテの体内に救っていた
蜂のコロニーに残った孵化前の卵も今や
超重力によって全て圧し潰された。
「セレネに確認。近隣の村の被害状況は?」
「現時点で、ゼロ。ただし、超重力の影響外に逃れた寄生蜂が100匹ほどいマスッ。こいつらは、雌雄同体。生き残った一匹がクイーンになり、また新たなコロニーを形成しマスッ……後は熱源感知ができるワタシに任せてくだサイッ。熱源を追跡し確実に1匹残らず殲滅しマス!」
――局地殲滅型セクサロイド。
この肩書がこれほど頼もしいと思わされたのは、
カグラにとっても、初めての経験であった。
今回は奇跡的に間に合ったが、
カグラ達の到着があとたった20分到着が遅れていたら、
泥沼の市街戦に突入していただろう。
そうなれば、多数の死者が出ることは免れなかったはずだ。
歴史にIFはないが、カグラはその存在しないIFの未来を想像して戦慄した。
また、カグラ達は、自分に課されていた仕事の意味と、
その重みを改めて思い知るのであった。
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