第一章6  『無職とロリとロボと特訓』《改稿版》

 ティンダロスの猟犬戦の後日談である。


 まず、ギルドの職員さんが勧めていたクエストについてだが、

 討伐先で待ち受けるモンスターは『ジャイアントローチ』

 を想定していたようだ。


 まあ、銃を撃つと外骨格が破れて、乳白色の白い汁が

 飛び出るのがキモイので苦手な相手だ。

 形状はFalloutのラッドローチを5倍位にしたような化物だ


 どこの世界の転生者もゴキブリに対する生理的な嫌悪感は

 強いらしく報酬額をかなり高めに設定してもみんな受注したがらないようだ。


 全異世界共通で嫌われている生物というのも実は珍しい。

 まぁ、俺たちが向かった頃には既にチュパカブラに

 食い散らかしていたので、実質消滅したクエストなのだが。


 今回は、ギルド側のミスということもあってチュパカブラ討伐による

 報酬金額は倍額で支払われた。チュパカブラ討伐の実績をもって、

 特例待遇でギルドカードの等級も3人分をブロンズから

 シルバーへ引き上げられることとなった。


 あのクエストを紹介した職員も、チュパカブラの出現は完全な

 想定外だったようで、いつもの悪ふざけが鳴りを潜めて

 平謝りをする姿をみて、それ以上責めようという気はなくなってしまった。

 毒気が抜けてしまったようだ。


 ティンダロスの猟犬と、謎の女性についてについては、

 ギルド側も把握していないとのことで、

 カグラたちの証言を元に調査中とのことだ。


 なお、戦闘が行われた場所は地図の修正が必要な

 くらいの壊滅的な状況だったそうだ。

 何でも、隕石が落ちたような穴が地面に開いていたそうだ……。


 その後の近隣の街への被害が報告されていないことからも、

 ティンダロスの猟犬を討伐、または退けたと信じたいところだ。

 

 彼女の生存は今も祈っている。



 *****

 安宿の俺の部屋にて



「今日は、前回のティンダロスの猟犬戦での敗走を踏まえての今後の作戦会議をしようと思うのだが。賛成の人は、挙手!」


「にへぇ~」


「はいデスッ」


「うむ。元気が良くてよろしいっ! まず現状の戦力をを整理しよう。前衛で敵を引きつけつつ数を減らす役割が俺だ」


「異存ないにへ」


「カグラしかできないことデス」


「うむ、でだ。索敵と魔法術式展開先座標の設定と前衛のバックアップと、後衛の護衛を行うのがセレネだ。事実上の司令塔だな」


「司令塔……ッ!」


「これも異存ないにへ」


「最後に、超威力の魔法をどかんとお見舞いして敵にトドメを刺すのがソレイユだ」


「超火力で、ドカンと決めるにへ」


「異存無し、デス」


「うむ。ここまでで、なにか捕捉することはあるか?」


「捕捉じゃないけど、ボクはセレネの負担だけめっちゃ多い気がするにへ。めっちゃ申し訳ない気になるにへぇ」


「ワタシの負担コトは気にして頂かなくて大丈夫デス。ワタシの異能と固有能力を考えれば最もワタシの強みを活かせるポジションデス」


「そうだ。データリンクを使えるセレネじゃないと不可能なポジションだ」


「むしろ、カグラのバックアップのためにもっと高火力の武器でマスターの戦闘の支援をしたいと思っていマス。例えば、グレネードランチャーを扱うことができれば、より戦闘面で貢献できると思うのデスがいかかデスかっ?」


「セレネの気持ちは嬉しいけど、広範囲で爆発するような武器は俺を巻き込み兼ねないので、難しいと思うぞ。あと、切り札の詠唱中のソレイユの護衛がおろそかになる可能性がある。だから、ソレイユは現状はサポートに専念して欲しい。データリンクや戦場での状況解析はセレネしか出来ない仕事だ」


「ボクも同意。セレネの座標ガイドがなければ、ボクの魔法を敵に当てられないにへ」


「戦闘においての司令塔。これ以上セレネはあまり戦闘面で貢献する必要はないよ」


「セレネは頑張りすぎっ! これ以上、無理はしないで欲しいにへ」


「確かに。前衛の俺のサポートと、後衛の護衛、更に戦闘中のアシストとかむしろ働きすぎなくらいだ」


 そういってカグラは、セレネの頭を撫でる。


「となるとあとは、俺とソレイユか。ソレイユは、基本的にフィニッシャー。でも詠唱中は集中しているから他の行動が出来ないという弱点もある。詠唱中は他のことをすることは可能か?」


「詠唱中はかーなりの集中力を持っていかれるにへ。詠唱中に他の行動を取ると、魔法が途切れてしまうにへ」


「と、なると……。戦力増強の要は俺か。俺が強くなることが必須条件という事だな。うーんどうしたものかなぁ」


「トレーニングするというのはどうデスか?」


「おお。ストレートだけど良いね。いわゆる修行パートって奴ね。身体能力が高くなれば、ソードオフガンだけじゃなくて、俺の格闘技に頼った戦闘スタイルでいけるし、名案だな! そういや、ソレイユは重力系の魔法とか使えるのか?」


「えっへん。もちろん。この大賢者ソレイユ様にできないことはないにへ! 重力系の魔法ならどんな敵でも、ブチっと虫のように潰せるにへ」


「逆にその強力な重力の魔法を、弱めて長時間使うこととかってできるか?」


「出来なくはないとおもうけど……ちょい結構きついにへぇ……。重力を強くするのは比較的楽、だけど、逆に弱くするというのはかなりの集中力を要する。それにボクの魔法は短期決着の魔法。やってみないとなんとも言えないにへ」


「おーけー! それじゃあセレネは体術は得意か?」


「寝技なら四十八手全てをマスターしていマスッ。どんな体位でも受けきりマスッ。……ま……マサカッ……マスターは私にえちえちな事をシロッと命じているのでしょうか?…………ソレイユさん助けてくだサイッ、セレネの貞操が危ないデスッ」


「セレネさん、格闘技の体術のことね。俺の格闘技の訓練に付き合って欲しいんだよ。毎日、木人相手に基本的なトレーニングは欠かさずやってはいるんだがやはり動かない木人相手じゃ限界がある。そこで、セレネに相手をして欲しいと思っているんだ。俺は寸止めだ」


「す……寸止めですか?! 痛くないから先っちょだけとか言って襲う気ですね? この変態マスターッ!」


「ご主人は変態にへぇ。なえなえ~。せっかくセレネと、ご主人様も格好いいところもあるって褒めてたところなのに、残念にへぇ~」


「言葉足らずは詫びるが、寸止めっていうのは、拳や脚を相手に当てずに直前で止めることを言うんだぞ。決してえちえちな意味ではないっ!」


「フフフッ。マスターをちょっとからかっただけデスッ。セレネの方も冗談ですよ。そうですね、局地殲滅型兵器としてCQCはマスターしてますので、模擬戦の相手くらいであればつとめることができると思いマス」


「なにそれCQCとかMGSか? よくわからんが一応は格闘技の心得はあるようだな。おっしゃ、それじゃー特訓を始めよう。各人、部屋でジャージと運動靴に着替えて、ギルドのグラウンドに向かうぞ」



 *****

 カグラ達はギルドの運営している、ギルド会員であれば、

 だれでも利用可能なグラウンドに来ている。目的は、特訓だ。



「ギルドのグラウンド使うのなんて初めてだけど、さすがは戦闘職のトレーニング用の施設だけあって充実度がハンパねぇ! なんかわくわくするな」


「無駄に広くて豪華いにへぇ~。ボク達から搾取したお金でこんな無駄遣いを~」


「こうなったら、もとをとってやるデスッ!」


「それじゃ。まずはロリ助。俺にむかって、重力魔法の展開を」


「あいさー。惹かれあう大地と月その想いをここに遂げよ! グラビティ―!」


「ぐがっ……おっ……重すぎるぞぉ。……おのれえっ! 雑種の分際でこの我を膝まづかせようとしたなあああ!……っと某英雄王さんネタをする余裕もないので、マジで弱めて下さい。頼んます。靴が地面にめり込んで動けないんす」


「こちとら精一杯やってるにへ。レスンΑς πάμε!」


「重い、けど動けるっ! 漫画ドラゴンボールから得た知識だったが、確かにこりゃ良いトレーニングになりそうだっ。それじゃ、俺は今からセレネを寸止めで殴るから、お前はCQCとやらで本気で俺に掛かってこい。遠慮はいらねぇ」


「マスター。ワタシは体術特化ではないトハイエ、局地殲滅型の兵器です。後悔しても知りませんヨ!」


 セレネの右腕から放たれるストレート。

 いやそれはフェイント。


 ジャージの襟首を掴んで地面に叩き付けるのが本当の狙い。

 カグラはその右腕を掴み、その勢いを利用してセレネを地面に投げつける。


 ――相手の力を転用する合気道の技。


 倒れたセレネに留めの下段正拳突きを寸止めする。

 風圧がセレネの顔を撫でる。


「一本。俺の先手だぜ。ロボ子まだやれるか?」


「どんな魔法を?! ワタシもマスター相手だと思い、手心を加えていたコトを白状シマス。次は、一切の手心は加えマセンッ」


「その意気や善し」


 セレネは、俺のさっきの合気道の術を体験して、

 下手に手を出すのは危険と考えたようでなかなか手を出してこない。

 俺の力は基本は抑止力を目的としたもの、

 だから本来の目的を果たしているとも言えるが………。


「このままだと千日手か。俺から、攻めるっ!」


 ダッと地面を踏み込み一気に蹴りこむ、

 忍冬すいかずら。カグラの足刀がセレネの鼻先を捕らえる。

 寸止め。フルコンタクトであれば、怪我では済まない一撃。

 

 セレネは、戦意を喪失したせいか地面にへたりこむ。


「気にすんな。アホみたいにこればっかり鍛えてりゃうまくなるさ。モンスター相手の実戦じゃ体術なんてあてにならないんだ。あくまでも身体能力を鍛えるための基礎トレーニングと割り切って頑張ろう、俺に勝てたらご褒美に焼き肉食べ放題だ!」


「なら。頑張るデス! ソレイユ。マスターの重力を一段階上げてください。焼き肉食べ放題がかかっていマスッ。いまの状況だとハンデになりません」


「あいさー。 重力強化!」


「うぐぬおおおお?! って一歩も動けねぇぞロリ助ぇ!」


 目の前にセレネの拳。

 当然避けられるはずもなく……。

 顔面に直撃。無様にもバタンと倒れる。


「一本。ワタシの勝ちデスッ」


 そんなわけで1ヵ月ほどの間は、

 3人で毎日同じようなトレーニングを続けるという生活が続いた。

 日に日に負荷を上げていくかなりハードな毎日ではあった。


 俺は基礎体力と、訛っていた古武術の勘を取り戻せたし、

 セレネの総合的な戦闘能力は劇的に向上した。

 ソレイユは何かの悟りを得たようである。


 こう言えば毎日クソ真面目にトレーニングをしていたと

 思われるかもしれないが、トレーニング後には毎日焼き肉食べたり、

 流行りのクリーム鬼盛りのパンケーキ屋をはしごしたり、


 ちゃんこ鍋を突いたりと、

 温水プールがある男女混浴可(ただし要水着着用……)

 エンターテイメント系の銭湯に遊びに行ったりと、


 3人でわいわいとなんだかんだで楽しい

 日々だったことをここに記そう。

  

 そう、ここは異世界。

 何だかんだで楽しんだ者が勝ちであるっ!

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