第一章4  『襲いかかる狡猾な群獣』

「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


 カグラのソードオフガンが火を噴く。

 射撃時の反動と銃の筐体にかかる負荷を度外視した大口径の銃。


 ――弾丸のストックは5つ。


 カグラの銃はリロードは自動装填方式ではなく、

 原始的なレバーアクションを採用している。


 レバーアクション方式の装填方式を採用しているのは、

 ひとえに発砲時の負荷の大きさによるものである。

 複雑な機構の銃ではこの反動に耐えることはできずに

 オシャカになる。


 このレバーアクション式と言えども戦闘後は、

 筐体の各部に歪みが発生し、

 小まめな整備が必要なピーキーな銃器である。


 単純な口径の大きさだけで言うならば、

 銃ではなく砲のカテゴリに類する弾丸を

 積むことができる銃である。


 レバーアクション式の銃は、

 一発毎に弾丸の再装填が必要となり、

 必ず次弾の発射までにタイムラグが発生するという

 致命的な弱点を有する。


 この僅かな時間はカグラが目の前の獲物に

 噛み殺されるのには十分な時間。


 その………ソードオフのリロードの時間を稼ぐため、

 セレネはカグラに今にも襲い掛からんとする

 獣達にマシンガンの弾幕をぶつけ足止めを試みる。


 ……完璧な連携プレイ。


 カグラが再装填に時間の掛かるソードオフを

 扱うことができるのも、

 セレネとの連携を前提としているためだ。

 

 俊敏な獣はマシンガンのフルオート射撃の

 弾幕から逃れるための回避行動を行うが、セレネの

 マシンガンの弾幕は一度喰らいついた獲物は離さない!


 ハイエナのような獰猛さと、執拗さ。


 ガチャリ、チン、コロン……

 カグラのソードオフの再装填が完了。


「全標的の捕捉完了………敵勢熱源数5! 敵の……動きが速い敵デスッ……ソレイユの術式展開先を固定座標方式から、セレネの目視誘導方式へ切り替えマスッ。地形誤差修正、空気抵抗、重力抵抗計算完了。ソレイユへデータリンク開始……。ソレイユ詠唱ノ準備ヲッ! 魔法を展開するタイミングはマスターの指示に従って下サイッ……!」


「ガッチャッ! にっひひひひ! 丸ごと焼き肉にしてやるにへっ!」


 状況はかなりまずい……。


 カグラの攻勢防御結界は単体の強敵相手に

 切り札足りえる異能。

 だが、このように多数の敵と対峙する場合は……


 ――相性があまりに悪いっ! 


 今カグラにとって頼りになるのは、

 このソードオフガンと、神楽流の古武術のみ。


「セレネ。後方からマシンガンによるバックアップを頼む。このままじゃジリ貧だ!」


「了解デスッ! バックアップはワタシにお任せするデスッ」


「助かるぜお! 俺は敵の懐に突っ込み注意を俺に引き付ける。この局面で最後に頼りになるのは、ソレイユの大魔法だ。詠唱準備完了までの間、敵を引き付けるために悪目立ちしてやるぜっ! なんだったら――その勢いのままで全員倒してやるぜっ!」


「前線は任せまシタッ! カグラ、ワタシからのフレンドリーファイアーにご注意ヲッ!」


「へへっ! セレネの銃弾で昇天できるなら本望だあうらああああっ!!!」


 ――轟音。


 ソードオフが火を噴き、獣の頭蓋が水風船のように爆ぜるっ! 

 仲間を殺されたた獣の咆哮っ………! 


 全体を一と捉える群獣にとっては、

 個を殺されるのは、自身の手足を

 引き千切られたようなものなのかもしれない。


 ――群獣たちは、怒り狂ってカグラに襲い掛かる!


 カグラは手品のような鮮やかさで、

 くるりとソードオフを一回転。


 レバーアクションによる、スピンコック

 ……リロードの隙は少ないが、

 薬莢がジャムる可能性が高い。


 ……失敗したら、一巻の終わり!

 ゆえに、普段はカグラこのリロード方式は採用しないっ! 


 つまりカグラにはそれほど余裕がないことっ! 

 チン、コロン。空の薬莢が排出される。


 銃口が火を噴く獣の胴体が爆散し、肉片が飛び散る。


「セレネ。残りの獣は何匹残っているんだ? 俺の残りの弾数は2つしかねぇ………これで殺りきれそうかっ?!」


「マスター……残念な報告デスッ……。敵勢熱源依然、残り4デスッ! セレネのマシンガンの掃射では獣に致命傷を与えるに至らず……ッ! ワタシのマガジンの残弾も残り僅か……。マガジン装填をする時間的余裕はありませんっ! 控えめに言って………ヤバいデスッ! カグラ、戦略的撤退プランBに移行しますカッ?!」


「セレネ、サンキュ!……ソレイユの詠唱は一度開始したらキャンセルはできない。よって、引き続きプランA継続だ……セレネ、敵勢個体の解析を頼む。マジでヤバくなったら、無理でも無茶でも死んでも、ソレイユを抱えて2人だけで逃げろっ!」


「ロジャ。データ解析……分析……完了ッ! 敵個体名通称、チュパカブラ。UMAと呼ばれる存在デスッ。二足歩行、四足歩行の両対応。集団での狩りを好み、知能は比較的高く性格は残虐かつ狡猾。長爪は人間のナイフと同等の切れ味ッ。個という概念が希薄で、仲間を捨て石にしてでも獲物を狩る修正がありマスッ。控えめに言ってもやべぇデスッ!」


 解析は、セレネに与えられた異能。

 敵の行動特性ウィークポイントなどを特定する異能。


 セレネのデータリンクの能力と組み合わせて使えば

 非常に有効な能力。


「了解っ!……知能が高いっつーことは、同じ手は使えねぇってことだな。ソレイユ、あと10秒後に魔法を放て……術式展開の座標はソレイユの肉眼による目視誘導に従えっ! 座標点次第では、多少は俺を巻き込んでも構わねぇ。ぶっ放せッ!」


「にっひひひひ! ガッチャ。まとめてぶち潰すしてやるにへ」


 術式展開まで8秒……。


 一匹目の獣が四足歩行から、二足歩行に移行、

 その状態から、カグラの頸部大動脈を狙って

 長爪による一撃を振りかざすっ! 


 爪の距離は50cm!


 ……つまり……カグラの攻勢防御結界の内側に侵入!……だがカグラはまだカウンターを発動しない……20cm……カグラの全身に淡い光が灯り……カウンターの掌底が獣の顎骨を捕らえるっ!


 ――兜花かぶとばな


 ……この古武術は顎下から、

 上方へ向けて掌底を打ちつけることによって、

 衝撃のみを頭頂部に伝わせ頭蓋を破壊し、

 鮮血と脳漿を飛び散らせる古の殺法! 


 その光景はまるで頭頂部から

 赤い花が咲いているように見えたことから

 名付けられた技である


 ……獣風情が人を真似て無謀にも

 二足歩行で顎を晒したのが仇となった!


 ――チン、カランコロン。


 空薬莢が排出された音……つまりは、

 既にソードオフが火を噴いている。


 人間大の獣の頭部であれば、

 水風船を破壊するが如く破壊することが可能!


 ……頭部の無い獣の死体と、

 脳漿と鮮血をぶちまけた獣の死体が横たわるが


 ……それで引いてくれるような、手合いであればそもそも、

 ここまで苦戦するようなことはなかった!


 奴らは個という概念が薄く群れの維持を優先する獣。


「ソレイユ…………いまだ、放てッ!!!」


「にっひひひひひひっ! 大審問官汝の裁きの天秤よ其の正義を示せっ!」


 局地的な轟雷……。


 カグラを噛み殺さんと、あるいは斬り殺さんとしていた

 獣達が丸焼けになって絶命している。


 これは誰が見ても明らかな死。

 ミステリー小説の疑い深い探偵達ですら、

 検死不要と認めるであろう……。


 ――何故なら、明らかに、消し炭だからだ。


「あ……っははははは。はぁ……終わった………。今回ばかりはさすがに、生きた心地がしなかったぜ。ソレイユ、ナイス魔法! そしてセレネナイスサポート! それにしても、こいつら何だったんだ………ギルドから提供されていた事前の情報とはあまりにも違い過ぎる。何が、『畑を荒らすボアキングを討伐せよ!』だっ。ぜんっぜん違う獣じゃなぇかよ。これはシャレになんねぇ」


「疲れたにへぇ……。山から降りてきた野生のボアキングの討伐と聞いてたのに全然違う相手だったにへぇ。なえなえぇ~」


「今回の一件は、さすがにやり過ぎだと思いマスッ。この一件は、ギルドに直々に訴えに行く必要がありマス……えっ……これは……アラタナルッ敵勢熱源反応1ッ?!…………チュパカブラの討伐は完了したハズ……ナンデッ!? 死角から……超高エネルギー反応。膨大過ぎる熱量のため計測不能。……一体ドコに隠れテイタッ……ッッ……マスター危ないッ!」

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