第一章3  『異世界職安またの名はギルド』

 カグラ達一行は、この街ではやりのクレープ屋に訪れていた。


「にっへっへ。チョコイチゴバナナバニラアイス白玉クリームあんこクリーム激マシチョコソースクレープ美味しいにへぇ」


「このバターシナモンホットクレープもとっても美味しいデス。幸せデスッ」


 セレネはチキンマヨネーズクレープなる、

 珍妙なクレープを注文していたのだが、

 一口食べた後に、無言でカグラのクレープと交換されてしまった。


「ロボ子よ。これは食わないのか?」


「ごめんなさい。キュウリ苦手なのデス……」


(……セレネにも、食べ物の好き嫌いがあるんだなぁ)


 カグラは、そんなことを考えながら

 はむはむと無心で食べる。


「お前らいいか? 午後からは異世界職安こと、ギルド行くぞっ! 俺たちゃ日雇い労働者だっ! 働かなきゃ死ぬぞ。腹くくれ」


「働いたら負けにへぇ~」


「ハンガーストライキデスッ」


(……まあ、俺も働きたくないのは同じではあるが、こいつらのやる気のなさよ。はあ)


「諦めろ。それと見た目の印象は大事だから、各自風呂入ったり、新しい服に着替えたりと、身だしなみに気をつけること」


「めんどいけど了解にへぇ」


「ラジャーデス」


「なお、髪は俺がセットし直すのが大変だから、頭は洗わなくて良し! それじゃ、一旦解散っ!」


 俺は部屋に戻り髭を剃り直し、眉毛を整える。

 ……職業安定所に行く時はいつだって緊張するものだ。

 

 弱肉強食の世界。セーフティーネットが無い世界に置いて、

 安定した仕事を斡旋してくれるギルドの存在はとても重要だ。


 カグラは鏡の前で、新しく買ってきた、

 冒険者になろうセットホワイト&ブラックに着替える。

 

 アウターは黒の学生服風、インナーは白のワイシャツ風、

 ボトムも学生服風。


 (おっし! なんとなくフォーマルな感じになったし、これで良いだろう。ギルドのような公共機関は身だしなみが重要だあとは、にんにくの臭いを落とすために、歯も改めて磨き直そう。おっしイケてる。完璧だ!)



 ****



 その後、カグラは安宿のロビーで文庫本を読みつつ

 時間を潰していると、まず最初にセレネが来た。


「そのメイド服似合っているじゃん。やっぱ、マイクロミニスカートのメイド服と黒のハイニーソックスの組み合わせは至高だよなぁ!」


「……似合ってマスか? ありがとうデス」


 少し顔を赤らめながら語る


「ああ! 似合っているとも! スカートとニーソックスの間の太ももは絶対領域と呼ばれ『4:1:2.5』の黄金比率を満たす、正に美の極致。おまけに、それを着こなすはセレネ! これが最高じゃなくて何が最高と言えるのだろうか?」


「マスター……あまりジロジロ見つめないでください………恥ずかしいデス………セクハラデス」


 カグラがそんなこんなの取り留めない雑談をしていると、

 遅れてソレイユが来た。


 あまあまフリフリのパステルピンクが目に眩しい。

 こんな服を着るのが許されるのは魔法少女くらいである。

 最も、ソレイユは魔法少女なので、その点は問題ないわけだが。


「おー。かわいいかわいい! 例えるなら、イチゴ鬼乗せパンケーキにホイップクリームましましのおまけにホイップクリームの頂点からはイチゴソースの滝流れ。写真で見たらめっちゃ旨そうだが、実際食べると胸やけする! そんな感じだ! 素晴らしい!」


「びっみょーな表現にへぇ。褒めてるかけなすか、どっちかにして欲しいへぇ」


「要約すると。ベリープリチーっつーことだ。さて、3人揃ったことだしギルド行くぞっ!」


 この世界で生き延びる道は大きく分けて二つある。

 定職に就くか、日雇い労働をするかの二択である。

 そして、俺たちは後者だ、以上。


「ギルド……。いつも行く時、緊張するんだよなぁ。そういえば、一番最初に3人でギルドに行った時はこんなことがあったっけなぁ…………」


《過去回想》


 ****


 今から遡ること、半年ほど前。

 異世界職安こと、ギルドにて……。


 3人とも緊張でそわそわしている。


 待つこと数時間、職員に呼び掛けられ、

 3人で個室に移動する。


「初めまして、こんにちわ。ようこそギルドへ。まず確認です。あなたたはち現地人ネイティブですか、転生者アウターですか?」


「俺たち、3人とも転生者アウターです!」


「はい。それでは、転生前の身分を左の方から順に説明ください」


「奴隷にへ」


「セクサロイド、デスッ」


「無職だっ!」


「しょ……少々お時間をいただけますでしょうか? 皆様に最適な職業を探して参ります。……あるかなぁ……?」


 石板上の端末で何やら検索しているようだ。

 何か、見つかったようで、目線をこちらに戻す。


「お待たせいたしました。まずソレイユさんですが、現地人ネイティブの貴族のお坊ちゃんの性奴隷などはいかがでしょうか? タイミング良い事にちょうどいま一名募集枠がありまして……。まかり間違えれば貴族の玉の輿に乗れて大金持ちになれちゃうかもしれませんよ!? なんならいっそ、馬鹿な貴族の坊ちゃんをあなたがいなければ生きていけない体に性的に調教するとか……ごほんっ。いずれにせよ、少なくとも生活には不自由はしないかと思いますよ。お勧めの仕事です」


「いや、にへぇ」


「そ、そうですか。それでは次に、セレネさん。アンドロイドっ子専門の娼館などはいかがでしょうか? 安定収入が見込めますし、ニッチなジャンルである分、お給金も高いようです。かなりの隠れた需要があるにも関わらず、供給が追いついておりませんので、完全なる売手市場ですっ! セレネさんあなたは勝ち組です! アンドロイドは性病の感染リスクがないことを考慮すれば、極めて安全かつ、時給換算で非常に効率の良い仕事だと思われます。それに、馬鹿な貴族の坊ちゃんもたまに遊びに来たりしますので、たらしこめれば玉の輿も夢ではありません。いかがでしょうか? こちらも自信を持ってお勧めできる仕事です」


「ケガラわシイッ……いやデスッ! マスターこの人変態デス!」


「あ、はい。それじゃ無職さん。まずお詫びしなければならないのですが、一生懸命探しましたが、無職に相応しい職業、ありませんでした」


「……無い、だと」


「はい。誠に残念ながら……なんか、その、本当、すみません」


「いえ、なんかこちらこそ気を遣わせてしまって……すみません」


「困りましたねぇ……。力不足で誠に申し訳ございませんが、定職となりますと、皆様のご期待に沿う仕事を当ギルドでは残念ながら紹介できかねるようです」


 この世界でお金が稼げないという事は、

 餓死することを意味する。


 今までは、ギルドではなく、個人の依頼を

 こなして何とか日銭を稼いでいたが、

 やはり、仲介業者を通さず請け負った仕事は、


 報酬関連でトラブルになることも多く、

 カグラ達も正規の職を持ちたいと思っているのだ。


 ――そして、告げられるのが職員の回答である。


(やばい、餓死する……)


「ですが、日雇い労働者こと、戦闘職であればご紹介できるかもしれません。常に死と隣り合わせで、安定した収入もありません。高齢になるほど仕事がきつくなります。労災も無しです……。それでもかまいませんか?」


「「「はい!」」」


「無駄に元気が良いですね。それでは、この石板に手をかざし、『オープン・ステイタスウィンドウ』と唱えて下さい。手脂が着くので、直接触らないでください。手のひらをかざすだけで大丈夫です」


「いくぜ。オープン・ステイタスウィンドウッ!」


 ===================

 NAME:カグラ

 LV:99


 HP:9999 MP:9999


 攻撃力:9999 防御力:9999 

 素早さ:9999 魔攻力:9999


 異能:『攻勢防御結界』

 ===================


「驚きましたかっ?! 職員さん。私が無職と知った途端にさりげなく見下した目になっていましたが、どうですか!? ご覧の通り、この私、無職のカグラ様はステータスはカンストですッ! もうこれ、完全に無双チーレムルートに突入ですっ!」


「ははは。本当に元気が良い無職ですね。盛り上げっている時に水を差すようで恐縮ではあるのですが、正直な話カンストLV99は入口みたいなものなんですよ。ほとんどの方がカンスト表記されてしまうので、あんまり参考にならなんですよこの石板。先日も転生前の世界で魔王を倒したとか言うカンストのイキリ勇者さんがステータスを見た途端威張り散らしていたので、お望み通り高難度の仕事を斡旋したら数日後に死体になって帰ってきました。だからイキリ勇者マンって苦手なんですよ。勇者と比較するなら、まだカグラさん、人畜無害昼行燈四面楚歌厚顔不遜三界無安辛労辛苦住所不定無知蒙昧なる無職のカグラさんの方が、はるかにマシってものですよ。はは」


「後半の言葉はよく理解できなかったのですが、要するに俺を褒めてくれているんですね。……って、そんなにギルドに訪れる勇者って多いんですか?」


「まぁ、結構きますね勇者。大抵は前職の実績転生前の偉業の自分語りから始まって………まぁ、最後まで自慢で話が終わるのが勇者の特徴です。勇者の相手をさせられ続けたせいでメンタルがやられた職員も多く、最近は勇者様対応課対蛮族処理係という専属の部署もできたくらいですよ。ははは。勇者は相手にしたら負けです。私だったら無言で即、高難易度クエスト送りです」


 にこにこと笑っているが、怖い。

 敵に回すべきでは無いなと思った。

 ちなみに、セレネもソレイユもカンストLV99だった。


「皆さんカンストですね。一応、闘うための最低限の資質を備えていることは理解しました。それでは三人分のギルドカードを発給しましょう。これがあれば、ギルドのクエストを受注できます。カードは、ブロンズから始まってプラチナまでの等級があります。ランクの高いカードを飲食店で提示すると、ドリンク一杯無料とか、割引してもらえたり、なにかと便利ですよ」


「ありがとうございます。俺たち頑張ります!」



 ****

《回想パート終了》



「……はあ。気が重い。重力が普段の十倍位に感じる」


「分かるにへぇ。なえなえ~」


「……胃が痛い……デスッ」


「はは。あれは……嫌な事件だったね」


 愚痴りながらもギルドの中に入る。

 なんだかんだで、仕事を斡旋してくれている

 だけ感謝しなければいけないのかもしれない。


 どれくらいの手数料を搾取されているのかは知らないが、

 倒したモンスターの素材は、

 全部倒した人が貰っていいというのが唯一の救いか。


「ああ、カグ……無職さん。こんにちわ」


「こんにちわ。言いなおさなくていいです、カグラです。今働いてますしっ」


「失礼しましたカグラさん。いまちょうど、すごぉーくお得なクエストがありまして、カグラさんのように優秀なハンターを探していたんですよ。いやーカグラさんついていますねっ! まさに飛んで火にいる夏の虫とはあなたのことですよ! おめでとうございます!」


「うへへへ。なんだかぁ、良さそうな話ですねぇ。職員さんぜひぜひ、聞かせてくださいよぉ!」


「いいですか? ここだけの話ですよ……? 私はカグラさんを見込んで、あなただけに話すんです。他の皆様には口外不要でお願いしますよ……実は……」

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