第一章1  『翼竜と銃器と魔法と異能』

 全身を鋼の鱗に覆われた翼竜、

 鋼鱗竜フェルムスケイル


 その姿は巨大な爬虫類はちゅうるいの身体に、

 コウモリのような翼があり、その爪はミスリル鉄をも軽く切り裂く。


 ――転生者カグラたちが現在対峙たいじしている敵だ。


「翼竜、鋼鱗竜フェルムスケイルのウィークポイント――特定。ソレイユへデータリンク開始。魔法術式の座標を直接投影、ソレイユ詠唱の準備をッ! カグラは詠唱完了までの時間を稼いでくだサイッ!」


「にっひひひ! セレネっち! りょーかいだよーん! それじゃーあっちもいっくよぉー! 術式展開っ! 展開先座標はソレイユに準じるっ!」


 セレネが肩にマシンガンを押し当て、

 標準を絞り固定する。


 竜の挙動を予測分析……空気抵抗、重力抵抗まで計算し弾丸の軌道を計算。

 マシンガンの引き金を引き弾幕を突っ込ませるように

 翼竜へ


 目標は……竜の球っ!


 竜はまぶたを閉じ、首を左右に大きく振り、

 セレネの弾幕から逃れようとするが、

 セレネの弾幕は決して獲物を逃さないっ! 


 ライオンの首元に噛みついかみついたハイエナのように

 一度捕らえた獲物を逃さない!


 だがこの翼竜の鱗は一枚一枚が鋼の盾と同等の強度である。

 ……つまり、セレネのマシンガンだけでは翼竜に

 致命傷を与える事は不可能っ…………っ!


「……うおおおおおおおおおぉぉおッッ!!」


 カグラは勢いに任せたスライディングで翼竜の股下に潜り込む。

 破壊力のために、射撃精度と一撃ごと

 再装填そうてんの時間を強いるソードオフガン。

 だが、その破壊力はあまりに絶大っ!!


 ――その弾丸は鉄の扉すらもぶち抜く!


 絶対の破壊力を持った徹甲弾――その暴力が翼竜を襲う! 

 鋼の鱗で守られた右脇腹を、まるでそんなことは

 関係なかったかのようにぶち抜くっ!! 

 脇腹から溢れ出すあふれだす鮮血がカグラを濡らすぬらす


 ――だがそれで終わらない。


 チン……カランコロン……。

 それはリロードで排出された空薬莢が地面を叩くたたく音であった。

 つまり……それは、


 カグラは既に次弾の装填そうてんが完了しているということっ!!


 カグラの再装填そうてん済みの銃口は完全に翼竜種を

 捕らえ……既に火を噴いていた! 

 

 左の翼が肉食獣に食い散らかされたかのように


 ――爆ぜはぜ飛ぶっ!!


「今だ、ソレイユ……放てっ!」


「にっひひひひ! あいよー! 災禍の黒炎よ全てΠι?στετο|を喰らいくらい尽くせ《χ?ριτλ?γα?》!!」



 翼竜の足元にほのかに赤い魔方陣が浮かび上がる……

 翼竜もそれに気づき、飛び立とうと膝を屈めるかがめるが、

 あまりに遅いっ! 


 カグラの再装填そうてんされたソードオフが火を噴く。

 右の翼も爆ぜはぜ飛び千切れる……そして、その刹那。


 魔方陣から黒い炎が放たれ、翼竜の全身を包み込む! 

 その炎はただの炎ではない。意志をもった炎。 


 生あるものを喰らいくらいつくさんとする、

 呪われた炎が翼竜の全身をついばんでいく……。

 翼竜が絶叫とも雄叫びおたけびともわからない咆哮ほうこうを発する。


(マジかよ……。これだけやってもまだ死なないのかっ!) 


「セレネ、マガジンの再装填そうてんの完了後に、翼竜の足止めを頼むっ!」


 鋼の鱗をまとう竜。簡単に倒せる

 相手ではないことは分かっていた。

 分かってはいたが……まさかこれほどとは。 


 黒炎によって、鋼の鱗は溶け落ち、

 剥き出しむきだしの赤い筋繊維が剥き出しむきだしになる。


 翼と鱗を失った今の姿は、もはや竜という

 よりは、凶悪な四つ足の肉食獣のそれに近い。


 セレネの弾幕が鱗の剥がれたはがれた顔面を集中的に撃ち抜き、

 右のを損壊させるも、勢いを止めるには至らない。

 竜は勢いを増しカグラに向かって突っ込んでくる!


 竜との距離は……今や……2メートル……竜の巨体と

 人間がぶつかりあうことは、例えるならば人間が

 電車とぶつかるのと等しい!

 ……1メートル……50センチ……!


「……チェックメイト!」


 竜の大口がカグラの体を包む攻勢防御結界に触れると、

 カグラの全身が淡い光を放つ……そしてその刹那、

 カウンターの回し蹴りが竜の顔面に突き刺さり、

 竜の頭蓋骨を文字通り、粉々に粉砕する!


 翼竜に自分の体に何が起こったのか

 思考することすら許さぬ破滅の一撃!


 ――反撃特化の防御結界。


 この領域に無許可で入り込む無礼者に

 与えられるのは……黄泉への片道切符。


 ビルの屋上から地面に突っ込むタマゴに似ていた。

 転生時に授かった異能。攻勢防御結界。 


 相手の攻撃力と、接触までの距離、

 そして自身の攻撃力が乗算されていく。

 だがこの結界には一切の防御的な機能が備えられていない。


 これは自分の命をベット賭けるすることで、

 威力を増す死と隣り合わせの狂気の異能。彼の持つ、

 この世界で生きる上での唯一のアドバンテージであり、


 ――切り札!


「いやー。ヤバい敵だった。 まさか災禍の黒炎を喰らっくらってまだ動けると思わんかった。 カウンターのタイミングをミスれば死んでたな」


「カグラは注意力散漫デス。敵の頭部を完全に破壊するまでは油断禁物。のんびりしてはイケまセン」


 小さい銃声の後に、カランという空薬莢が落ちる音がした。

 セレネから翼竜への、冥途の土産。


「翼竜種の脳は頭部に一つ。ですが、昆虫型のクリーチャーは脳の機能を全身に分散している生物もいマス。先日も、カグラはマンティコアの頭部を破壊して油断していて、危うく首を斬り落とされそうになってイマシタッ!」


「いやー。ははは。すまんすまん。そんなこともあったっけ? あの時はセレネがマシンガンでトドメをさしていなきゃ、俺の胴体と首はさよならを告げていたところだったぜ! あんときゃ助かった、サンキュー!」


「にひひひひ。ご主人様はいっつも脇が甘いにへぇ」


「それにしても随分と沢山の良質な鉄鋼が採集できそうだ。これだけの鉄を売れば、セレネのマシンガンと、俺のソードオフの弾丸をしこたま買ってもまだまだ余裕がありそうだな。なにせ、セレネと俺の獲物は金食い虫だからなっ」


「にひひひ。それにくらべてあっちの魔法はお財布に優しいにへ。ご主人様もあっちをほめるにへぇ」


 そういって突進しながら抱き着いてくる

 ロリっ子を受け止め頭を撫でるなでる


「まぁ、おまえは食費と衣服にかかる費用が高いからどっこいだけどな。つーか、その小さな体のどこに食糧が納まっているんだよ。おまえのお腹おなかの中はブラックホールか何かか? あれか、四次元ポケット的なあれなのか?」


「魔法を使うには膨大な、エネルギーが必要にへ。だから、スイーツをいっぱい食べなきゃいけないにへ。それにぃ……おーとーめーにそーいうことをーいうご主人には鉄拳制裁にへぇ~!」


 顔面にパンチが飛んでくるが、避ける必要もない。

 猫パンチ以下だ。これでは、飛んでるはえも殺せまいよ。

 ロリ助をあやしていると、後ろからズシリと重い感触。


「…………おっ…………重い。ロボ子、お前もかぁ!?」


「乙女に対シテ体重の話題を振るノハ紳士失格。鉄拳制裁デスッ!」


 その拳は、サラマンダーよりずっと……速いっ。

 風圧のあとに、少し遅れて髪がはらはらと宙に舞った。

 一瞬、俺の攻勢防御結界の自動発動しそうになった。


「いやいや、すまんロボ子……。冗談……冗談……。今日は、翼竜退治のためにフルウェポン装備で出かけたんだから多少は重くなっても仕方ないよな。ははは」


 乾いた笑みがこみ上げる。

 あまりセクハラ発言をしていると、

 モンスターに殺される前に仲間に殺られる。


「そうデス。……今日は私が重いのは仕方がないのデス。あの、ソノ。マスター……私にも……その、ナデナデしてくだサイ……」


 かわいい奴めやつめ。うりうりと上から

 頭を乱暴に撫でつけるなでつける


 セレネが顔を少し赤らめた気がした。

 オーバーヒートかしら?


「セレネさん…………爆発したりしない……よねっ?」


「失礼ですッ。ワタシは爆発したり、しまセンッ!」


 ちょっと瞳が潤んでいる感じのロボ子。ちょっといじり過ぎただろうか。自分の居場所を奪われたロリ助は口をぷーっと膨らませて、ぷいっと横を向いてしまった。


 この世界は、科学あり、魔法あり、ドラゴンも、

 宇宙人も、不死者もなんでもありありな過酷な世界。


 そして、転生者たちの冒険の物語。

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