第16話 変りゆくもの

 人の気持ちなんて、直ぐに変る。流行の服なんかと一緒だ。凄く短いスカートが流行ったかと思えば、膝丈のスカートが流行ったり。カラフルな原色が流行ったかと思えば、柔らかなパステル系が好まれたりする。お店だって、昨日まであったものが急に閉店になって、二週間後にはもう別のお店に変っていたりする。

 毎日毎日、何かしらの変化がそこここにはあって、そんなことにいちいち目くじら立てたり、神経質になったりしていたら心が持たない。

 変わらないものなんて、この世にはないんだから。

 だから私は、変っていくものたちを見て見ぬ振りするくらいしか、防御する手段を思いつかない。

 狡いって言われても、傷つくのは怖いもの……。


 夏休みも終わりに近づき、毎日をダラダラと過ごしていた。宿題に関しては、悠介のおかげで気を揉む事もない。

 中学までは、夏休みが明ける前日まで、あーでもない、こーでもないと、ブチブチ文句を言いながら宿題を仕上げていた。それを思うと、いつもは追いつめられる宿題を呆気なくやり終えてしまったのは、なんとなく炭酸が抜けたコーラのように気力のない感じだった。

 宿題に追われていた頃がいいってわけじゃないけれど、もう学校が始っちゃうんだ、あ~あ、というやる気ゼロののびた君並みにゴロゴロとリビングの床を転げ回ってしまう。こんな時、ドラえもんが居たら、ちょっと楽しくてスリルのある冒険の旅に出かけられるのに。

 生憎、うちの引き出しからは、文房具店で買ったノートやペンたちが出てくるくらい。あまりに真っ当過ぎた物しか出てこなくて、つまらないと言うのもつまらなすぎて言葉にもならない。

「毎日毎日。よくもまぁ、そうダラダラと過せるものね」

 呆れた声をかけてきたのは、ママだ。朝からずっと、落ち着く間もなく家の中をうろちょろと行ったり来たり。

 家事って、そんなやることだらけだっけ? 自分で仕事を増やしたりしてない? 少しくらい腰を落ち着けて、ゆっくりしたらいいのに。

 忙しそうにしているママの姿を目にすれば、ほんのちょっぴりだけど罪悪感を覚えて、洗濯物を干すくらいは手伝おうかなぁなんて、面白くもないテレビのワイドショーを見ながら思うことだってある。けれど、思っている間にいつの間にか時間は過ぎていて、洗濯物はとっくに干し終わっていたりする。かと言って、次に部屋中の換気をしながら掃除機をかけている姿を目にしても、手伝おうと重い腰を上げるわけでもない。

 結局、今日もまたダラダラと床の上をゴロゴロするだけ。あーあ、ドラえもんが現れないかなぁ。

 私のだらけた姿を見たら、岩崎君はどう思うのだろう。彼が私にどんなイメージを抱いているのか知らないけれど、きっと幻滅するに違いない。どちらかと言えば、そうなってくれる方が私としては都合がいいわけだけれど、こんなだらけた姿を見せるためには、家に招待しなくちゃいけないわけだし。そうなると、余計に面倒な事にもなりかねないからやめておこう。

 数学が苦手な私に、岩崎君は代入する事を教えてくれたけれど、消化するにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

 けれど、私の消化を待てそうにない彼が次にどんな行動を起こすのか、興味半分迷惑半分。これが自分のことじゃなかったら、興味津々百パーセントなんだけどな。

「あ~あ」

 ため息交じりに声を漏らすと、すぐそばで飽きれたように大きなため息を吐かれてしまった。

「本当に暇そうね。そんに時間を持て余しているなら、買い物にでも行ってきてくれない?」

 掃除機片手に仁王立ちしているママの頭に角が見えた気がして、私は渋々体を起こす。

「何を買ってくればいいの?」

「トイレットペーパー、三つ」

 ママは、三本の指を立てて不自然なほど恐い笑顔をみせる。

「トイレットペーパー!? しかも、三つも」

 辟易した顔をすると、更に角の幻影がはっきりと見えてくる。怖い、怖い。

 二月に使った節分の豆は、残っていなかっただろうか。少しくらい湿気っていても、効力に変わりはない気がする。口に出すことなく思っていたのだけれど、ママは読心術でも備えているのか、益々角がはっきりと見えてくるようだった。

「駅を過ぎた先にあるスーパーが、今日は特売なのよ」

 ママはエプロンについているポケットの中からお財布を取り出すと、千円札とポイントカードを私に差し出した。これ以上怒りを買うと夜ごはんの内容に影響しそうだから、お金とカードを素直に受け取った。

 駅を過ぎた先にあるスーパーまでは、歩いて二十分は掛かる。こんな暑いさなか、そんなところまで出かけるなんて、想像しただけで汗が噴き出てきそうだ。しかも、帰りにはトイレットペーパーを三袋も抱えて帰ってこなくちゃいけないのだ。考えたら、今更ながらに、やっぱり行きたいくないと手にしたお金とカードを返したくなってしまう。

 そうだ。少しでも楽して汗をかかないために、いいものがあった。

「自転車で行こうかな」

 ママの電動自転車を借りていけば、らくちんスイスイじゃん。

「駄目よ。ママもこのあと近所のスーパーまで出かけるの」

「えぇ~」

 近所に行くなら遠くへ行く私に貸してよ、という思いは少しも通じず、結局歩いていく羽目になった。

 自分の自転車はどうしたのかと言えば、もう何ヶ月も前に後輪がパンクしたまま、ずっと放置していた。自転車屋さんへ持っていくのが面倒で、愛車はここ数ヶ月私に乗ってもらえないまま自転車置き場にポツリと存在している。

 こんなことなら、さっさと直しておけばよかったと後悔しても今更だ。

 ママの自転車を恨めしそうに横目で見て、自分の愛車には申し訳ないと片目をつぶり、銀ギラの太陽が照りつける中、日傘もささずにぽてぽてと歩いていく。

 帰りにトイレットペーパーを三つも抱えて帰ってくることを考えたら、日傘は荷物にしかならないと諦めたんだ。

 数分も歩かないうちに、ものの見事に汗が浮いてきた。日焼け止めは塗ってきたけれど、ハンカチを持ってくるのを忘れてしまい、家からまだそれほど離れていないから戻ろうかとも考えたけれど、一度戻ったらきっともう二度と出たくなくなるだろうと諦めた。

 商店街に差し掛かった頃、暑さに溶けてしまいそうになっていたら、偶然にもさっちゃんに出くわした。正確には、さっちゃんが乗った車に、だ。

「真央ー」

 さっちゃんが素敵な笑顔で、信号待ちの車の窓から手を振っている。

 さっきまで暑さにうだり、帰りたいとさえ思っていたのに。さっちゃんの可愛らしい笑顔を見た瞬間、気持ちがシャキッと急上昇した。

「お出掛け?」

 小走りに車へ近寄って行くと、ほんの僅かに小首を傾げて訊ねられ、可愛いなぁ、なんて思ってしまう。

 女の私がそう思うくらいだから、きっとさっちゃんはモテモテちゃんのはず。けど、男の子の思う可愛いと女の子が思う可愛いには、随分とギャップがあるとファッション誌のコラムに書かれていたのを思い出した。男の子は、計算づくの可愛さにコロッと騙されるらしい。

 さっちゃんは、計算で可愛さをアピールするタイプじゃない。だから、男の子はさっちゃんの可愛さに気づかないでいるのだろう。

 自分で言うのもなんだけれど、私も計算は大の苦手だから、自分を可愛く見せる方法なんて思いつかない。なのに、どうして岩崎君は、私なんかがいいなんて思ったんだろう? 私、岩崎君に好かれるような何か、したっけ?

 あれこれ考えてみても思いつかないし、今はさっちゃんだ。

「ママにトイレットペーパー頼まれちゃって、この先のスーパーまで行くところなの」

 イヤイヤな表情を前面に出して嘆くように言うと、さっちゃんが可笑しそうに笑った。

「だったら丁度よかった。乗って行かない?」

「いいの?」

 私が訊き返していると、黒塗りのワンボックスカーの運転席から、さっちゃんのお兄さんが顔を覗かせた。

「真央ちゃん、久しぶりだね」

 さっちゃんのお兄さんは、爽やかさ全開のナイススマイルで挨拶をすると、さっちゃんと同じように乗っていきなよ、と快く私を乗せてくれた。

 後部座席と言うか、中間座席と言うか。とにかく大きな車の真ん中の席に、さっちゃんと二人で座った。

「どこかへ行くの?」

 乗り込んだ車内で、さっちゃんに訊ねる。

「ううん。行って来た帰り」

 訊くと、お祖母ちゃんのお見舞いに行った病院の帰りだとか。

 さっちゃんのお祖母ちゃんは、もうずっと糖尿を患ったかなんかで長い事入院している。さっちゃんは、時間ができるとこうやってお見舞いに行っているみたい。

 私は、幸か不幸かお見舞いという経験がまだ一度もない。父方の祖父母は私がまだ小さい頃に亡くなってしまっているし。母方の祖父母は、元気に田舎暮らしをしている。

 そういえば、今年の夏はパパの仕事の都合で田舎へは行けなかった。おかげで、余計に毎日が退屈なんだ。

 仕事なんだから仕方ないと思っても、暇を持て余しまくっている私にしてみれば、理不尽でならない。

 なんなら、一人でも行けばよかったかな。今更ながらそう思いついても、もう遅い。夏休みは、あと一週間もないのだから。

 さっちゃんのお兄さんの車のおかげで、あんなに遠いと思っていたスーパーまで、あっという間に着いた。

「待っててもいいのに」

 さっちゃんのお兄さんは、買い物が済むまで待っていると言ってくれたけれど、駐車場に入ってしまうと駐車料金を取られてしまう。スーパーで千円以上の買い物をすれば一時間無料になるけれど、トイレットペーパーを三袋じゃ、どう見積もっても千円を超えることはない。

 そもそも、千円を越えるトイレットペーパーを使えるような家だったら、こんな遠くのスーパーまでポテポテと歩いてやって来るなんて事もないのだ。

「大丈夫です。ありがとうございました」

 ペコリと頭を下げ、スーパーの前で降ろしてもらった。さっちゃんにバイバイと手を振り、スーパーに入る。適度に効いたエアコンのおかげで、店内はとても快適だ。

 ちょっと大きなスーパーは、フラフラと見て歩くと、少しばかりの暇つぶしになる。

 一階は、食料品。二階は、日用品。三階には、衣料品や文具、玩具や書籍のコーナーがある。

 私はトイレットペーパーを買う事よりも先に暇つぶしを選び、迷うことなく三階へと向った。そこで、更に暇つぶしになる人物を発見した。

 書籍の前で、なにやら難しそうな顔をしている人物に向って声をかける。

「ゆーすけー」

 僅かに顔を上げたあと、私の姿を認めると驚いたあとにすぐ笑顔になった。

 小走りに近寄ると、その手には参考書が握られていた。参考書と認識した時点で、私は拒絶反応を示し、その本から即刻目を逸らす。ずっと見ていたら、心を参考書という魔物に食い荒らされてしまう。そんな感じだ。ゲームばっかりしている純太に、影響され過ぎかもしれない。

「真央、どうしたの? 珍しいところで逢うね」

「うん。ちょっと、ママに頼まれ物しちゃって。悠介は?」

「うん。近くの本屋に行ったんだけど、思うような物がなくて。ダメもとでここに来てみたけど、やっぱりダメだった」

 悠介は肩を竦めるようにした笑った後、参考書を元の場所に戻す。

 苦手なものが傍からなくなり、私はなんとなくほっとする。一緒に勉強しようなんて誘われても、遠慮だしね。

「ねぇ、ちょっとお茶しようよ。こんな遠くまで来たから、喉か渇いちゃった」

 実際は、さっちゃんのお兄さんの車に乗って来たわけだから、それほどの喉の渇きじゃなかったけれど、せっかくこんなところまで来たんだし、このままトイレットペーパーを抱えて直ぐに帰る気にはなれない。幸い、話し相手もできたしね。

 スーパーに併設するようにある、ファーストフード店の入り口を入ると、中はたいそうな混み具合で、主に家族連れが席を占めていた。

「座れるかなぁ?」

 爪先立ちで奥の方を窺い見てみると、カウンター席に空きがあるのが見えた。家族連れはみんなテーブル席を選ぶから、横並びのカウンター席は穴場だ。

 数少ない空席を取られないように私が席取りをし、悠介に買いに行って貰った。

「お待たせ」

 トレーに乗ったコーラを受け取り、お財布から代金を支払った。

 早速ストローを刺して、ちゅーっと一息に吸い、炭酸にジタバタする。涙目になっていると、隣で悠介が笑った。

 これが純太だったら、絶対にバカにされて貶されていることだろう。私のこういうバカなところを怒る事もなく見守ってくれる悠介は、とても貴重な存在だ。

「悠介、毎日何してる?」

 残り少ない夏休みを惜しむように、自分のだらけた生活を振り返って訊ねた。悠介なら、充実した毎日を送っているだろうし、その充実した時間の使い方を少しは見習おうと思ったんだ。

「うーん。図書館へ行ったり、本屋に行ったり。時々、ゲーセンに行って遊んだり。わりと、ダラダラした生活してる」

 なぁんだ。悠介も、これといって充実した毎日ってわけじゃないのね。

「真央は?」

「私? ……私は、毎日家でゴロゴロ」

 恥ずかしい自分の日常を言うと、そっか、なんてまた優しく笑ってくれる。

 悠介は、いつもそうだ。怒っているところなんて、見た事がない。純太と言い合いみたいなのはしているけれど、それは本気じゃなくて、じゃれている感じだし。ぷんぷんに怒って、大きな声を出す姿を見たことは、今まで一度もない。

 普段でも、悠介はそうなんだろうか? あんまり怒ったりしない?

「悠介ってさ、すんごく怒った事とかある?」

「え? どしたの、急に」

「純太はさ、よく怒ってるじゃない。くだらないことにもいちいち目くじら立てるし、私なんかしょっちゅう怒鳴られてる。でも、悠介からものすごーく怒られた事ないし、そんな悠介も見たことないよなぁって、ふと思ったから」

「うーん。怒るってさー、パワーがいるよね。僕はあんまりパワーがあるほうじゃないから、何でも穏便に済ませちゃうのかも」

「でもさ、納得できないこととかあって、ムカッとしたりはするでしょ?」

「することもあるけど。そういう時は、一つ息を吸って、落ち着くようにしてる。自分が思ってるほど怒るような事じゃないかもしれないし、もしかしたら、相手の言い分の方が正しいこともあるし」

「なんか。大人だよね」

「そう……かな」

「大人だよー。物凄く頼れるもん」

 しっかりしすぎて、お兄さんかと思っちゃうくらい。同い年だなんて、思えないよ。

 おかげで、純太も私もそんな悠介に頼りっぱなしなんだよね。悪いなぁとは思うんだけど、悠介だと安心して色々任せられちゃうんだ。寄りかかっても優しく受け止めてくれるっていうのは、そばにいる私としては癒しマックスなのだ。

 だけど、頼られたり、寄りかかられたりする悠介にしてみたら、きっとしんどい時もあるよね。純太はいつも言いたい放題だし、私もわがまま言っちゃうし。

「悠介は、凄く優しいから。あんまり我慢しないでね」

 自分の普段の行動を反省しつつ悠介の顔を見て告げると、目を大きく見開いたあと、何かを言いたそうに一瞬口を開いた。けれど、直ぐに閉じて俯いてしまった。

 そのまま何も言わなくなってしまった悠介に、言葉にしてはいけないことを言ったのだろうかと急に不安が押し寄せてきた。悠介が何を思っているのかわからなくて、私はどうしたらいいのかわからず、もぞもぞと何度も椅子の座り心地を確認するみたいに動いた。

 店内は賑やか過ぎるほどにガヤガヤとしていて、子供たちの声がひっきりなしにあちこちで上がっている。それを叱る親たちの声も、あちこちで聞こえていた。

 悠介は、トレーの上に乗ったコーラのカップを握ったまま動かない。汗をかいたカップから、いくつもの雫が垂れ下がり、トレーに小さな水溜りを作っている。

 どうしよう。私、悠介を傷つけちゃったのかな。いつもの笑顔がないだけで、いつもの優しい言葉がないだけで、こんなにも不安になってしまう。

 何をどうしたらいいのか解らず、不安に口を開くこともできずにいると、そのままの姿勢でようやく悠介が口を開いた。

「真央は、狡いよ……」

「……え?」

 悠介が急にポツリと洩らした。

 狡いと言われたことが何に対してなのか解らなくて、ただ私の存在そのものが狡いのかと、更に不安になった。

「そういう言葉、簡単に口にして欲しくない」

「……え?」

 二度目になる疑問の「え」を口にして考える。

 そういうこと? どういうこと?

 頭の悪い私は、悠介の言いたいことが少しも解らない。ただ狡いという言葉だけに反応して、動揺していた。

「ごめん、私。よく解らなくて、でも、……ごめん」

 悠介が私の何に狡いと思っているのか少しも考えることなく、とにかく謝ってしまおうとごめんを連呼してしまう。けど、何がごめんかも解らずに謝っても、きっと悠介は納得しないだろう。

 でも、他の言葉が何一つ見つからないんだ。どうやったら悠介から狡いと思われないのか、少しもわからない。

「真央……」

「……ん?」

 オドオドしながらも、悠介に名前を呼ばれ小さく返事をした。不安な表情のまま、隣の悠介の顔色を窺った。

「誰にでも、優しくしないで」

「え?」

「僕にだけ……優しくして……」

「ゆうすけ……?」

 コーラのカップを握っていた悠介が、トレーに向ってそう零した。

 その手に僅かな力が篭っている事に、私は気がつかない。どんな勇気がそこに存在するのか、私は少しも知らない。

 悠介が抱える気持ちを少しも汲み取れず、わけも解らないまま頭の中がどんどんぼんやりとしていった。

 そうして、何かが変っていくこの瞬間に抗う事もしない。

 直ぐ隣に居る悠介も、いつも怒ってばかりの純太も、代入を教えてくれた岩崎君も、以前と変ってきている。

 今この瞬間の悠介も、ついさっき参考書を手にしていた悠介と違っている気がする。

 みんなみんな、変っていく。どんどん変化していく周囲の状況に、私は今日もやっぱりついていけない。

 見て見ぬ振りしかできなくて、悠介が何かを必死に堪えているように苦しそうな顔をしていても、何か行動を起こすこともできないし、その術も見つけられない。

 かける言葉があるなら、誰か教えてほしい。

 正しい言葉があるなら、耳打ちしてほしい。

 唇をかむように俯く悠介の表情を、いつもの笑顔に変える言葉はあるの?

 自分では考える事もせず、他力本願な思考の私は、だから狡いのだろう。

 悠介の言うとおり、私はきっと物凄く狡い女なのだろう。

 自分で考える事をしない、とても狡い女。

 だけど、何をどうすればいいのか。

 変っていくものたちにどう接していけばいいのか、今の私は解らないと背を向ける。

 そうやって、狡い自分でいることしかできないんだ――――。

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