出…現?
「チャランの成り立ちを鑑みますと、この度の道士殿のご尽力は有難いことですね」
「あ? ああ、そうだな、リヤン」
「一連の出来事をすぐにお知らせできなかった事情は、先刻お話ししました通り。妾とて、伴侶を得て子も授かったこと、早くお話ししたかったのですよ」
王に向けて恥じらいを見せる母の表情を視線の端でとらえたメドウは、胸の内で[芝居臭い…]とつぶやいた。幸い、猫じゃらしを振る振らないで揉めている二人には、認識されなかったらしい。
[先刻お話ししたってのも気になるよなあ。まーた、話盛られてるに違いないもんなあ]
[ええい、何をごちゃごちゃ言うとんねん! 気が散るわ!]
[赤子に当たるな。そんなもの、メドウに意識を向けるそなたが悪い。さっさとじゃらしを振れ]
[無茶言わんとってください]
「その子がこのような技を使えることが近頃知れまして。妾も驚いたのです。父親が教えたものではないのですから」
「ほう、教えられずに?」
「はい」
マイナムの前に腰を下ろしていたジロウは、リヤンの言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろした。
だが安心したのもつかの間、喉の奥で「ひっ」と情けない声を立てると同時に、胸元を押さえた。その瞬間、可愛らしい万歳の形に両手を上げたてのメドウは、彼を見て「ひゃあ」と叫んだ。
メドウが見る限り、チャランの衣服にはボタンというものが無い。襟元を重ねて紐で留めるようになっている。
どうした具合か、ジロウの上衣の一番上の紐が解けかけていて、長い方がふらふらと揺れている。
叫び声に驚いて、王はまずメドウの顔を覗き込んだ。その隙にジロウは、胸元や膝の上をぱたぱたと
「ええい、まだるっこしい!」「どうしました、マイナム殿?」
マイナムがジロウに向かって手を突き出すのと、王の問いかけが重なった。
マイナムはジロウの懐に手を突っ込み、例の猫じゃらしを引っ張り出した。
「あいや、何をなさる!」
「ふんっ!」
腰の引けたジロウの手に、マイナムは鼻息も荒く猫じゃらしを押し付けた。
[師匠の御意志であると我は思う!]
[ええーっ、そんな無茶な]
マイナムが上体を引くと、右手に猫じゃらしを握ったジロウの呆けた姿が王の視線に晒された。
「おや、ジロウ殿? それは何ですかな?」
「ああ、いや、これはその、マイナムさまが」
ジロウが思わず違う違うと手を振ったせいで、猫じゃらしがそこそこ揺れた。
「わっ、タロウ?」
「ほほう。やはりジロウ殿も【タロウ】をなさるのか」
「おわっ」[しまったあぁ!]
興味津々の王の目の前で振られた猫じゃらしから、しゅーっと光の粒子が流れ出した。
「おおーっ!!」
思わず大声を放った王は思わずメドウを抱きしめて腰を浮かせ、警戒の構えをとった。何だ何だと注目した人びとの腰も引ける。
そして光は静かに猫の形をとったが、それが猫だとはなかなか気付かれない。沢山の燭台が置かれているとはいえ、ほの暗い場所を残す大広間では、それがあまりに明るかったせいでもあろう。
「ジロウ殿、それは…?」
王の問いかけに、ジロウの手がかすかに震えたと見るや、内から湧き起こる力に抗うようにぎこちなく身をよじる。
「[
メドウとマイナムの耳には、弱々しいジロウの声をみいちゃんの声が押しのけているように聞こえた。
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