きらきら

[ところでやな。俺の婆ちゃん、家の猫は全部みいちゃんて呼んどってん。ほんで俺も、何とのぉ言うてまうんや。野良猫ぎょうさんおる中で、その子だけ、手から餌食べたりしよったから、つい]


 メドウと目を合わさないまま、ジロウは言い訳のように言った。


「へえ」[あ、前に猫の楽園って言ったよな? そこ、そんなに猫がいるの?]


[せや。市営墓地なんやけどな]


 墓地と聞いて、メドウは眉をひそめた。


[墓地言うても、いっこも暗いことないで。春には花見で賑わうとこやし。散歩コースっちゅうのんか、普段から人も多いしな。広いから、猫の餌やりの人らぁも、エリアごとにいたはんねん。ブルーシート敷いて、餌皿もちゃんと出して、ちゃんと片付けして帰らはる]


 ジロウは思い出して笑った。

 

[タロウも、そこで保護したんや。野良の母猫は、子猫産んでもなかなか人前に出さへんねんけど、タロウは何でか道の端にぽつんとおってな。目ぇはで引っ付いとぉし、口は動いとんのに声は出ぇへんし、こらあかんわって慌てて拾てもうてん。動物病院直行や。ごっつぅ金かかったでぇ]


「ふうん…」


[で、野良の病気とか拾たらあかん思て、そこ行くん控えとったんや。で、そっから3ヶ月くらいたっとったかな。仕事ついでに寄ったとき、そこの道の真ん中に、みいちゃん、待ち構えとってん]


「え?」


[俺のこと、待っとったでぇーみたいな顔して見て。めっちゃ威圧感いうのんか、体中から青い炎がめらめら出そうなっちゅうか]


「うん、うん」


[ほんでな、俺、思わず頭下げとったわ。お父さん、タロウは元気になりました! 安心してください! ってな]


 ふう、と息をつくジロウを見て、メドウは「おおーっ」と手を叩いた。


[そしたらみいちゃん、おぅ、わかった、みたいな顔して、こう堂々と、どっか行ったわ。次に会うたときは、もういつものみいちゃんやってんけど]


「そっかー」[やっぱり、みいちゃん、えらい。光猫かみいちゃんか神様か、わかんないけど。だって、祝福まで受けたんだよね?]


「おお、その話か」


 ジロウは頰を紅潮させた。前のめりになって声が出る。


「改めてこちらに来たときだ。みいちゃんが収まった後、ほんの瞬きの間だが、そこの猫たちが勢ぞろいしたかという大勢で集まって、その全員が光っている姿を目にしたのだ。金色の粒子が彼らを包んでいたのか、彼ら自身が光っていたのか。一瞬が長く感じられたぞ」


「えー?」


「何か、きらきらしい音色も聞こえたのだ。きらきらきら、ちらちらちら、うん、説明しがたいのだが。たくさんの薄い金属の板が、一斉に触れ合うような。難しいな、うん。いずれにせよ、われは強く信じたのだ。これは、神の祝福だと」


[…もしかして、全部思い込み?]


「何?」


[猫じゃらしから出る光猫が何なのか、みいちゃんは元々何者だったのか、この世界のかわいそうな猫たちを、救いに来てくれた神様が本当にいるのか、そもそも祝福されたのか。そういうの全部、私にはそういう感じがしたんですー、ってだけなの?]


「ばっ、馬鹿なことを言うな。事実、猫じゃらしから出た光の猫は、魔石持ちを元の猫に戻しただろう」


[そういえば、猫って言葉と、じゃらすって言葉が存在するから、猫じゃらしって言葉はメドウにならないんだね]


「話をごまかすな!」


[てか、あれ? あの猫、その後に変に封じたりしなかったら、ちゃんとした猫として暮らせたんじゃない? 人喰いなんかじゃなくってさ]


「むんっ?」

 むっとしていたジロウは、目を剥いた。


「そうかもしれん…って、いや! いや、だめだぞ! それではただの弱った個体だと思われて、人間に殺されてしまう!」


「あ…、そうかも」


 メドウは、悲しそうな顔を父に向けた。






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