第5話 わたしと映画館

 一人焼き肉オッケー!

 一人ラーメンオッケー!

 一人温泉旅オッケー!


 ……エトセトラ、エトセトラ。


 こうして一人独身に小慣れてくると女は強くなり一人時間を毎日どう充実させてやろうかとたくましくなっていきます。


 ただ一ヶ所だけをのぞいては。

 そこだけは私にはなぜか敷居が高いのです。

 カップルの聖地みたいな気がして。

 家族や友達と。

 つまり今一人の私には勇気が必要な場所です。


 私はウロチョロしてました。

 ショッピングモールの大きな映画館の前で。

 ポップコーンの芳ばしい匂いが鼻をくすぐります。

 新しいものがたりを知る楽しみが映画館にはあります。

 しかも迫力ある音が聴覚にめくるめく映像が視覚に訴えてきます。

 私は大好きな小説が映画化されて公開したこの初日に、平日だけど映画館に来たのです。


 一人焼き肉には行けるようになった私なのに映画館にはまだ一人では入れてませんでした。


 困りました。

 勇気を出して有給を使ってわざわざ仕事を休んで観に来たのにチケットを買いに行ったり出来なかった。 


 あの小説が動き出すのです。

 文字で想像する楽しみ。

 また違った楽しみで映画になると同じ物語が楽しめます。

 心が踊ります。

 今上映されるのです。


 だけど。

 私はやっぱり一人で映画館に入る勇気が出なくて帰ろうとしました。


 そんな私の肩をやさし〜くふわあっとトントンたたいた人がいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る