第10話 ドキドキが止まらないっ! イズミ

 私は彼を前にした極度の緊張で、油切れを起こしたロボットみたいにカクカクした体の動きをいつまでも直せずにいる。

 横にはイケメン王子様なのだ。

 いたしかたあるまい。


「チケット下さい」


 私と王子様はチケットカウンターの前に来た。


「はい。二名様分でよろしいですか?」


 にこやかに店員さんは私とイケメン王子様を見た。愛想がいい店員さんにあたる。

 それだけで、得した気分になる。

 私とイケメン王子様はこの店員さんにはどう映っているのでしょうか?


 ある時はペットショップ店員である時は搾りたてジュース売りのイケメン王子様。

 よく見たら少しだけくせっ毛なんだなあ。

 可愛い、……ラブリーな犬みたい。

 ニコニコ私を見てくれるなんて、これは夢ですか?

 私はどんどん……どんどん、ポーッ……と夢心地になっていた。


 王子様を見ているとすごく胸が温かい。

 なのに王子様を見ているとキュッとする。


「はい。どちらの映画になりますか?」


 私は見惚れていた。

 キレイな王子様の横顔に。

 でもとても男らしい。

 可愛いのに凛々しいなんてあるの?


「この【ネコ探偵シリーズ相棒はフワフワ犬】を二枚いただけますか?」

「はい。二枚ですね。かしこまりました。……お席はどうなさいますか? 選べますが」

「そうですね……。北条さまはどこの席が良いですか?」


 そうして席順表を見ようとしたら王子様の顔がすごく近くて近すぎて胸がドキドキする。

 どきどきどき。


「どこでも……、私は大丈夫です……」


 私は緊張してかすれた声で小さく呟いた。


「それじゃあ、店員の方のおすすめの席にしましょうか?」

「はい」


 これから映画を観る前に私はすでにイケメン王子様の魅力にメロメロで緊張しすぎて意識を失いそ〜。

 映画上映の時間のあいだ、私の鼓動がうるさすぎる心臓は持つのでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る