第14話 武器を作ろう

 大統領府を出たワタシは、ティナに貰った地図を見ながら帰路を急ぐ。


 辺りはすっかり日も暮れているが、経済大国らしく未だ殆どの店が開店しており昼間と変わらぬ盛況ぶりを見せていた。

 その道中は、大統領府に向かってる時と同じでシャルとして話しかけられる事も多く、会話は交わさないまでも、笑顔で会釈してやり過ごすワタシ。


 ティナとシャルの家の近くの酒屋でワイン等の酒類を買い求めながらも無事帰宅する。


 コンコンコン…… 


「ティナーー? 帰ったぞーーー」


 部屋の扉に備え付けられた獅子の顔を模したドアノッカーを叩き帰宅を知らせる。


「遅ーーーーい! 何してたのお姉ちゃん!!」

「あぁ、悪い。 ちょっと大統領と話し込んでてな」


 ティナと会話を交わすと、リビング前の廊下にドラちゃんが佇んでいる。


「何してんだ? ドラちゃん」

「部屋に入ってって言ってもお姉ちゃんが帰ってくるまで入らないって聞かないの」

「なんで?」

「いえ、 主より先に部屋に入るなど以ての外ですから」


 リザードマン特有のゴツゴツとした肌同様に性格までお硬いようだ。


「元盗賊のくせに、めんどくせーやつだなぁ。 主とかそういうの良いから。 仲間だろ?」

「ワッ、ワタシ様」


 ドラちゃんはその一つしか無い目に涙を浮かべると感涙にむせっている。

 その光景をティナと顔を見合わせ苦笑いするワタシ。


「とりあえず入れよ。 腹減ったしメシにしようぜ」

「うん! さっ、ドラちゃんも入って!」

「かたじけない」


 ティナとシャルが2人で暮らしていたという石造りのこの家は、大きなリビングルームに2人それぞれの部屋と客間という、割とシンプルな造りの家だ。

 リビングには大きな木製のテーブルがあり、そこに車座に座った3人が夕食を囲む。


 夕食が済むとワタシが買ってきた大量の酒類を飲みつつ雑談に花を咲かせる事に。


「いやぁ愉快愉快。 こうして人間と酒を飲むなんて初めての事ですなぁ」


 豪快に酒瓶をラッパ飲みするドラちゃんはすっかり上機嫌のようだ。


「だろぉ? ほらぁ、ティナも飲め飲めぇ」

「無理! あぁぁ、こんなに散らかして。 誰が後片付けすると思ってんのよっ!」


 ティナの少し不機嫌そうな声に、思わず姿勢を正し正座するドラちゃん。


「申し訳ない」

「あぁぁ、ドラちゃんじゃなくてさ! お姉ちゃん」

「俺かよっ! てか何か酔っ払ってきたかも……」

「えぇぇ? 大丈夫?」

「うぅぅん…… 無理……」


 魔王だった時は、酒に酔うといった事が皆無だったワタシ。

 シャルの身体になった現在、酒の強さも人並みになったワタシは、ティナの身体にもたれるように崩れ落ち、その不甲斐なさに少し涙目ですぅすぅと寝息を立ててしまった。



 翌日は、ドラちゃんとワタシの武具の新調をすべく鍛冶屋へ向かう事となる。

 さすがに、軍服姿だと目立つ為にワタシはシャルの部屋のクローゼットから何やら服を物色しているが、当たり前のように女物しか無く、憤慨している。


「なぁ、ティナ? こんな服しか無いのかよ?」

「こんな服って。 当たり前でしょ? 早く準備してよ」

「いやぁ。 さすがに抵抗あるっていうか……」


 ブツブツと文句を言うワタシに少し苛ついた様子を見せるティナ。


「もぉ。 じゃ私が決めるから黙って着てっ。 えーーーっと……」


 ふんふんと鼻歌交じりに楽しそうにシャルの服を物色するティナが選んだ服装は、胸元に黒いリボンが付いた薄い灰色のオフショルダーワンピースだった。


「おいっ。 俺は勇者だぞ?」

「だから?」

「これから武器買いに行くんだけど」

「そうだね! じゃ早く着て」

「いや…… だからさ、聞いてる?」

「聞いてない! はーーやーーくーー」


 暖簾に腕押し状態の問答が数ターン続くが、一向に折れる気配の無いティナに敗れ去ったワタシは、ブツブツと文句を垂れながらワンピースに着替える事に……


「くっ、屈辱だ……」



 旧市街の町外れ、1軒の古びた鍛冶屋だが大統領であるリアレスに紹介されたそこは、知る人ぞ知る名店らしく、あの元勇者レイテなどもお忍びで通う場所らしい。


 若干朽ちた木製の煤けた看板には、ドワイトの工房と書かれている。

 年季の入った木製のドアを開けると、炉に向かう1人の男の背が見える。


「御免。 ドワイト殿ですかな?」


 ドラちゃんを先頭に、店へと入るワタシとティナをジロリとした目つきで見る店主。

 白髪交じりの短髪から覗く獣耳。 亜人というより獣人に近いその風貌は、見るからに人当たりの悪そうな老人で、槌を打つ右腕だけが異様なほど太い。


「ドワイトはわしだが。 何用だ?」

「何用って武器屋に大根買いに来る訳ねーだろ! 武器買いに来たんだよっ!」


 ぶすっとした態度のドワイトに、少し苛ついた様子で応えるワタシ。


 そのワタシの姿を見て、ドワイトは鼻で笑うと、


「ふんっ。 女子供に売るものなど置いとりゃせんわい。 帰れっ」

「あぁぁ? 何だこのジジィ。 舐めてんな」


 売り言葉に買い言葉といった感じで言い合いをするワタシと店主に割って入るようにティナが口を開く。


「失礼があったなら謝ります。 でもリアレス閣下からここを紹介されたので、話だけでも聞いてもらえませんか?」

「…………。 ふん。 出来合いの武器ならその辺にあるだろ。 勝手に見ろ」


 工房と店を兼ねた店内には、壁一面に剣や槍、斧などの武器や甲冑等の防具が所狭しと並べられている。

 ドラちゃんは、少しワクワクした様子でそれらに見入っているようだ。


 しかし、ワタシはそれらには目もくれず炉に向かい作業を続ける店主に再び話しかける。


「なぁ? エアルタイト製の武器は造れねーのか?」

「エアルタイトだと? はーっはっはっは。 何を言っとるんだ? そんな物ある訳無いだろ」

「ある無しは聞いてねーだろ! 造れるかどうか聞いてんだよ」


 ワタシの言葉を一蹴したドワイトだが、造れるかどうかの問いにピタリと作業する手を止めワタシの方へ身体を向ける。


「造れなくはない。 だがまずエアルタイトが無い。 たとえ手に入ってもこの炉じゃアレを融解させる事が出来んな」

「ほほぅ。 じゃエアルタイトが手に入って、そいつを溶かせれば造れんだな?」

「あぁ。 それが出来ればな?」


 真剣な眼差しのドワイトの顔を見てニヤリと笑うワタシ。


「ねっ、ねぇねぇ。 えあるたいと? って何?」

「あっ? それはだなぁ」

「エアルタイトというのはな、羽のように軽く金剛石のように固い金属の事だ。 魔鉱石の一種だから市場には出回らん希少性の高い金属だな」


 説明しようとするワタシの発言を遮るように、ドワイトがティナに説明する。


「って感じだな! うんうん」

「そんなのどうやって手に入れるのよ? 何かアテがあるとか?」

「アテは無い。 けどまぁティナ次第かな!」

「えぇ? 私次第って何? てかそんなの手に入れてどうするのよ?」


 質問のラッシュを浴びせかけるティナに、ワタシは自らの腕をティナの眼前へと伸ばす。


「あのなぁ。 この腕見ろよ。 枝のように細いこれじゃどんなに鍛えてもあそこに並べられてる武器は使えねーだろ?」


 ワタシがそう言いながら指差す先には、ドラちゃんがあれこれ見て回っている壁一面に並べられた武器甲冑の数々。


「それに人間の身体ってのは、対魔属性があるせいで魔法が使えないだけじゃなく魔法で強化もできねーんだよ」

「対魔属性? んん? どゆこと?」

「まぁ説明してもわからんだろうけど、要するに肉体を強化するより、この細腕でも使える武器を作った方がはえーって事だな」

「な…… なるほど……」

「お前、絶対良くわかってないだろ?」

「あはははっ」


 笑って誤魔化すティナを他所に、再びドワイトの方を向くワタシ。


「ってな訳で、 ちょっと調達してくるけどレイピア一本作るのにどれ位エアルタイトが必要だ?」

「ふむ…… 本気なのか?」

「当たり前だろ? 冗談言ってるように見えるか?」


 そう言うワタシの姿を上から下へとゆっくり見たドワイトは、


「見えるな。 そんな格好で武器屋に来てる時点で冗談以外の何物でも無いだろう?」

「んぐっ…… だから言っただろティナ?」


 睨むワタシの視線を受け流すように、ティナは吹けない口笛をヒューヒューと吹きながら外方を向いている。


「まぁ良い。 本当に持ってきたなら造ってやる。 大体延べ棒一本分あれば出来るだろ」

「おっ。 延べ棒一本分のエアルタイトに、融解する方法を持ってこりゃ良いんだな?」


 無言で頷くドワイトを見て、ニカっと白い歯を見せるワタシ。


「おーーいっ! 買うもの決まったか? ドラちゃん」

「えっ? あぁ。 決まりましたが、値段が……」

「んん? どれどれ」


 ドラちゃんが欲しいと言ってるトライデントと甲冑にぶら下がっている値札を見るワタシ。


「1、10、100、1000、10000…… 10万か…… たけーな」


 槍一本と、甲冑一領でおよそ72万シェルらしい。

 道理で、客が1人も居ないはずだ…… とワタシは考えていたが、


「じゃこれにするか! おーーいオッサン」

「なんだ?」

「これ貰ってくから大統領府にツケといてぇ」


 自分の腹が傷まないとなれば遠慮無く頂く性格のワタシは、ドワイトにそう告げる。


「すまんがウチは現金専門でな」

「まぁ大統領命令だから! すまんね」

「………… ふんっ」


 少し機嫌の悪くなるドワイトの様子をみたティナとドラちゃんはワタシに、


「良いの? お姉ちゃん。 さすがに高すぎのような……」

「そうですぞ。 よろしいんですか?」

「大丈夫だろ。 あれ見ろよ。 ちょっと笑ってんだろ。 実は買ってくれて嬉しいんじゃねーか?」


 3人がチラッと見るドワイトの口元は、小さく「よっしゃ」と言ってるような動きをして少しだけ口角が上がっているように見える。


「なっ?」


 ティナとドラちゃんは少しだけ苦笑いし、ワタシは得意げにティナの頭をポンポンと叩く。

 トライデントと甲冑を受け取ったドラちゃんは、さっそくそれに着替え店を後にする。


「んじゃオッサン。 また後でなっ」

「ふんっ」

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