第11話 勇者ワタシ…… 爆誕!!!!

 運命の日。


 ここ3日間、シャルとティナの涙雨のようにシトシトと降り続いていた雨模様とは一転し、国王と謁見をする本日は、その門出を祝うかのように澄み切った快晴となっている。


 シャルとティナと別れてから、街の宿屋を転々としていたオレ。


 恐らくシャルとティナは帰国しただろう、と思ってはいたがダメ元で3番地の宿屋へとやってきた。

 宿屋の前まで着くと、そこには意外にもシャルとティナの姿が見える。


「おぅ! おはよ、結局どうすんだ?」


 オレが来る前に帰国しようとしていた可能性もあるので、念の為尋ねることに。


「もちろん、私はやりますよ!」

「お姉ちゃん……」


 語気を強め、オレの目をジッと見据えるシャルの瞳は、昨夜まで泣いていたであろう泣き腫らした目をしていた。


「良いのか? やめるなら今だぞ?」

「もう決めたんです! 絶対に揺るぎませんよ!」


 シャルの覚悟を感じたオレは、「フッ」と笑うとティナの方へと視線を向ける。


「ティナもそれで良いのか?」

「ふんっ。 仕方ないでしょ。 お姉ちゃんがそう決めたんだから」

「ティナ……」


 ティナのその言葉に、今にも泣き出しそうなシャル。


「ってかティナも謁見に来るのか?」

「当たり前でしょ? って何すんのよっ!」


 オレは、懐からエルフ族の付け耳を取り出しティナの耳へと装着する。


「さすがに人間じゃ謁見は無理だろ? まぁシャルの妹って事で勇者に口添えしてもらえよ?」

「あっ…… うん。 ありがとっ」


 少し気恥ずかしそうに頬を赤らめ、お礼を言うティナの頭をガシガシと撫でながら白い歯を見せるオレ。


「さて? 行くか?」

「はぃ! 行きましょっか」

「そうね」


 そう言葉を交わすと3人はそのまま、3番地の宿屋から勇者との待ち合わせ場所である王城前へと向かう事にした。


 王城前に到着すると、そこにはシャルを待ち構える大将軍レイテの姿がある。


「シャルさん。 お待ちして…… ましたけど…… そちらは?」


 シャル1人で来るものとばかり思っていたレイテは、3人の姿を見て少し驚いている様子だ。


「あっ、紹介しますね! 護衛のオーレさんと妹のティナです」

「初めまして、ティナです。 本日は姉と一緒に国王様に謁見させて頂けるそうで。 ありがとございます」

「えっ? あっ、 えっ? 妹さん?」


 レイテはイマイチ状況が飲み込めていない様子ではあったが、「んんっ」と咳払いをすると、


「困りましたね。 てっきりシャルさんだけかと思っていたので……」

「まぁそう固い事言うなよ? 大将軍だったら何とかなんだろ?」


 オレは威圧するようにレイテの肩をグッと掴み、にこやかに話しかける。


「まっ、まぁ話を通しておくようにしましょう。 それではこちらへ」


 世忍ぶオレが魔王オレという事に気付いている訳ではないだろうが、どこか懐かしい殺気を感じ取ったレイテは背筋を濡らしながら3人を謁見の間へと案内する。


 

 謁見の間へ到着すると、勇者様御一行や近衛兵、左右将軍がその場に勢揃いしている。

 彼らは国王が来場するまでの間、片膝をついて待つオレ、シャル、ティナを値踏みするように眺めているようだ。


「な…… 何か緊張してきちゃいました……」

「落ち着いてお姉ちゃん」

「あぁ。 もう決心はついてんだろ?」

「もっ、もも…… もちろんです」

  

「静粛に! 第25代アリーシャ国王 エスメラルダ・フォンメール国王の御成ーー」

 

 ヒソヒソと会話を交わすオレ達の声を掻き消すように、国王の来場を告げる左右将軍の声が場内に響き渡る。


 その声を聞き、ゆっくりと控えの間から謁見の間にある玉座へと国王が歩を進める。

 片膝をつき頭を下げ俯き、国王からの声掛けを待つ3人。


「うむ。 遠路はるばるご苦労であった。 表をあげよ」


 国王がミランテ共和国の使者であるシャル、オレ、ティナへ声を掛けると、シャルはゴクリと息を飲み、意を決したように胸元からペンダントを取り出す。


 取り出した青い宝石を握り、ゆっくりと顔を上げるシャル。

 それと同時にオレとティナも顔を上げるが、眼前の玉座に座した国王の姿を見て愕然とする。


 その姿は醜悪で、頭は禿げ上がりヌメヌメと脂に塗れており、背丈も子供程しかなく肥え、まるで食肉用の家畜に国王の衣装を纏わせたような姿だ。


 その姿を見たオレとシャルは思わず顔を見合わせる。


「これはキツイな…… まぁ…… 頑張れよ」


 小声でシャルに最後通告をするオレに、


「無理無理無理!あんなの絶対に無理ですって! オーレさん! どうしましょぉぉ」

「どうしましょって言われてもだな……」


 場内に響き渡るシャルの大きな声。


「そっ、そうよ! あんな化物みたいな奴、絶対にお姉ちゃんって呼べないっ! 帰ろっ!お姉ちゃん」


 国王を指差しながら同じ位の声量でティナもそれに続く。


「なっ、なんだ此奴等は? 無礼な奴らだ! 捕らえっ…… 」


キィィィィーーーーーーーーーーーーーン…………


 国王がオレ達の発言に反応し、近衛兵に捕えるよう指示を出した瞬間、突然オレとシャルから耳を劈くような音と共に眩い光がほとばしり辺り一面を白い闇で包む。


「うわぁぁぁぁ」


 その場に居た全ての者が、その光を避けるように目を閉じ叫び声を上げている。

 皆が腕や盾で光を避けるようにしていたが、数秒でゆっくりと白い闇が消え元の状態へと戻っていく。


 光が消え、現れた姿。

 その姿は金色の長い髪に長く尖った耳、赤く輝いた蛇のような瞳。

 世を忍ぶ仮の姿では無い、正真正銘の魔王オレの姿だった。


 魔王オレとシャルは互いを指差し、お互いに言葉を発する。


「お…… 俺?」

「わわっ、私?」


 いまいち状況が飲み込めない2人の姿を、唖然とした表情で見つめるティナ。


勇者様御一行「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! まままま、魔王オレだぁぁぁぁ」


 静まり返った場内に響き渡る勇者様御一行の声。

 その声を聞いた近衛兵は王の周りを取り囲み盾を構える。

 ガクガクと震えながら、腰を抜かす勇者様御一行の姿を見た王が声をあげる。


「こっ、これが魔王オレ? な…… なんたることだ…… 魔王は復活したのかぁ」


 その場に居た全員が、魔王オレから発せられる禍々しいオーラに飲み込まれそうになっている。

 が、当の魔王オレは眼前に居るシャルと互いに指を差しあったままフリーズしているようだ。


「おっ、おいコラ! てめぇ何してんだボケぇぇぇ!」


 急にシャルが大声を上げ、魔王オレへと詰め寄ると、


「ごごごご、ごめんなさい! あわわわっ。 ごめなさぁぁぁぁい」


 魔王オレは、半泣きの顔で突然入り口の方へと逃げるように走り出す。


「まっ、待てぼけぇ! こらぁ」


 シャルは走り出した魔王オレへと手を伸ばし追いかけようとするが、咄嗟の事で躓き、その場で転んでしまう。


「ぃいっ…… 痛ってて……」


 その間に謁見の間の重厚な鋼鉄製の扉をぶち破った魔王オレは、そのままどこかへと走り去ってしまい、後には、人型に穴の空いた謁見の間の扉が残る。



「おっ…… お姉ちゃん?」


 状況の飲み込めていないティナはシャルへと声を掛ける。


「…………っ。 まじか……」


 シャルは両手で自分の顔や身体をバシバシと確かめるように触ると、愕然とした表情でボソリと呟く。



「あっ、天晴! 見事だ!!」


 唖然&愕然とするシャルとティナへ、突然大声で国王が呼びかける。


「あの伝説の狂王。 魔王オレが逃げ出すとは。 そなたこそ真の勇者である! 大臣!」

「はっ、はは。 こちらに」

「その者達の名は何と言う?」

「はっ、軍服の彼女はワィゼル・タチアナ・シャルロッテ。 妹君はワィゼル・タチアナ・クリスティナ。 と書かれておりますが……」


 大臣は本日の謁見の名簿を確認すると、王へ返答する。


「ふむ…… なるほど。 頭文字を取ってワタシと言っておったのか魔王は……」

「そ…… そのようですな」


 ヒソヒソと会話を交わす王と大臣。

 その姿を他所に、シャルとティナも小声で会話を交わす。


「ちょ…… ちょっと? お姉ちゃん…… だよね?」


 ティナがシャルにそう問うと、シャルは人型に穴の空いた扉を指差し、


「お前の姉ちゃんは走り去ってっただろ……」


 シャルはがっくりと項垂れ、力無くそれに答える。


「勇者ワタシよ! 我が国、いや。 世界のために立ち上がってくれ!」


 呆然としていたシャルだが、国王の声にハッと我に帰る。


「てっ、てめぇがそんな醜悪だからこんな事になったんだろうがぁ!」


 シャルは怒りの持って行き所を見失い思わず国王に絡もうとする。


「ひぃぃぃ」


 その声に国王は怯え、周りを取り囲む近衛兵や勇者様御一行が思わず止めに入る。


「ちょ、ちょっと落ち着いて… ください。 シャルさん。 いや、勇者ワタシ様」


 元勇者レイテが、シャルの前に立ち塞がる。


「邪魔すんなボケ! てめぇも…… っと」


 怒りに任せ、その場にいる全員を皆殺しにしてやろうと思ったシャルであったが。

 ふと考えると…… シャルには無理だ。 何故なら人間だから……。


「落ち着いてください。 陛下! 即刻、ミランテとの平和条約を。 それと魔王オレ復活と勇者ワタシ誕生を世界に知らせてください」

「おっ、おい! 勝手に決めんなっ」

「うむ。 大臣。 すぐに取りかかれ!」

「ははっ」


 その場に居た皆が慌ただしく動き回る中、ティナがシャルへと声を掛ける。


「ちょっと。 一体どうなってんのよ?」

「見りゃ分かるだろ?」

「見りゃって…… てかさっきの。 肖像画で見た魔王オレ様だったよね? えっ?えっ? ってことはオーレっていうのは…… 魔王オレ様だったって事?」

「まぁ…… そうなるな」

「それが何でお姉ちゃんと入れ替わるのよ! んですか?」

「今更、口調変えんなめんどくせー。 何でって……そんなの俺もしらね……」


 そう言いかけると2人は顔を見合わせ、


「あっ……」


 先程の出来事を思い出す2人。

 魔王オレが人間に与えた異能、【入れ替わりの術】

【青い石を握って相手と目を合わせ【リムリム・リアンナ】って言葉を大声で叫ぶ】

 この事で、加術者と被術者の身体を入れ替える。

 先程、シャルは確かに石を握り、オレの目を見て「理無理無理!あんな」と言っていた。


「あのバカ女……。 何て事しやがったんだ……」


 怒りを通り越し呆れ… いや絶望に近い表情で呟きながら、ちょっと泣くシャルの姿をしたオレ。


「ま…… まぁ、あれよりマシかなぁぁ? なんて…… はははっ」


 国王を軽く指差しながら、乾いた笑いで慰めるティナ。

 そんな2人に元勇者レイテが声を掛ける。


「勇者様、ティナさんも。 どうでしょう? まずはミランテに戻られては?」

「えっ? えぇ。 そうですね」

「ってか、勇者はお前なんじゃないのか?」

「い…… いやぁ。 僕では魔王オレには勝てないですし。 あはははっ」


 笑って誤魔化す元勇者レイテを冷ややかな目で見るシャル。

 この瞬間、オレは勇者ワタシとして世界の平和を守る為に動き出す事となった?


   勇者ワタシ……   爆誕!!!!

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