第10話 狡い女

《家にいるけど。くる?》


そう返信すれば


《これから行きます》と返信が来た。


明日の会議の最終確認だけ済ませておこうとpcへ向かう。


丁度確認が済んだころインターホンが鳴った。


モニターを覗くと陽平が笑っていた。

「いらっしゃい」

一言声をかけ、ロックを解除して玄関へ向かう。



玄関扉も解錠して開ければ、丁度エレベーターも到着して


「おじゃまします」と上がってくる陽平の両手にはスーパーのレジ袋が下がっていた。



「なにそのにもつー」


「いや、大したもん食べてないんだろーなとおもって。今日は俺が飯作りますよ!」


その笑顔は私には勿体無いくらいにきらきらしていて気遣いと笑顔に後ろめたさを感じた。



「私なんかじゃなくて彼女に作ってあげればいいのに。」


「俺に彼女いないの紗奈さん知ってるでしょ。」


「じゃあ私のとこなんか来てないで彼女探しておいで。」


「私なんかって紗奈さんいつも言うけど、俺は紗奈さんにつくりたいんです!」



「それ以上言ったら怒りますよ。俺がやりたくてやってる事だけど。大体、紗奈さん心配かけ過ぎなんすよ。食べない癖に運動ばっかりして。すげー痩せたの気付いてます?」


陽平にしては珍しく若干強めの口調でまくし立てられた。


「あ、ごめんなさい。これじゃ逆ギレっすね。勝手に来てるのに。」


「あたしこそごめん。陽平のご飯美味しいし、そうやって心配してくれるのも嬉しいよ。」


そう言うとシュンとしていた陽平は一瞬にして表情を変えた。



「紗奈さんさ、そうやってひとりで強がんないでよ。俺じゃ頼りないの分かってるけど。強がる紗奈さん見てるの辛い。」



出会った頃より横顔が大人になって、私がグズグズしてる間に陽平だって変わってる。



「そんな事ないよ。別に強がってない。」


「じゃあなんでそんなに追い込むんだよ。自分の事。」

そうボソッと呟いて陽平はキッチンへと向き直った。



不倫を選んだのは自分。


差し伸べられる手を掴めないのも自分。


気持ち隠して、強がって。それが今出来る精一杯だから。


不意に核心を突かれて。ボロが出そうになるんだ。


大人な翔ちゃんとは違う、陽平のストレートなは言葉は取り繕う私にグサグサと突き刺さった。


ソファからはキッチンがよく見える。


手際よく食事の支度をする陽平の後ろ姿を見ていると荒んだ気持ちが凪いでいく。


のんびり見ていたらいつのまにか寝ていたようで


「ご飯できましたよー」って


目を開ければ陽平は鼻が触れてしまいそうなほど近くにいた。


「ッッやだもー!」


「あ、笑った」してやったりな顔をして軽いキスが降ってきた。


予想外の展開に年甲斐もなくぽかーんとしてしまった。


「ほら、ボーッとしてないで冷める前に食べて下さい」


美味しそうな具沢山の野菜スープにシンプルなパスタ。


パパッとこんなの作れちゃうんだからさぞモテると思うんだけど。

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