第8話 差し込む朝日
翔ちゃんの腕の中が余りに居心地が良くて、
気づいたら朝になっていた。
こんなに熟睡したのはいつぶりだろう。
激しい情事を下半身のダルさが物語っている。
まだ、すやすやと寝息を立てている彼の腕からするりと抜け出し浴室へ向かう。
翔ちゃんの香りのボディーソープに包まれながら昨夜の情事に想いを馳せた。
昨日着ていた洋服は翔ちゃんの手によって綺麗にたたみ直されていて
そんな几帳面な所にふっと笑みが零れた。
身支度を簡単に済まさせリビングへ戻れば家主の彼も目を覚ましていて2人で簡単に朝食を済ませた。
「じゃ、そろそろ帰るね。」
そう告げたら
「お前なんか俺に言いたい事あるんじゃないの?」と予想外の答えが返ってきた。
確かに思い当たる節がないわけでは無いがまさかバレてると思っていなかった私は一瞬驚いた。
「なんの話?別にないけど。」
そう返せばいつだって彼は深入りしようとはしないから。
「またね。翔ちゃん。」
そう声を掛ければ
「おう」と返答はあったが、まだ何か言いたげなニュアンスはぬぐいきれていなかった。
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間違いなく紗奈の瞳は一瞬揺れたがやはり否定されてしまった。
俺は悩みも相談できないほど頼りないのか。
そう思うと心細く悲しかった。
紗奈がいない部屋は妙にガランとして。
自分の部屋なのにどこか別のところに来たような変な錯覚に陥る。
あと1日残っている休日の使い道を考えながら、スマホへ手を伸ばしベットへ転がれば、まだ紗奈の香りが残っていて、吸い込まれるように眠りに落ちた。
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あのまま一緒に居たら彼にすがって後戻り出来なくなりそうで、足早に彼の家を出た。
今日は日曜日。あの人からの連絡はないだろう。
初夏の陽気に誘われて一駅先の我が家まで歩いて帰ることにした。
いつからだろう。こんな風に彼を利用するようになったのは。
物心ついた頃には既に側にいてくれることが当たり前で。
守ってもらっていることも当たり前すぎて気付いていなくて。
周りになんと言われようの彼とのあいだに恋愛感情があるなんておもってもみなかった。
翔ちゃんにだって恋人はいたし私だって人並みにモテたと思う。
お兄ちゃん。そんな感覚で時を重ねていたはずなのに。
見掛けによらず奥手だった私の初体験はたしか高1の今日みたいな暖かい日だった。
当時付き合っていた一つ上の塾が同じだった人。
いつものように家へ誘われ。
行為に及んだ。でも初めてだった私ははただ痛いだけで。
でも、初めてだと彼氏に伝えることは出来なくて。
その後、どちらともなく自然消滅したんだっけ。
そんな苦い思い出が蘇る。
頭の片隅に追いやったこんな記憶が蘇って来たのは今日の陽気があの日に似ていたからだろうか。
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