第5話側にいて 2

久々に乗る翔ちゃんの助手席。


当然のように私の好きなコーヒーを買ってくれる彼


教えてくれなかったけど、きっと行き先はあそこだろう。


私は翔ちゃんを利用している。

狡い女だと自覚もある。


あなたはどこまで気付いているのかな。


所々古びてしまった水族館。

いやという程と時の流れを感じさせる。



あれからわたしは大人になれた?

翔ちゃんに似合う女性になりたかったのに。



いつからだろう歯車が狂い始めたのは。




水族館へ行ってそのあと近くの浜辺に寄るのが定番のコース。


沈む夕日がオレンジ色にあたりを照らす。


いかに自分が狡くて汚いのか思い知る。



「翔ちゃん……側にいて。帰りたくない。」


そう告げれば翔ちゃんは指を絡めてくれた。


「さ、寿司でも食いにいくか。」


彼からの返事は全く関係ない食事のことだった。


食事を終え、車内に乗り込む。


行きとは違う音楽が響く。



「俺んち?おまえんち?」

その短い問いに

「どっちでも。」

と、さらに短く返すと

車は都心へと発進した。



到着した先は翔ちゃんち。

最近はうちで会うことが多かったからこっちに来るのは久しぶりだった。



「おじゃましまーす。」


申し訳程度の挨拶の後何度も訪れている部屋へ足を踏み入れる。



久々に訪れたこの部屋は以前となんら変わりなく。

そんな些細な事にホッとする私がいた。



「これでいい?」


机に置かれる缶チューハイ


翔ちゃんのこうゆうところが狡いと思う。

私の好きなもの全部知ってて。



翔ちゃん運転で飲めなかったから改めて乾杯をして

一口含むといつも呑んでるはずなのに胸の奥がツーンとなった。



ねえ翔ちゃんあなたの目に私はどう映っているの?



緊張からなのか自分の気持ちを隠す為なのか気付くと大して強くもないのにかなりハイピッチで呑んでいた。


いつもならこんなヘマしないのに。



「呑みすぎ。」


そう笑いながら飲みかけの4本目を取り上げられた。


「風呂、湧いてるから入っといで。」



優しく笑うあなたを見ると自分だけの物なんじゃないかってつい錯覚してしまう。



浴室は翔ちゃんの香りがした。



湯船にブクブクと子どものように沈みこのあとの情事に思いを馳せる。



「紗奈?大丈夫?」



予想以上の長湯になってしまったようでリビングから声がかかる。



「今出るー」



先程の思いを悟られない様に浴室から出ると空き缶だらけだった机は綺麗に片付けてあって代わりにミネラルウォーターが置いてあった。



「俺も風呂入ってくんね」



そう短く言い浴室へと消える彼の背中を見つめた。



何となく付けたTVからは懐かしい歌が流れていてそれを聴きながら彼を待つ。


まだ酔っているのかそれとも懐かしい歌のせいかいつの間にか頬が涙で濡れていた。

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