猫耳フードのゴスロリ少女

…ズキン


(うぅ…頭いてー)


朦朧とした意識の中で、ひどい二日酔い時のような痛み。


(…ん??)


何だか温かい。極上の羽毛布団に包まっているような、優しい温もり。


(…どこだ??)


少しずつはっきりしていく意識の中で、確実に分かること。


(俺の部屋じゃない…)


俺の部屋にこんな温もりは無い。なんて言うと切ない感じもするが…


俺は寝相が悪く、布団をいつも剥いでしまう。だから布団こそあれど、寝るときは毛布のようなフリース、それも厚手のものを着て寝ているのだ。


余談ではあるが、もちろんシャツインだ。

靴下も履く。


もっと確実に俺の部屋じゃないと判断出来るものがある。


(甘い香り…)


白いムスクとローズの混ざったような 、柔らか甘い香り。


(いい匂い…)


この香りにずっと包まれていたい…


そう思った矢先に不意に声がした。


「やっと目覚めたか??」


ビクッとして起き上がろうとするが、頭に痛みが走り、また転がってしまう。


「頭があれだけ割れてたのだ。痛くて起きれぬだろうよ」


(…女性の声…??)


それでも起き上がろうとする俺の真横に、声の主がツカツカ歩いてくる。


「よい。そのまま寝ておれ。」


(…寝ておれ?ずいぶんと…殿様みたいな喋り方するな…)


実際に頭の痛みが激しすぎて、うっすら目を開けるので精一杯だったが、そんな時でも人はどうでもいいことを考えるものだ。


「おそらくおぬしはこの世界の人間ではないな?さしずめ別の世界からの輪廻人であろう。」


(輪廻人??)


頭がズキズキして、うまく話が入って来ない。


「ずいぶん痛そうだのう。反応が無いのもつまらないしの。ワタシが痛みを取ってやろう」


そう言うと声の主は俺の頭に手を置いた。


「っ痛…」


おそらく傷ついたであろう場所に。


「ほれ。もう痛くなかろう?」


(は??何言ってんだこの人。そんなんで痛みが引いたら、医者も薬屋もいらなくなるわ…)


(…ん??)


(アレ??)


(…痛みが無くなった… え?え?)


さっきまでの激しい鈍痛が、まるで嘘のように消え去っている。


「全然痛くない!」


「当然であろう。ワタシに痛みを取ってもらえるなんて、めちゃめちゃラッキーなんだからな??感謝するのだぞ」


驚きと共に勢いよく起き上がった俺の視界に入ってきたのは、得意げに笑う女の子。


「え?子ども??」


どう見ても中学生くらいにしか見えない。


ゴスロリというやつか?片腕長袖、片腕半袖の黒いブラウスと、白いレースの刺繍が施された、膝までの黒いスカート。


特筆すべきは、その上から羽織っている黒い光沢のあるパーカー。そのパーカーには猫耳フードが付いているのだ。


猫耳フードを被った女の子。


「子どもでは無いわ。失礼だの。オマエより遥かに生きておるわ。」


どう見ても、何らかのコスプレをした女の子にしか見えない。


「今オマエの頭に触れて、オマエの過去を全て見たのだがの。」


(ん?過去を見た?)


何なんだろう。イタい子なのか??


「ワタシの思った通り、オマエは別の世界からの輪廻人だったようだの。」


輪廻人。そう言えばさっきも言っていたな。


このいきなり過ぎる状況を把握しようと、思考がぐるぐる回り始める。


柔らかな温もり。甘い香り。変な喋り方をする、痛みを取ってくれた、イタいコスプレ女の子。


考えても考えても…


(全然わからん…)


「あのー…」


「ん?なんだ??」


「質問してもいいかな??」


考えてもわからないなら仕方ない。

俺は素直に猫耳に教えてもらうことにした。


「よいぞ。遠慮なく聞くが良い」


(何でこんな上からなんだ??どう見ても俺の方が年上だろう…)


そう思いつつも、ニコニコしてる猫耳少女を見ていると不思議と腹は立たなかった。

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