前世の最期 若鶏唐揚げ

「店長、お先失礼します!」

「おー、気をつけて帰れよー」


日付けも変わる頃、俺は今日の日報を書いていた。小さな居酒屋の店長をしていた俺は、アルバイトを全員帰した後、最後に日報を書くのが日課だった。一人お疲れビールを飲みながら。


「ふー、今日もよく頑張りました」

誰も居ない店の中で、一人口に出してみる。

いつものことだから何とも思わないが、周りから見たら、さぞかし淋しい光景だろう。


「さて、帰るとしますかねー」

今は冬。外は寒い。ダウンを着て、俺は外に出た。ガス、火元、戸締り確認も万全。


背中を丸めて、店の近くの自宅アパートに向かう俺に、その声は聞こえて来た。


「なんだテメー」

「やんのかコラ!」


一瞬ビクッとする。


(おーおー、喧嘩ですかね。寒いのにお盛んなことで…)


目の前の十字路で、若者が二人、胸ぐらを掴みあっている。


(触らぬ何ちゃらってやつですなー)


そそくさと脇を通り抜けようとしたその時、

ものすごい衝撃が俺の背中にのしかかった。


(え??なに???)


と思ったのも束の間…


ガツン!


更なる衝撃が頭に走る。


どうやら喧嘩をしていた一人が殴られ、倒れたその先に、俺の背中があったようだ。

俺はそのまま勢いよく転び、結果電柱に頭をしこたま打ったらしい。


(白い星なんていうけど、本当に衝撃受けた時って、真っ黒な星が見えるんだなー)


痛みよりも驚きの方が強く、不思議とそんなことを思っていた。


喧嘩をしていた二人が走っていく気配がする。


(なんだよなー、まったく…)


(大丈夫ですかの一言もないのかよ)


そう思いながら立ち上がろうとするが、まったく力が入らない。


(あれー??)


(なんか頭熱いなー)


それもそのはず、その時の俺の頭からは、だくだくと血が流れていたんだから。


そのせいだろうか。倒れたまま見上げる景色が、炎みたいにオレンジ色に見えていた。


(早く帰って寝ないと…)


(明日の…仕込みが…)


今思えば、走馬灯が走る、なんていうタイミングなのだが、仕込みのことを考えたせいか、うちの店の最強名物、


「若鶏唐揚げ」


それしか頭に浮かばなかった。


というわけで、そこで、そんなおマヌケな内容をもってして、俺の前世は最期を迎えたのだった。

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