ゴスロリ少女が教えてくれたこと

ゴスロリ少女が教えてくれたことを簡潔にまとめると


・俺はあの日頭を打って死んだらしい


・死んだあとの魂は天界へ向かう


・時々その魂が時空の歪みによって異世界に紛れ込むことがある


・天界以外では魂だけでは存在出来ないので何らかの物質を見に纏わなくてはならない


・大抵は生き物のガワを纏う


・そうして現れるのが輪廻人


他にも色々聞いたが、多すぎて書ききれないし、何よりピンと来ない。


ちなみに俺は、この世界に輪廻してきて、この猫耳娘の部屋の中に落ちてきたらしい。


大体、ガワを再発行するはずなのに、何で敢えて頭の怪我を改めて作ったのだろう。


変な奴らに監禁されてるんじゃないか??


いつも楽観的な俺でも、ぐるぐる考えてしまう。


「まあさっぱり理解出来ないだろうがの。

事実は事実。とっとと受け入れた方が良いぞ」


説明に飽きてきたのか、ゴスロリ猫耳少女は、片側だけ長く伸ばした前髪を、クルクル弄り始めた。


「あんたの言うことが全て本当だったとして、俺は元の世界には戻れないのか??」


一番気になったのはそこだ。

戻って唐揚げの仕込みをしないといけない。


「無理だのう。よいか?もう現実として、その世界でのオマエは死んでるのだ!その事は変わらないし、戻すことも出来ない。」


ことも無げに少女は答える。


「それとな。」


ピリッと空気が張り詰め、俺は思わず息を飲む。


「あんたじゃない。ワタシの名前はナキなのだ。ナキと呼んで良いのだぞ」


身構えた自分が恥ずかしい。だがあの空気の張り詰め方は尋常じゃない。


(なんなんだこの子は。)


「わかった。ナキ。俺はこの先、ナキの言う元の世界では無くて、輪廻したこの世界で生きていく。そう言うことなんだな?」


「そうなのだ!えらく物分かりが良いの。」


よくわからないが、ナキが嘘を言っているようには見えない。不思議と疑う気持ちも無くなっている。まあそれに、ナキが言ってることと違う現実だったとしても、そこでまた考えればいい。


何より余計なことを考えていると、段々めんどくさくなるしね。


「オマエは何という名なのだ?過去のビジョンでは、テンチョと呼ばれておったが。」


「テンチョ…?? あはは!」


不意な質問に笑ってしまった。


「ムム、何がおかしいのだ!」


ムキーって感じで口を尖らせるナキを見て、何だかどんどん可笑しくなってくる。


「ごめんごめん、テンチョってのは俺の仕事の役職のことだよ。」


「役職??なんだそれは??」


「んー、なんて言うのかな…身分を表すもの??」


「よくわからないぞ。」


この子は本当に俺より多く生きているのだろうか??どう考えても見た目に相応の中身な気がするが。


「んー、例えば、ナキの着てるその服あるでしょ?」


「おぉ、これな!お気に入りなのだ!」


「それを作る人いるでしょ?」


「ミリーじゃ!仕立て屋のミリー!」


仕立て屋!何だかちょっと古風な呼び名だな。


「そうそう!その仕立て屋が、そのミリーさんの身分を表すもの!」


「おぉ、そういうことか!よくわかったぞ!」


わかってくれたなら良かった。

テンチョなんて名前で呼ばれるとこだった。


「ん?ちょっと待つのだ」


え?え?…わかってくれたのでは?


「テンチョとはどんなことをするのだ?ワタシはテンチョなんて知らないぞ」


テンチョを説明するとは思わなかったが、考えてみると意外と難しい。


「んー、テンチョは、そこにいる人をまとめるのが仕事かな。」


「おー!わかったぞ!つまりテンチョは王様ということだな!!」


得意げな顔。


まあまあ。捉え方としては間違ってはいないし、ここまで目をキラキラさせていたら、もうそれでいいやって気にもなる。


「まあそういうことかな。」


「なるほどなー。ワタシと同じなのだな!」


ん??同じ??


一瞬浮かんだ疑問をよそに、ナキが話しかけてくる。


「して、テンチョは名前は何と言うのだ?」


テンチョまだ生きてた…


「ジョー。サワタリ・ジョーだよ。」


「んん??長いな。覚えられないぞ。

もっと簡単にしてくれ!」


「簡単に??」


何を言っているんだ、この子は。

色々言いたいが、めんどくさいのは嫌なので、完結してしまうとしよう。


「ジョー。ジョーでいいよ。」


どの世界にも、事情がある。

サワタリ・ジョーは長いのかも知れないしな。


「ジョーか…。かわいくないな!

ジョーイにした方がいいと思うぞ!」


再び。何を言っているんだ、この子は。


「な、ジョーイの方が良い!今日からジョーイを名乗ったら良いぞ!決まりな」


何なんだろう。この圧倒的台風感。

一切こちらの考えを聞かず、ものすごい圧で自分の主張を押し通した。


不思議と悪い気もしていないのが、不思議といえば不思議だ。


というわけで、俺はこの世界では、ジョーイと呼ばれるようになっていく。


「ジョーイ。これからも王様同士、よろしく頼むのだ!」


またきた!王様同士!!


「んーと。ナキも王様なの??」


何かしら、自分の中での設定でもあるのだろう。ここまで色々教えてもらったし、痛みも取ってもらったのは事実。ここは付き合ってあげるとしよう。


「ワタシは魔王なのだ!」


?????


「ま、魔王??魔界の王様??」

これは想像していなかった、どえらいところを…。


「そう!よく知っておるな!ワタシは魔界の王様、第三魔王ナキ・アレクサンドラなのだ!」


ぽかーん。としか形容のしようがない。

子どもの設定にしてはよく出来ている。


「長いからな、ナキで良いぞ」


ナキ・アレクサンドラ

サワタリ・ジョー


…変わらなくないか??

むしろ、ナキの方が長いのになー。


なんて、物申してたら永遠に時間が必要。


よし!もうそれで良しとしよう!!


「よろしくな、ナキ」


ここから、俺の新しい人生が始まる。

この時点では想像もつかないような人生が。

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