第10話 Ghost Ships
ナイトビジョンは不要なくらいにMH60が投光機で我々を照らしている。
『ブラボーチーム、前方甲板入口、配置についた』
『チャーリーチーム、現在船尾突入待機中』
ケインズ率いるアルファが最後だ。私は彼らとともに甲板にそびえる船室区画へとつながるハッチに取り付いた。
「アルファ準備完了。突入しろ」
大型の筒状爆薬を水密ハッチへと取り付ける。もはや不要だ。
「起爆!」
デモリションマンが点火器を操作し、水密ハッチが内側へと吹き飛ぶ。即座に突入要員がフラッシュバンを中へ放り投げ、閃光と大音量が響く。私の出番だ。
吹き飛んだ入口へ足を進め、MP7を構える。出入り口でもろにフラッシュバンを受けたらしいテロリストの胸から頭にかけてダブルタップ射撃をお見舞いし、更に歩を進める。
事前にフランシス・セス号の青写真は確認済みであり、この通路の突き当たりに大型の会議室があることがわかっている。
私の後に続き4人の隊員が続く。最後尾がケインズだ。
「クリア、クリア」
入口--退路を確保し、更に前へ。MP7のサイドレールに取り付けたX300Vフラッシュライトが前方を横切る人影を捉え、とっさに数発撃ち込む。
「コンタクト!」
後衛の隊員がより高火力のSCAR-Lを私のすぐ後ろで構え、フラッシュライトで照らしこむ。
「敵影なし、敵影なし。ムーブ!」
5人の塊が一斉へ前へ進む。フラッシュライトが照らす前方の廊下から黒い影が飛んでくる。
「グレネード!」
ちょうど足元へ転がり込んできたロシア製手榴弾を私は手にとって投げ返す。2秒ほどの間があき、爆発した。閃光で一時的に目がくらむ。が、相手のほうが被害は大きいだろう。
「マリア、大丈夫か!?」
「大丈夫です、いけます!」
ケインズの心遣いに感謝しつつ、私は更に前へ進む。
廊下の突き当りにたどり着くと、先程の手榴弾で手負いになった男が地面で淡い息を吐いている。私はそれを見、無言でMP7を頭に撃ち込んだ。
「彼女は一瞬で逝くことさえ赦されなかった」
マザーは上空のMH60で各隊員のヘルメットにマウントされたGoproから送られてくる映像を見ながら指示を出していたが、無線にドイツに残したアシュリーが交信してくる。
『マザー、フランシス・セス号の会議室から高出力の無線発信を確認しました。トルコあてで内容は不明です。更にまずい事に、SOS信号が発信されています。スペイン海軍の救助隊が到着するまで1時間です』
SOS信号を使うのは予想外であった。相手はテロリスト、よもや自ら公権に助けを求めるとは。
「マザーより各隊へ。敵がSOS信号を発信した。スペイン海軍の救難救助隊が発信準備中。到着まで50分だ、ケツを上げろ」
会議室前に取り付いた私たちは樫の木で作られた扉へシート爆薬を設置し、起爆とともにフラッシュバンを投げ入れる。これはもはや一連の動作だ。
閃光と響鳴を待ち、中へ入る。
4人のテロリストが目を押さえながら銃を構えようとする。私はMP7で手近の男を撃ち殺し、他の隊員が3人を片付ける。
「クリア」
「よし、部屋を捜索しろ。資料を探せ。なんでもいい」
部屋は明らかに連中の作戦室として利用されており、地図や写真、パソコン、武器が雑多に並んでいた。
「パソコンは筐体ごとは無理だ、ハードディスクだけを奪え!USBも全部だ!」
ケインズの命令で3人の隊員が捜索し、私と彼が銃を保持したまま敵が入り込まぬよう入口を見張る。
『こちらブラボー、船体下層へ爆薬を設置した。これより離脱する』
『こちらチャーリー、船倉でPETNを発見。かなりの量だ。船は消し飛ぶぞ』
各班の報告が入り、ケインズも
「こちらアルファ、現在会議室で敵の資料を捜索中。かなりの量だ」
と答え、背後を向いた。
一発の銃声が響き、彼が私の視界から消える。
私は条件反射で彼が撃たれた方向、私たちが入ってきた入口へMP7を撃ち込んだ。
「ケインズが撃たれた!」
私は叫びながら廊下の奥へと弾を撃ち込み続ける。牽制でもいい。見えないのだ。
「カバーして!」
MP7の残弾が少ない。
別の隊員が現れ、SCARでさらに通路奥をめがけて撃ち続ける。
私は手早くリロードを済ませ、再度その火線に加わった。
「資料を回収した、脱出できる!」
その声で私を含めた3人がスリーマンセルを維持したまま通路へと前進、HDDや資料を手にした隊員とケインズを簡易担架に乗せて運ぶ隊員が後に続く。
「マザー、こちらアルファサブリーダー。ケインズが負傷。指揮を引き継ぎ資料を運搬中」
私の声にマザーは了解とだけ答えた。
結局破壊した水密扉まで敵と遭遇することなく、私たちは甲板へたどり着いた。
MH60が前方甲板の隙間に機体を下ろし、そこへ資料とケインズが詰め込まれる。
その機体に乗り込んでいたマザーはケインズに一瞥をくれ、私に顔を向けた。
「いい判断だった。スペイン海軍のETAまで時間がない。離脱だ!」
MH60はトルクをあげ、機体を紅海上空へと浮かばせる。
『ターキー1からオールファイアバード。離陸を支援してくれ』
『了解、ターキー1』
AH-1Zが二機、ブラックホークを護衛し空域を去る。
ブラボーチームのデモリションマンが設置したC4が起爆し、船体は爆炎をあげ海中へと深く没していく。
スペイン海軍が到着する頃には浮遊物と油だけが残るだろう。この海域は海底が深い。発見は容易でないだろう。
−12月21日 午前11時21分 バージニア州ラングレー−
その日マザーことウォルコットはパパブッシュの名が冠されたCIAの総本山に居た。
つい先日行った作戦の報告のため、スペインからバージニアまでやってきたのだ。
「ウォルコット、報告を」
本案件、つまりはタリク・ナザル案件の専任オフィサーであるジョン・ヴォイドがウォルコットに発言を促す。
部屋は小規模ながら、必要なメンバーは揃っている。ウォルコットが隊員を吐き出させているUSSOCOMの司令官、NSAのケースオフィサー、国防総省の担当官とその他。
「今回の紅海上における作戦は、個人的には成功したと考えています。3チームによる襲撃で負傷者は4名。うちアルファチームリーダーのケインズ大尉が重傷ですが命に別状はありません。推定無力化数は48名。使用した航空機は全て足がつかない形式で処理済みです」
ウォルコットは目配せで国務省の担当官に発言を移す。
「スペイン海軍は結局フランシス・セス号を発見できていない。海底調査を検討しているようだが、海底の深さと海流を鑑みても我々の関与は特定できないだろう。NSAの見解は?」
NSA捜査官はマックブックを叩きながら
「アックス・バンクスが確保した情報で彼らがなんだったのか。ようやく理解できてきました」
部屋のモニターに資料が映される。
「2010年にタリク・ナザルは旧イラク軍残党と元バース党員過激派を扇動し、武装勢力を結成。当時これをNSAとCIAはイラク・バース解放運動として認知していました。指導者は元バース党員のアブ・カブラヒム。しかし、実態はタリク・ナザルだった。彼はカブラヒムを影から操り、2014年にISILに合流。自軍勢力の拡大とコネクションの成長を行っています」
USSOCOMの司令官が手を上げ、NSA捜査官の方を向きながら投げかける。
「アブ・カブラヒムは覚えている。確か2年前、インドで起きたテロ事件の首謀者だったはずだ。未だに逮捕されていないのではないか?」
NSA捜査官は頷く。
「ええ、カブラヒムは2017年から勢力を離れパキスタンを中心に活動しています。我々としてはナザルに接近する方法がない以上彼から探りを入れるべきかと」
ウォルコットはコーヒーを啜り、NSA捜査官の目を覗き込む。
「我々が動こう。カブラヒムの動向は?」
「カブラヒムの現在の所在はチェコのプラハだ。どうやら爆薬製造法の買付に行っているらしい」
ミットケナシュ @KamiseYu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ミットケナシュの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます