第3話 ALONE WITH ME
2019年9月1日 アメリカ合衆国 ロサンゼルス
帰国後直ぐにリーナの病院へ向かった。
医師から先に聞いた「ひどい怪我」という言葉が、脳を渦巻いた。どの程度のものだったのか、私を守るために負った怪我。
心が苦しくて虚しくて。
ただただ締め付けられる思いで……。
ICUに通された私は“それ”を見た。
管に繋がれ、生かされているだけの物を。
リーナは全身を包帯で包まれ、四肢は消え失せていた。
あのしなやかな指は、脚は、すべてが消え失せていた。
医師が私の横で何かを説明している。
だがその言葉は、私の脳に文字として入っては来ない。
ただ音として脳へと注ぎ込まれる。
「シュヴァイツァーさん、シュヴァイツァー………大尉。シュヴァイツァー大尉、聞こえますか?」
「ああ・・・・・・ええ、聞こえる」
辛うじて返せた返事に、医師は私の精神状態を気にしつつ再度説明を行ってくれた。
「スミス中尉は未だ意識が戻っていません。TATPの爆発で中尉は直撃を受け、全身に金属片を浴びました。現在も生命維持装置で呼吸はできていますが、いつ自発呼吸が止まるか・・・」
私はそれから2週間、彼女と共に過ごした。
リーナは孤児だったから、私しかいなかった。
軍も理解を示して私を休職扱いにした。
終わりが訪れるまで。
2019年9月20日 ロサンゼルス郊外 墓地
私は軍服に身をまとい、墓地に立っている。
ロサンゼルスではあまり降らない量の豪雨は、記録的だと言っていた。
墓に刻まれた“リーナ・スミス中尉”の文字を、私は撫でる。
歯は砕け散るほど噛み、血がにじみ出る。
雨に混じり、涙は溢れる
共に戦った仲間であり、パートナー。
愛情が私を支えていた。
危険な仕事柄、今回の旅行を機に2人で除隊し田舎で暮らそうと思っていた。
なぜ、こんなことになってしまったのか?
どうして。
2019年10月2日 ワシントンDC 国防総省
「マリア・シュヴァイツァー大尉、君には更に休暇が必要だと我々は考えている」
医官の大佐は私の帰隊届を受理しなかった。
「なぜでしょうか、大佐」
大佐は私の帰隊届を手に持ったまま、真顔で話し続ける。
「君はパートナーであるスミス中尉を失ってまだ一ヶ月も経っていない。君の所属する特殊作戦大隊は過度なストレスが付き物である以上、我々医療チームはこの帰隊届を受理することは一切できない」
彼の表情は全く読めなかった。
「私はいたって正常に戻り、通常の業務へ戻りたく思っております」
「大尉、これ以上の議論は不毛だ。君の精神状態では許可は不可能だ」
私は歯を噛み締めた。おそらく大佐の執務室中にその軋む音は響いていただろう。
「・・・わかりました。では、私は軍を辞します」
大佐は安堵もつかの間、椅子から落ちそうな勢いで表情を変えた。先程までの能面が嘘のように。
「た、大尉。それは急いだ考え方だ。軍は君の状態を理解し、回復を待つという答えを出している。だから今は故郷に帰って休みたまえよ」
「いえ、私の精神状態では軍に迷惑をかけます。改めて辞職届を提出いたします」
そう言って大佐の手から帰隊届をひったくり、私は執務室を後にした。
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