第3話

 のんきに会話をしているような場面ではない。

 だが、ふたりは見つめ合ったまま動かない。

 烈火弾を撃ち込んだ者たちは殺したが、ここはその者たちの一味が支配する地である。

 イナゴの大群が押し寄せるがごとく、殺した者の仲間の兵達が集まってくる。みるみる二人は囲まれていく。

 大男の周りを固めていた群衆とは、ひとつ、またひとつと剥がされていく。

 それほどの危機が身に迫っているというのに、大男とわたしはみつめあったまま動かない。

 我ながら、この状況に恐怖を感じないのが、嘘のように思える。

「で、乞食殿。ここから逃れられるか」

 大男が訊いてきた。

「逃れるだけならば、なんとかなりましょう」

「ならば、今はそのことだけを考えられよ。いずれしかるべき場所でお目にかかる。さらば」

 大男はそう言い放つと、頭上で長刀を振り回しながら、取り囲んだ兵の一団に向って駆けていく。その後を群衆達が追う。

「皆の者、遅れるでないぞ。この平原を救う者が確かに居り申した。伝説は真実ということじゃ。命を捨てるでないぞ、生きて我に続け。この平原の未来に向って力の限り駆けよ」

 大男を先頭にして駆けだした群衆の波の中に、わたしは紛れ込んだ。

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