第2話

「公子とはどういうことでございましょうや」わたしは訊いた。

「なんのことを申されておるのか、とんとわかりませんな」男は、首を、大げさにひねりながら答える。

「今、あなた様がわたしのことを公子と呼ばれたではありませんか」

「なんと。そなたのような、今にも剥がれ落ちそうなぼろ切れで身を包んでいるような男が、公子であるわけがあるまい。それとも、そなたのいう公子とは、乞食のことであろうか。それにわしは瞬時に決したといえども、まさに今死闘を繰り広げたばかりじゃ。口を利く余裕もなかったわ。ほれほれ乞食なのか、そなたは」

「この国の公子様は、赤子の折に、白い大鷹に連れ去られたという話は、爺婆から洟を垂らした子供まで、この国の者ならば誰もが知っております。もちろんわたしは公子などではありません。ただあなたがそう呼ばれように思いました。失礼なことを申しました。余計なことかもしれませぬが、わたしは乞食ではありません。いや、乞食以下の者という意味でございます」

「ほう。そのような者がこの国にはおるのか? それを話せ」


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