紅燕三国志
銭屋龍一
第1話
頭ひとつは飛び抜けている。
でかい。
縦にも横にも、その質量に圧倒される。
が、群衆の中を粛々と歩いてくる。
取り囲む群衆達も、あからさまに距離をとったりはしていない。
緩い川の流れの中を逆らわずに進んでいると言ったらよいか。
頭にターバンのように麻布を巻き、僧が着るような黒衣に身を包んでいる。
群衆達は一様に質素な、かぶりもののような麻服を着て、腰の辺りを色とりどりの紐で結んでいる。
この平原のいたるところで見られる着衣でしかない。
それらが川の流れとなって、ゆっくりとこちらに向っている。
と、破裂音がした。
爆破音のあまりの大きさにたちまち耳がバカになる。
群衆の一部分がまるで幻でもあったかのように消えている。
烈火弾だ。
男は背に担いでいた大刀を右手に持つ。
と、同時に飛んだ。
その体躯からは想像もつかない俊敏さだ。
わたしのすぐ側まで跳躍してくると、わたしの背後に向って刀を薙いだ。
鈍い音がした。
背後を振り返る。
かつで人であったものが、見事に潰れている。
男は刀の刃ではなく、背の部分で攻撃したのだろう。
ふたたび男に視線を向ける。
「えらい歓迎の仕方でありまするな。公子さま」
耳はバカになっているはずなのに、はっきりと男の言葉が聞き取れる。
男は笑っている。
だぶん。
口だけが異様に大きくゆがんでいるのだが、そこだけが別の生き物のように蠢いて見えた。
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