第9話 家族からのプレゼント

あれから3年が過ぎた。


わたしはあの猫に勧められるままに出した絵本のコンクールで賞をとり

今では生計が立てれるくらい稼げる絵本作家になった。

人生とは本当にわからないものだ。


会社を辞め、今では自由な時間もある。

夢のような生活だ。



そういえば、わたしのパソコンにあの猫から遺言があった。

猫なので遺言でいいかわからないけど。



「ご主人様、もう僕はいないだろうけど元気にしてる?

 ご主人様の描く絵本は絶対みんなに愛されるから

 大丈夫。僕が言うから間違いないんだから」


そう言って笑う猫はまだ黒かった。

元気なうちに勝手にパソコンで撮ったのだろう。


「まったくあの馬鹿猫は・・・」


涙が溢れてきたが、拭ってもきりがない。


「一つお願いがあるんだ」


「何よ」

パソコンの画面に向かって聞いてやる。


「この住所に僕のお墓があるんだ」


「お墓?」


「うん、前のご主人様が作ってくれたんだ」

少し照れ臭そうにする猫。


「なんかムカつく」


確かにこの黒猫とは三ヶ月しかいなかった。

でも私にとっては今までの人生で一番大切な三ヶ月だった。


それなのに・・・。


「いい、よく聞いてね。今から三年後のクリスマスの日に

 僕のお墓に行って欲しいいんだ」

真剣な表情で猫が言う。


「あんたね、クリスマスよ、そんな日に行けと」

少し呆れてしまった。

三年後くらいには私にだって彼氏が・・・。


「絶対だよ。プレゼントがあるんだ」

嬉しそうに笑った。


「あんたが生き返るとか?」

思わず言ってしまう。


「あ、僕が生き返るとかじゃないからね」

まるで本当に会話しているように話す。


「でも、きっとご主人様は喜ぶよ」



「あんたじゃないなら喜ばないわよ」

泣きながら私は言った。




「ありがとう、ご主人様。大好きだよ」

そう言って猫は消えた。



この動画を見直そうと思ってもファイルが無かった。

どうやら一回だけだったらしい。


「馬鹿猫」

パソコンの画面をコツンと殴りながらまた泣いた。





「寒い、せめて春にしなさいよ、春に」

ここは動物用の墓地らしい、初めて知った。


あの猫に言われた通り墓地に来てしまった。

三年経っても忘れられないようだ。


「未練タラタラね」

笑ってしまう。

どこかでまたあの猫に会える気がする。

いや、会いたいんだ、私は。


「ここね」

そこには白くて綺麗な小さなお墓があった。


「本当にスグルって名前だったんだ」

刻まれた名前に笑ってしまう。


持ってきた猫の餌とおもちゃを置いてやる。


「向こうでも美味しいものいっぱい食べてる?」

聞こえてはいなくてもお墓に語りかけてしまう。




なんとなくお墓の前で座ってしまう。


「あなたがあずささんですか?」



「はい?」

急に声をかけられた。


横を見るとどこか見覚えのある若者がいた。


「突然すみません。変な事を言うかもしれませんが

 スグルが、僕の飼っていた黒猫なんですが

 あなたに会いに行けと」


「は?」


「すみません。でもここに来ればあなたに会えると」


困惑している私に、若者がしどろもどろになる。


「信じてもらえないかもしれませんが、本当の

 話なんです」

若者は続けた。



「実は僕、心臓の病気で手術するために海外へ

 行ってまして」


「手術?」

そういえば黒猫が私とデートの時子供の為に寄付をせがまれた事が

あったような・・・。


「はい。両親が募金を集めてくれたおかげで無事

 手術をすることが出来たんですが、本当はそこまで

 持たなかったんです」

私の横に来て座る若者。


「でも、ある日、入院中の僕の処にスグルが来たんです。 

 2年前に死んだはずなのに」


お墓の上に積もる雪を払いながら若者が話す。


「必ず僕が助けるから」


「え?」


「そう言って病院の窓から出て行きました」


「・・・そう」


あの馬鹿猫が助けたかったのはこの若者だったのだ。



「それから何故か体調が良くなり、無事海外へ行く事も

 できました」


嬉しそうに話す。


「そう」

私は少し恨めしかった。

確かにこの若者、いや青年がいたから黒猫に会えたのだ。


でも、私は・・・。

私の暗い思いに気づかず、青年は話す。



「退院する前日にスグルがまた来たんです。身体は白くなって

 ました」

声が震えていた。

横を見ると、彼は泣いていた。


「助けられて良かった。ありがとうって」

私も泣いていた。


「お礼を言うのは僕の方なのに・・・」

涙を拭い、話を続ける。



「最後にお願いをされたんです」


「お願い?」

青年が私の方を見た。


見覚えがあるのはたり前だ。

三年前、私が絵本作家になるきっかけを作ってくれた

あの青年だった。


「あなたに逢って欲しい。僕のもう一人のご主人様だからと」



「あの馬鹿」

白いお墓を睨む。


「あなたのおかげで早く僕を助けられたんだって笑ってました」

青年が笑顔で言う。



「僕からもお礼を言わせてください」

おもむろに立ち上がる青年。


「本当にありがとうございました」

座っている私に向かいお辞儀をした。


私は顔を向けることができなかった。

あんたの為じゃない、私の大切な家族の為だと。

そう思ったからだ。


「スグルを拾ってくれて、愛してくれてありがとう

 ございました」


「!?」

思わず青年の方を向く。


「なんで・・・」


「スグルはとても幸せそうでした。僕にとって、それは自分の

 事よりも嬉しい事だから」

泣きながら笑う青年が、どこかあの猫に似ていた。



「もし、良かったら僕ともデート、してくれませんか?」


笑顔で差し出された手を私は握り返した。



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私と猫の三ヶ月 白ウサギ @Whiterabbit-cam

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