第5話 夢見る私

「ただいま〜」


今までなら一人暮らしの私の声に返事はなかった。

でも今は、


「おかえり〜」

トタトタと小さな足音がし、一匹の黒猫が出迎えてくれる。

しかも話せる機能付きだ。


思わず顔が綻び、黒猫を持ち上げる。


「今日はマグロ買ってきたよ。一緒に食べよ」


「ホント!やった〜」

喜ぶ黒猫に違和感を感じた。


「あんたお腹と背中、少し白い毛増えてない?」


ビクッ!


「気のせいじゃない?」

私が抱き上げているので動揺はバレバレだ。

それでもシラを切り通すか。


「ま、具合悪いわけじゃないでしょ?」


「うん」

黒猫は小さく返事をした。




「それ何?」

机の上に広げた色鉛筆と画用紙を見て黒猫は言う。


「ああ、前に変な男と会った事話したでしょ?」


「ああ、本屋さんで会ったっていう・・・」


「そう、その事があってからちょっとね」


「ふ〜ん」



願いはきっと叶う。

あの青年が言った言葉が私の心に残っている。


「後悔したくないのよ。自分の人生に」

そう言って私は色鉛筆を手に取った。



内容は既に決めてある。

自分に自信のない女の子が、言葉が話せる一匹の黒猫と

出会い、成長していく物語だ。



「良かった。僕もこれで・・・」

書いている私の隣で、黒猫が何かを言ったような気がした。




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