第2話 オスをお持ち帰りする私

「いや、無いよね、無い。流石にないわ〜」


「何か無くしたの?」

黒猫が首を傾げた。


「違うわっ!何であんた人の言葉、話してんのよ。おかしいでしょ」

しゃがみこみ、黒猫に指を突きつける。


「え、お姉さんが猫の言葉話してるんだよ」

猫が口を開き言う。どう見ても日本語にしか聞こえない。


「そんなわけ無いでしょ。ああ、夢ね。そういうこと」

私は納得した。

そうだ、全部夢だ。

クリスマス直前に彼氏に振られたのも、課長にミスを押し付けられ

残業になったのも全部夢か・・・。


「現実逃避は良くないよ」


「あんたが言うな」

思わず猫に怒鳴る。


「まぁ、気にしなくていいんじゃない、どうせもう会わないでしょ」

猫がクシュンとくしゃみをしながら言う。


「ホントに夢じゃないの?」


「夢じゃないよ、因みにだけど、今お姉さんはニャーとしか言ってないよ

 多分」


「え、まじで」

慌てて周りを見る。


「あの人、猫と話してる。ウケるんだけど」


「俺ちょっとタイプかも、なぁニャーって言ってみて」


「言うか」


目の前を通るカップルが私を見て笑っていた。


「ありえない」

呆然とする私に、


「あり得るでしょ。だって今日クリスマスイブだよ。

 サンタさんがプレゼントくれたんじゃない?」

猫が道行く人を見ながら言った。


「どんなプレゼントだよ」

私は思わず突っ込んだ。


「じゃ、僕はこれで」

猫がお尻を上げた。


「は?どこ行くのよ」

思わず声をかける。


「寒さをしのげる所、見ての通り野良猫だしね」

少し寂しそうに猫が言った。



そんな猫を見て、思わず口を開いていた。

「・・・あんた、うちに来ない?」


「は?」



あいつが居なくなった今でもわからない。

何で声をかけたのか。

でも、あの時声をかけた事は後悔していない。





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