小瓶のなかの、プリン。

戌井てと

第1話

 休みが続いた。


「ケーキ買いに行こうか」


 洗濯を終えたお母さん、なぜか嬉しそうで。とくに予定もなかったしで、ついて行った。


「お客さん来るからさ~」


 それが理由か。

 奮発することもない、質素なお母さんが、珍しいと思った……。


 こじんまり。店内も、ちいさく可愛い。


「どれにしようか」


 ケースのすみ、ちいさなプリンが目についた。きっと、なめらかで美味しいはずだっ!


「プリンがいいな」


 スーパーで売ってるのしか食べなくて、テレビとかである“なめらかな食感”それが憧れだった。

 そして、それが一番美味しいのだと、自分のなかで正解としてある。好みだから、押し付けたりはしない──というより、好きになるモノが人とは真逆で、変わってるんだと自覚してから言えないのだ。


「プリン二個と、ケーキを四個にするか」


 会計を済ませ、帰り道。途中でコンビニへ寄った。

 牛乳と、その他気になるモノ。




「お兄ちゃんが食べてて美味しそうって思ったけど、薄味やね」


 青のり、天かすのおにぎり。確かに薄いかも……それから、天かすであぶらっこい。

 あたしが気になったのは、塩のおにぎり。職場で聞いたのを思い出した。だけど、食に関心をもつことが少なく、塩が濃いおにぎりだったな。

 シンプルで好きだ。もう一回たべたいとも思う。


「ん~。なめらかで美味しい」


「ほんとに? ひとくち」


 お母さんが手にしたのは、小さじのスプーンで、すくいかたも豪快……。

 あたしはコーヒー用の小さいスプーン。小瓶だし、食べにくいと思ったから。


「うわぁ! なにこれ、とろとろ! えぇ~!?」


 人がなめらかって言ってるのに、聞いてないな。


「これほんとに出来てる? 冷えかた足りないんじゃないの?」


 なんで未完成のものを並べるんだよ。こういうものでしょ。


 買い物とかで、バッグの掛け方が似てる人がいたら、あぁ~親子だな。仲が良いんだと、ほっこりしてた。

 せっかくの良い気分もどこかへいった。小学生のころだったか、名前で遊ばれて泣きながら親に言った。

 そしたら、「そんなん気にしてどうすんの」気持ちの奥深く、眠っていた記憶ではあるけど、味方をしてくれなかったのは確かだ。

 そのときを境に、親には「実はこう思ってたんだよ」そんな秘密が増えた。

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