本について知ってるつもりだった

 本が好きで、書店に通い、それで飽き足らず書店で働いて、本についてだいぶ知っているつもりでした。

 自費出版する友人のサポートをしたり、家族が製本所や取次店、小さな出版部で働いていた経験があったりして、本ができあがるまでの流れについてもそれなりに知識があるつもりでした。


 でも。

 自ら商業出版を経験することで、自分がまだまだ井の中の蛙だったことを知りました。

 編集者さんの、細やかで多岐に渡るお仕事。

 カバーのイラストとタイトル字は、それぞれ別の方が担当すること。

 初稿、再校、三校そして最終チェック。

 様々な契約や、お金のこと。

 時代に合わせた表現の幅の変容や、個人情報の扱い。

 勉強になることばかりで、本に対する見方がまた大きく変わったのでした。


 本当に、作者というのは「中身を書いた人」に過ぎません。

 わたしの本であると同時に、わたしだけの本ではない。

 編集者さんにとっても、印刷所や製本所の方々にとっても、「自分の本」であるはず。

 そんなことを再認識しました。


 今、電子化の普及に伴い、出版業界は厳しい状況にあると聞きます。

 スマホの画面をスクロールすることも「読書」と呼ばれるようになりました。

 売れ残った紙の本は、倉庫で保管する費用を抑えるためどんどん処分されてしまいます。

(断裁処分だと思っていましたが、「溶かす」のであるとTwitterで知りました)


 人生を豊かにしてくれる本を生みだし続けてくれる出版業界が痩せ細らず、いつまでも元気でいてくれるよう、わたしの本に限らず気になった本はぜひ、溶かされて絶版になる前にお買い求めいただければ、何より嬉しいです。


 そんなことを、美しい見本誌の届いた夜に強く思うのでした。

 今夜は『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』の2冊を抱きしめて眠ります。

 発売日までのカウントダウンが始まっています。

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