「小説家」になってもいいですか
「小説家」って、なんだろう。
子どもの頃から抱いていたイメージと現在とでは、定義が大きく乖離している。
作品発表の場は多様化し、掲載される媒体は書籍や雑誌にかぎらず、webメディア等で連載を抱えるプロも多い。
また、小説投稿ツールが広まって、アマチュアでも小説家を名乗る人はたくさん現れた。
だから「小説家=自作の小説が書店で売られている人」というのはもう、前時代の固定概念なのだろう。
わたしが自分に「砂村かいり」というもうひとつの名前をつけ、カクヨムに登録したのは、2017年12月5日だ。
そして、web上での処女小説となる『炭酸水と犬』のプロローグを投稿したのは2018年1月12日。
そこから、いくつもの小説作品を生み出してきた。
長編恋愛小説『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』は第5回カクヨムWeb小説コンテスト(通称:カクヨムコン)にて特別賞を同時受賞した。
Twitterでもたびたび話題にしていただき、1日で単独3万pvを記録した日もある。
また短編『ベトナムコーヒーが落ちるまで』ではベトナムコーヒーの正規輸入代理店様とコラボする夢の企画も生まれ、実現に至った。
面識のない方々から熱心なご感想をいただくという稀有な体験が、非日常ではなくなってきた。
それでも、わたしは「小説家」と名乗るには抵抗があった。
だって、デビューしていないし。
少なくとも、まだ依頼原稿を書いていないし。
だからどのサイトでもプロフィールは「書き手です」「小説を書いています」で通してきたし、「小説家」「先生」と呼ばれるたびに否定してきた。
けれど。
このたび、『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』の出版が決まった。
書ききれないほどの長い長い道程を経て、2021年3月18日に発売することが正式に決定した。
カクヨムコン特別賞の副賞は「書籍化検討」だったので、もちろん受賞の報せをいただいた瞬間から期待はしていた。
しかし大賞と違って「書籍化確約」ではなかったため、編集者さんたちとやりとりをしつつも、出版スケジュールが確定するまでは生きた心地がしなかった。
ようやくようやく、本が出ますと発表することが許された。
「web小説が吸い上げられただけで、まだ依頼原稿を書いていないからプロではない」というのであれば、今回は番外編を依頼されて書き下ろしているため、またちょっと様子が違ってくる。
あれ?
もしかしてわたし、いつのまにか「小説家」になっていたのだろうか。
それとも、これからはそのように名乗っていいということだろうか。
愛してやまない小説家の先生方には、まだまだ足元にも及ばないけれど。
それでも、少なくともわたしの本を取り扱ってくれる書店の方々や、それを買ってくださる方々にとっては、わたしは著者であり、小説家ということになるのだろう。
自己肯定感低めの人生を送ってきたので、いまいちまだ実感がつかめない。
それでも、おそるおそる言ってみる。
わたし、そろそろ小説家と名乗ってもいいでしょうか?
見える世界がなにか、変わるかな。
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