いいえ、それはわたしの言葉です
はじめに。
日本社会には、「被害者ぶるやつがウザい」という空気が蔓延しています。
その空気は年々濃くなっているように感じられます。支離滅裂な加害者擁護を目にすることばかりです。
様々な事件の自己責任論に関してもそうです。中東で拘束され殺害されたジャーナリストから、レイプ被害者の女性、乳幼児連れの母親たちにも驚くほど冷淡です。
事の軽重は異なりますが、先日Twitterで巻き起こったいわゆる「ゆるパク」騒動においても、訴えた側の方が「その程度でw」「ゆるパクの定義を教えてくれよw」「自意識過剰も甚だしい」「この世に本当の意味でのオリジナルなど存在しない」等とさんざんに叩かれていました。
それらの状況を鑑み、この記事を書くかどうかについては少々ためらいました。
しかし、アマチュアとは言え物書きとしてゆゆしき出来事であり、今後同様のトラブルが発生した際に自らの指針となるものを書き残しておきたいと思うゆえ、やはり書き残しておくことにした次第です。
わたしの感情はわたしのものであり、他の誰にも「適切な怒りかたの加減」なんて決められないのですから。
※なお、本稿は盗用した本人を晒し上げることを目的としてはおりません。
お名前も伏せたまま記述させていただきます。
去る11月4日、Twitterの砂村アカウントにフォロー通知が来たので、どんな方かとホームを見に行きました。
そこには固定ツイートで画像がふたつ貼られてあり、「私、こんな文章を書いています。」と書き添えられていて、既に結構な数拡散されていました。
画像にはたくさんの文章がコラージュされていて、開いてみると、なぜかいきなりわたしの言葉が目に飛びこんできました。
「こんな時なのに、私は。世界を美しいと思ってしまった。」
……?(°_°)
これ、『炭酸水と犬』のプロローグの末文
「こんな時なのに、わたしは世界を美しいと思った。」
まんまじゃん。
え? え?
脳がバグを起こした。
ああそっか! webで出会った自分の好きな言葉たちを集めてコラージュしたんだ、だからわたし本人に教えようと思ってフォローしてきたんだね!
――いいや、違う。違うぞ。「私の言葉たちです」って書かれてる。
私って、誰? まさかあなたのこと??
困惑。
いやいや、これ、わたしの言葉ですよ。
物書きとしてのプライドはないのですか……??
ちなみに、そのフレーズの隣りにあった文章もまさに『炭酸水と犬』そのままだったのですが(和佐の告白を受けての由麻の心理描写)、巧みに単語を入れ替えたり表現をちょっと変えてみたりして再構成された跡があり、これについてはいったん見なかったことにして、あきらかに丸ごと盗用されている件の文章について、本人に問い合わせました。
「こんにちは。フォローいただき、こちらからも拝見していたのですが、こちらの画像の中にある言葉はすべて◯◯様のオリジナルということで合っているでしょうか?左上にある一文が拙作『炭酸水と犬』の一文を抜き出したものなのかどうしてもわからないため、お問い合わせさせていただきました。」(原文ママ)
迅速に返信がありました。
「こんにちは、はじめまして。私が昔、実体験したことやその時の感情を書いたのですが、大好きな砂村様の文章がとても影響しているなと今気づきました。ご迷惑でしたら消させて頂きます……申し訳ありません……。」
(原文ママ)
「とても影響している」……?
「今気づきました」……?
「ご迷惑でしたら」……?
ええ、ご迷惑ですよ。
これ、あなたの作品の中の文章を取り出したものなんですよね?
既にあなた名義で世間の目に触れ、読まれてしまっているわけですよね?
でも、わたしの大事な作品の重要なフレーズなんですよ。
存分にモヤモヤさせられましたが、とりあえず逆ギレやしらばっくれもなく対応してくれたことには安堵して、
①画像の一文が砂村のものであったことをツイートしてほしい
②①の後で画像は削除し、自分のオリジナルの言葉だけで構成してほしい
という依頼をしてみました。
正直①については難しいかな、と踏んでいましたが、希望通りに対応してくれました。「これで大丈夫でしょうか? ご確認ください」という丁寧なリプライもありました。
そこでそれ以上は不問に付すことを決め、
「迅速なご対応ありがとうございます。文体や世界観に影響を受けることは物書きならば誰にでもありますが、ひとつひとつの文章は生モノです。ご自分のオリジナルの言葉を生み出していってくださいね。」(原文ママ)
と返信し、一応の解決を見る形となりました。
しかしその直後、彼女が「私はもう、物を書くのをいっさいやめた方がいいと思います。書きかけの作品を投稿するのもやめ、SNSからも離れます。このアカウントも停止します」と断筆宣言のツイートを始めました。
え……、わたしが追いつめたみたいになっとる……わたしそこまで望んでないよ? と思いながら見ていると、続いて
「もしかしたら他の方の作品もこんなふうに……と思うと、怖くなって。大好きな作者様たちにご迷惑をおかけしていたらと思うと、もうだめです。」
とのこと。
え? え? え?
もしかしたら、って何? "作者様たち"って、誰?( º言º )
オリジナルか剽窃かなんて、さすがに区別つくもんでしょ? ねえ。
それとも、その区別も曖昧になってしまうくらいパクり慣れている……??(汗)
うっかりわたしをフォローしてしまうくらいですものね……
自分で生み出した文章だけを綴ってきた人間が、「あれもこれも他人様の文章かも……?」って怖くなるなんてこと、あるでしょうか? 皆無ですよね。
憧れの作品とイメージや雰囲気が似てしまうくらいのことはいくらでもあるかもしれませんが、読んですぐにそれとわかるくらいそっくり文章を抜き出すなんてことをしないかぎりは、誰も怒らないし自分も焦らないですよね?
画像にある文章たちは、件の一文以外は「自分の言葉です。」と胸を張ってコラージュして固定ツイートにするほどの自信作なのですよね……??
そこで、
「自分に関して言えば、断筆までは願っていません。でも、オリジナルか剽窃かというのはそこまで区別のつかないものなのですか…? 本当に独自に紡いだ文章を「もしかしたら他の方の文章も…」と疑わしくなることなんて、あるのでしょうか。「実体験やその時の感情」を書いたのならば自信を持ってください」(原文ママ)
とリプライしてみました。
しかしそのあたりから彼女は粛々とツイート削除を始め(希望①の謝罪ツイートも表示されたのは結局ほんの10分間程度でした(^_^;))、
「文章が似ていることはよくあること……と第三者に言われたとき、傷つくのは加害者の私ではなく被害者である砂村様です。(中略)作者様にとって大事な作品の一部を私がとってしまったのに。」
とのことで、断筆意志は変わらないとのことでした。
彼女の懸念は尤もで、反応の早い彼女のフォロワーさんからわたしはエアリプでバッシングされておりました。
ちらりとしか見に行っていないので今どうなっているのか知りませんし、ここに引用する価値もないので書きませんけれど。
そして、彼女はツイート全削除をして黙りこんでしまい、今度こそ本件は終了となりました。
盗用された文章の使われていた作品の全容を確認したくてお名前でweb検索してみたところ、数年前から運用されているnoteがヒットしましたが、こちらも記事はきれいに全削除されておりました。
プロフィールに「10代の最後を駆け抜ける物書き」とあり、ということは19歳なのでしょうけれど、「昔、私が実体験したこと」と言うからにはその若さで"昔"、『炭酸水と犬』のようなシーンを経験したことになり……??
もう何を信じていいかわからないので深入りはやめました。
いいひとなんだか悪いひとなんだか最後までよくわかりませんでしたが、きっとモラルやリテラシーはゆるゆるで、実際に会えば話の通じるひと、といった感じでしょうか。
盗用、剽窃、パクりといった表現は本人は最後まで避けていましたが、わたしが使う分には否定はされませんでした。
きっと自覚はあったのでしょう。
「作者様(たち)を傷つけないために断筆します」というと耳障りはいいですが、自分のしたことや扱った文章と誠実に向き合ってくださるならば、それに関するツイートまで全削除して逃げてしまわずに、そのお名前で書き物を続けてオリジナルのセンスを磨いていってほしかったですね。
結果的にわたしの指摘により断筆されてしまった形となり、とても後味の悪い終わり方となって大変残念に思います。
言いかたは悪いですが、他にも心当たりがあって罪の意識に耐えられなくなり、大慌てで撤退したというのが本当のところでしょう。
エビデンスとして彼女の画像のスクリーンショットはとってありますが、コラージュされたたくさんの言葉たちの表記の不統一(貴方/あなた、私/わたし 等)が個人的には気になりました。
彼女の使った「とても影響を受けている」という表現。
先述の通り、物書きであれば誰かしらの影響を少なからず受けているものです。
自分の場合、平文における――の挿入は井上荒野に影響を受けているし、状況の描写の畳み掛けは角田光代に影響を受けていると自覚しています。
しかしそれらは技法の話です。
作者が魂を削って書いた大事な一文をそっくり抜き出し、句読点を加えたり単語を入れ替えるなどの加工を施して、それでもわかってしまうほどの盗用・剽窃を行い「自分の書いたものです」と公言するのは、極めて悪質な行為だとわたしは思います。
最初から「私の出会った素敵な言葉たち」として引用元を明記してコラージュしていたら、誰にも迷惑かからなかったのにね。
このあたり、寛容な方ならスルーできてしまうかもしれませんね。商業利用じゃないからいいよ、とか。特に重要なフレーズでもないから真似していいよ、とか。
しかし、パクったひとの作品がうっかり書籍化してしまうような恐ろしい世界ですから、自分の「いいよ」は今後誰かのためになるどころか、悪影響しかないと思います。
どこからか模倣? パクり? 盗用? 「影響」?
アマチュアのわたしたちがぴたりと物差しを当てることは難易度が高いですが、たとえばTwitterのパクツイアカウントに対してパクられ側が1文字につき1万円を請求することも可能であるというツイートを読み、相手によっては民事訴訟に至ることもおおいにあり得るわけだよなあと思うにつけ、著作権については疎かに扱うべきでないと再認識する次第です。
自分が読者の立場だとしても、作者のオリジナルと信じて読んだ作品が誰かのパクりであったなら、相当なショックを受けるでしょう。
そんなわけで、砂村は今後ともこうした事案については毅然とした対応をとらせていただきます。各所のプロフィールも書き換えてゆきます。
ああ、大好きと言われてもちっとも嬉しくない案件だったなあ。
ただ、まあ、名前を変えてやり直すことなどいくらでも可能なわけで……
彼女にはきちんとリテラシーを身につけ著作権について学び、自分だけの表現を見つけセンスを磨いていってほしいと願います。
webの海に放流した作品を不特定多数のひとに読んでもらう喜びを知ってしまった人間が、簡単に離れられるはずがありませんから。
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