マリオネット

 世界中の学者達が総力をもって作り上げたマリオネットはこの世の戦闘を変えたと言っていいだろう。


 試作型として作られた初代マリオネットだが、最初から兵器として考案されただけあって武装は搭載している。


 その武装はただのミサイルだが、その効果は絶大だろう


 何があったのか。

 むしろ何故誰も気づかなかったのかと聞きたくなるような簡単なことである。


 マリオネットは体長十五メートル以上の巨体を相手に戦う兵器である。

 ならばその動力はどこから持ってくるのかだ。

 電気ではたった一歩動くだけで大量の電力を消費して割に合わないだろう。中に発電機を積むにしてもどこに積むのか。

 天然ガスやメタンハイドレートなどを用いた燃料式でも同様である。


 ならばどうするか。


 そして彼らは思い出した。この巨体を動かし得る力を持った真紅の存在を。


 その名はグリフィダイト。

 かつて一人の科学者が発見したがその危険性故に闇に葬られた存在。


 たった一立方メートルの大きさで街一つのエネルギーを全て賄うことができる夢の鉱石。


 まるで磁石のように発し続ける無限のエネルギーは熱や電気など様々なものに変換できた。

 当時はこれが危険過ぎると歴史を歪める所以となったのだが、今は兵器を動かす動力源であるとはなんという皮肉か。


 マリオネットを作り上げた科学者達は迷わずグリフィダイトを全ての動力源の核として搭載した。


 そうして、世界初の人型兵器でありクリーチャーに対抗する手段が完成したのである。


 当時は一刻も早く新たな戦力が欲しかったため、マリオネットは試験運転も僅か一度きりで実戦投入された。


 その結果どうなったかと言うと、新たな兵器に期待していなかった人々の期待を裏切り、その戦績は快勝を飾る。


 グリフィダイトの莫大なエネルギーを惜しみなく使い、機動力にバランサー、内部コンピュータまで全てを動かしクリーチャーを倒していた。


 その結果に喜んだのは科学者だけではない。多くの軍事関係者がこぞってマリオネットを開発し始めたのだ。


 幸い、隆起した大地により大量の鉱石が発見されたため向こう数百年は安定供給出来るほどの量が発見された。そのため材料にはほとんど困らないのだが……唯一困ったと言っていいのが動力源であるグリフィダイトである。


 その鉱石はマリアナ海溝の奥深くや巨大山脈の奥深くといった俗に言う秘境と呼ばれる場所にしか無かった。

 マリアナ海溝にはかなりの量が埋蔵されている事が分かっているのだがそれを採る手段がほとんど無いのだ。


 クリーチャーのいる海をそっと進み、マリアナ海溝の奥深くまで採掘機を降ろして採掘を行う。それだけでもかなりの時間がかかるのだ。


 その間襲われないようにしなければならないため隆起した大地によって数十キロにまで縮んだ距離も数日掛けて進まなくてはいけないのだ。


 仮に採掘出来てもクリーチャーに襲われて全て失っては元も子もないのだ。


 しかし人は報酬を求めて多くの人々が船に乗りグリフィダイト採掘へと向かっていったのだ。


 そして多くの人々が亡くなったが分かったこともまたあった。


 クリーチャーはマリアナ海溝付近には決して近寄らないのだ。

 その近くまでは来ても決してマリアナ海溝直上には来ないのである。


 それは人類にとって吉報となった。


 少なくともマリアナ海溝直上は安全地帯のため、そこにグリフィダイト採掘を建設、空路による搬送路が構築するという案が持ち上がった。


 それに対し各国はすぐさま了承。こんなご時世で国同士の腹の探り合いなんざやってる暇など無いのだ。とにかく生き残ることが先決であった。


 各国の協力を得た業者は空路や海路によって運ばれてくる材料で少しずつプラントを建設して行った。


 クリーチャーによる妨害が一切無いため安定して進み、海上に浮かんだグリフィダイトプラントは考案から二ヶ月後に完成することとなった。


 結果、各国のマリオネット競走は苛烈になり、多くの国々でパイロット育成が始まっていた。


 マリオネットのパイロットにはいくつかの適性が求められる。


 その内容はいくつもあり、『酔いに強いこと』や『手先の器用さ』など細かな事柄もあったが何より重要視されたのが『武術の経験』である。

 初代マリオネットは遠距離からのミサイル攻撃を行っていたが次世代機は近接格闘能力を持った機体を制作する予定なのである。


 初代マリオネットは遠距離から一方的に攻撃していたとはいえ判断を誤ってクリーチャーに囲まれたら逃げられないのである。初代マリオネットはそうして敗れたのだ。


 その記録から今度は遠距離のミサイルだけでなく近接格闘によるクリーチャー討伐を考えなくてはならなかった。そのため、体術剣術格闘技などとにかく近接格闘が行える者は積極的に採用され続けた。


 また万一囲まれて脱出出来ない状況に陥り、戦闘も難しい時の移動装置も必要であった。

 これに関しては既に完成していたりもした。


 初代マリオネットは敗れ去る直前に飛行ユニットの装着案があり、完成は間近だった。

 しかしその完成を見る直前の作戦で初代マリオネットは大破、パイロット共々クリーチャーの群れに飲み込まれたのだ。


 それゆえ、飛行ユニットは後に第一世代と呼ばれるヨーロッパ地域考案の機体に装着されることとなった。


 当時の飛行ユニットは戦闘機のエンジンを大きくしてそのまま背中に装着したような───』



 スパァンッ!!


 痛った!


 慌てて振り向くと、少しむくれた様子のレイが立っている。


 手には……本か?やたらと分厚いな……。


「さっきから声掛けてたのに……何時になったら私達もマリオネットに乗るのよ」


「え?もうそんな時間か?」


 レイは時計を見せながら言う。


「もう十五分前だよ。他の人達は三十分前には乗ってたね。私たちがいくらが出来るからってのんびりし過ぎるのはダメだよ」


 まあ確かに俺らはアレが出来る。まあ過信してはいけないものだけど……

どうせ試験なら大丈夫か。


 俺は読んでたマリオネットについての本を置き、レイと共に俺らが乗るマリオネットが格納されているハンガーに向かうのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶で操るマリオネット 〜ロボ乗り軍人生活始めました〜 文月  @RingoKitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ