マリオネット

 『唐突だが、ここ約百年の間に起きた歴史を語るとしよう。


 現在は西暦2150年だがそのちょうど百年前。二十一世紀中盤であり、現代科学最盛期の時代だ。


 その頃に以前から示唆され続けてきながらも誰も信じようとせずにいた事が起こった。


 それは石油の枯渇である。


 二十一世紀初頭から既に対策を立てながらも消費を続け、とうとう枯渇させてしまったのだ。


 科学というのは石油によって成り立っていると言っても過言ではないだろう。

 しかし、世界にはまだ多くの資源が眠っているはずである。天然ガスや石炭、メタンハイドレートもあれば水力や風力でもエネルギーを得る方法は大量に存在するのだ。

 

 しかし、それでも戦争は起きた。当時は技術も進歩し、エネルギー効率も良くなっている。無限にとはいかずともそれなりには生きていけるはずなのである。


 それは何故か。


 理由としてはいくつも考えられるが……何より有力なのは石油の枯渇直後に起きた後に〈厄災〉と呼ばれることになる超大規模地殻変動だろう。


 大地が割れ、隆起し、沈み、世界中の地形が変わったこの地殻変動は僅か一年の間で起きた。


 多くの国が破壊され、人は死に、人口はかつての半分以下になる。しかし、隆起した大地によって陸地が増え、海と陸7:3の比率が、6:4程度になったとされる。本来なら増えた分海水のかさが増すはずなのだけど噂だと新たにできた海溝に水が吸い込まれたとかどうとか。

 

 地形が完全に変わった地球からは資源と呼べるものはすぐには取り出せなくなっていた。


 隆起した大地からは鉱石は大量に採掘出来たがそんなものはエネルギーの足しにはならない。石炭こそ採れているが気休めにしかならないだろう。


 天然ガスもメタンハイドレートもこの地殻変動によって採掘場が行方不明となってしまったのだ。


 辛うじて残ったものもあるが数はとても少ない。



 そんな状況で起こるものは何か。


 答えは一つ。戦争である。


 世界の国々はその数少ない資源が採掘できる場所を確保しようと力づくで奪いに行った。


 そのため、採掘場付近には各国の軍が頭を並べるという異色の事態にまで発展した。


 そんな局地的な場所で戦闘が起きていたため、残された人々には戦争の被害は少なかった。それでも地殻変動による被害は大きく、まず起きた問題は食料である。

 耕作も出来なければ狩りも出来ない。


 なぜなら、出陣している軍を除いて人々を統治すべき人物が存在しないからである。

 情報は時が経つに連れてどんどん無くなり、それらを納めていた多くの建物からは技術が失われることとなったのだ。


 それにより多くの人々が餓死して行った。


 国々は危機感を覚えるものの、もはや戦争は終わらせることは出来ないほどに発展していた。


 ここで仮に戦場から離脱すれば裏で契約を結んだ国や国民からどんな目で見られるか分からないからだ。



 そんな中である。戦争に参加している国々にとある情報が舞い込んだ。


 その内容は招待状で『新たなエネルギー資源の発見』となっていた。そしてその話を聞くための一つの条件だった。


 それらの情報の発信源はたった一人の研究者だった。


 全員がデマではないかと訝しんだ。しかし、本当だった場合にはかなりの損失を負うこととなる。そのため、ほとんどの国々の代表がその研究者の指定した場所に集合した。


 そして彼らはその条件に従ってを止め、数少ない生き残った街の一つである「チーメン」と言う小さな街に集まった。



 そこで語られた内容はあまりに衝撃的過ぎた。


 各国は目の前でその力を見せつけられた。彼らはその力を受け取ると、様々な思惑を抱きながらもまずは生き残るためにこの危険すぎる力を規制し、隠すことにした。


 しかしこの力は有用である。無限に等しいエネルギー源なのだから。


 その研究者の招待に応じなかった国を除き、戦争に参加していた国々は戦争を終結。そして、その力を隠すために歴史を歪めた。


 すなわち、新たな油田の発見である。

 太平洋に大西洋、南極付近に巨大な油田が見つかったと民衆には発表。ただ本当は研究者から得た力を用いて国を戻して行った。

 民衆は幻影の油田を信じて生きていたのだ。


 そうして人類は一時の安寧を享受していた。



 辛うじて残ったものを集めて街を築き、また新たな営みを作り上げていく。そんなことがようやく安定した頃だった。


 世界は再び危機にさらされることとなった。


 それは人の手では無い。ましてや人の手にどうにかできるようなことでは無かった。


 奴らは海、そして宇宙そらの両方からやってきた。


 奴らの名はクリーチャー。様々な形を持ち、まるで何かを探すように動き回る怪物だ。


 海から来るクリーチャーは地球の生物を模していて、陸上生物から昆虫までなんでも有りなのだ。

 その点宇宙から来るクリーチャーは統一されている。奴らは色が白く、形状は人類を模しているのだ。そして、地上では戦わない。奴らの主戦場は空なのだ。背中に翼のような器官を持ち、攻撃手段として光を放つ。


 そんな姿から誰かが奴らのことを『天使』と呼び始めた。我らに死をもたらす天使だと。


 そんな相手に人類は為す術なく後退し続けた。


 なぜなら奴らには通常兵器が効かない。倒すならば戦車やミサイルなどが大量にないといけないのだ。


 歩兵の持つアサルトライフルなんて奴らにとってはただの豆鉄砲にすらならない。


 その理由は奴らの大きさにある。


 最低でも体長十五メートル以上あるため、戦車弾でも何発と打ち込んでようやくであり、天使に至っては対抗手段が戦闘機しかなく、そのほとんどが〈厄災〉で失われ、残ったものも先の戦争で失った。


 結果、人類は逃げの一手を取らざるを得なかったのだ。


 それでも発見はあった。


 少なくともクリーチャーは海からある一定の距離まで進むと自滅するか撤退することが分かったのだ。天使はその限りでは無いが、当時は現れること自体が少なかったため、研究が進んでいなかったのである。


 しかし人類はただ負け続けるだけの生物では無い。世界で人類のみが持ちうるもの。それは知恵である。


 各国の残された人類は奴らに抵抗する術を求めた。


 機動性や汎用性が高く、かつ戦力としても優秀な兵器。


 世界各国の生き残った学者達が総力をもって作り上げたもの。


 それが全長二十メートルを誇る〈第一世代型単一武装搭載人型兵器マリオネット〉である。




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