荒くれの巣窟

「聞け!お前らは喜ばしいことに今日からここ極東異生物対応軍遊撃機動部隊の軍人となる!荒くれ共と一緒に稼いで騒げ!以上だ!」


 そう告げ、壇上に立っていた男性がステージから降りる。


 実はこれ、歓迎の挨拶なのだけどまさかこんな形とは思わず、俺の隣にいる連中も絶句している。


 ───ちなみに俺たちが今いるのは会議室っぽいところ。ここに集められた俺とレイを含めた計十人がここに入る連中らしい───



 そりゃそうだ。ついさっき壇上に上がったばかりで、どこかの学校長みたいに長々しく話されると思いきや僅か数十秒も掛からずに終わったのだから。


「ねえ、シンマ。本当にこれで終わりなの?」


 隣の少女が小声で聞いてくる。


 彼女はレイヴェル=ハーミット。あだ名はレイ。俺と同じ十八で、金髪ボブカットで俺と同じ黒目のかわいい幼なじみだ。

 色々あって幼なじみ以上の関係で、親の顔より見た顔とも言える少女だ。


「ああ。親父さんの言うことが正しければこれで終わりのはず……」



「ほら、新入りども!こっちに来な!」


 後ろから声が掛かる。声は凛としていて、美しい。


 振り向くと、そこには黒の軍服を着た色白で珍しい緑色の髪を一つにまとめた緑目の勝気そうな女性が立っていた。

 ……なんというか、出るとこ出てて目の毒だ。特に胸とかデカすぎだろ!


「アタシはクノエ。ここの中にある第三部隊の部隊長なんかをやってる者さ。アンタら新入りはまず今から試験をやってもらう。その評価でここのどの部隊に預けるかを決めさせて貰うさ。別にここに入れるだけの実力があるんだ。気張る必要は無いが……まあたまに死ぬやつも居るから死にたくなきゃ頑張ることだね。試験は一時間後に第一訓練場で行う。それまでは大人しくしてるんだね」



 そう言ってクノエさんは会議室っぽいところから出て行った。


 一応第一訓練場の場所は既に聞いているし、試験を行うことも聞いている。ただ、知らなかったのはあんな女性がいるということだけだ。

 俺だって純粋な十八歳の男子である。魅力的な女性に惹かれるのは……イテテテテッ!


「シンマ、あの人見てニヤニヤしてた。まったく、そういうのは私以外ダメって前に言わなかった?」


 おっとレイがジト目でこっちを見てきているぞ!こうなると機嫌が悪くなってきている証拠だから気をつけないと!


「ご、ごめん。でもあれは男の性だって。どう考えたっておかしいだろあれは。もちろんレイが一番だけどな」


 いつもこうして彼女の機嫌を取っているのだけど、最近はこれでもダメな時が出てきた。そろそろ新しい台詞を考えなければ……


「ふ、ふーん……べ、別にこれで機嫌が直ったなんて思わないでよね」


 お、これは彼女が喜んでいる証拠だ。リアルツンデレが出れば大方機嫌が直り、むしろ気分が良くなってきているという事だ。


「さてと……。試験まで時間があるな。レイ、もう行って時間を潰すか?」


「良いけど……多分組手とか出来そうには無いわよ?周りを見てみなさい」


 そう言われて周りを見ると、明らかに俺たちと違う雰囲気の連中がこちらに向かってきている。


 全員がガッシリした体つきで、まるで壁のように感じる。


 はぁ……まったく、ここはだぞ?少なくとも乱闘場ではないはずなんだけどな。これがかの有名な〈荒くれの巣窟〉ってやつなのかな?



「なあ、お前ら新入りだろ?俺らにちょっと付き合えや」


 うわー、いつの時代のヤンキーだよ。口調だけなら完全にカツアゲの流れになりそう。前にそんな漫画を読んだけどまさかこの荒くれもその漫画の真似をしてるのか?


「お断りさせてもらう。僕たちはこれから試験があるんだ。アンタらに付き合っている暇は無い」


 そう答えたのはメガネをかけたいかにも真面目そうな奴だ。ヒョロヒョロでこんなのが戦えるのかが不明だが、ここにいるということは実力はあるのだろう。


「あ?お前、誰に向かってそんな口を聞いてやがるんだ?」


 あーあ。何となく察してはいたけどまさか大当たりとはね。


 こういった荒くれっぽい奴にそんな口を利いたらこうなるって少し考えりゃわかると思うんだけどな。


 

 そしてこっからはお約束の流れである。


 ここはメガネと対峙しているのを荒くれAとしよう。


 荒くれAはなんの捻りもない右ストレートをメガネに放つ。


 メガネは落ち着いて横に避ける。


 しかしメガネの足が遅く、避けきれなかった!


 メガネの顔面に荒くれAの右ストレートが突き刺さる!


 メガネは割れて、メガネは倒れてしまった。


 ……なんとも呆気ない攻防だった。いや、攻防にすらなっていないだろう。


 荒くれ達はこれで気が済んだのかは分からないが俺たちのいる会議室から去って行った。


 怒涛の如く色々起きすぎて静かになった会議室で俺たちはただ立ち尽くしていた。


 少しして、まず最初に動いたのは倒れたメガネのパートナーの少年だった。おそらく兄弟なのだろう。かなり顔つきがそっくりだ。


「……じゃあ、とりあえず移動しよっか」


 レイの言葉にその場の大半が頷くと、俺らはぞろぞろと試験が行われる第一訓練場に向かうのだった。



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