記憶で操るマリオネット 〜ロボ乗り軍人生活始めました〜

文月 

プロローグ

 俺はシンマ=アケユキ。漢字だと朱雪心真だな。


 俺が所属するのは極東異生物対応軍と呼ばれる軍隊だ。


 それはさておき。


 ここはかつてアジアと呼ばれていた地域だが今はグラップヒーン大岸壁と呼ばれる地域に俺はいる。


 そんな凄そうな場所にいる理由は簡単。生き残るため……としか言い様が無いのも事実だけどな。


 この地球で百年程前に一度石油が枯渇し、同時に超大規模地殻変動によって多くの資源が採取出来なくなった。それにより、世界では他の数少ない資源を巡って大戦争が起きた。

 まあわずか二年で太平洋と大西洋、そして南極付近に巨大な油田が連続して発見されてすぐに戦争は終わった……と、歴史の教科書には書いてある。


 しかし、それは嘘だ。いや、完全に嘘では無いのかもしれないが……とにかく世界では未だに巨大な油田なんて見つかっていないのが現実だ。

 時折小さな油田が発見されることはあるが、それもあまり価値が無くなってきているように感じる。


 なぜなら百年程前に発見され、約五十年ほど前に民間に存在が明るみになったとある鉱石があるからだ。


 その名はグリフィダイト。

 真紅に輝く石で、一立方メートル分の大きさだけで小さな街なら全てのエネルギーを賄えるくらいの出力を放出する夢の石だ。

 具体的には大人の拳一つ分でガン○ム一機が動かせると言った方が良いかもな。

 ガ○ダムは確かこの前最新作が発表された人気作だ。2000年代以前からずっと続いていて、未だにファンを増やしている。


 このグリフィダイトはマリアナ海溝の……っと通信だ。


『こちらアルファ。ポイント6に到着。全機、いつでもぶちかませられるようにしときな。お客様を喜ばせるのがアタシらウェイトレスのお仕事だよ』

『こちらベータ。目標群、当該座標を動いていません。ちゃんと席には着いていますよ』

『なら早速ランチを……時間はもうディナーだねえ。ならば〈死〉というディナーだ。冥土の土産に自分の血というワインを一緒に飲ましてやりな!』


「ポイント8のデルタ了解。ウェイターもそろそろ動きます。───レイ、始めるよ」

「分かったわ。物騒なものを持ってるお客様に少しだけ痛い注意をしてあげなきゃね」


 俺がいくつか操作をするとガコンと言う音と共にヴンヴンヴンと何かが回転するような重低音が聞こえてくる。


 さて、続きはまた今度語るとしよう。ここからはお仕事の時間だからね。




 俺が握りしめたレバーを動かすと、少し強めの振動に僅かな浮遊感と共にGがかかる。

 俺らの乗るこの機体は最大で数百キロは速度が出るし、今はいきなり加速したからその分もかかる。

 だがこの程度ならもう慣れたものだ。


 俺はゆったりと席に座りながら。それでいて細かく周囲のレーダーやモニターを確認しながら機体を操縦する。


 前に座っているレイも似たようにモニターを見ているが、今は俺よりは落ち着いている。彼女が忙しくなるのはもう少し後だからというのもあるのだけど。


「シンマ、西に三千の所で見つけた」


「了解。じゃあ今日の飯代にでもなってもらおうぜ」


「そうだね。〈武装展開アームズ・オープン〉」


 ガコンッ


 何かが外れるような音と共にレイが忙しくレバーやボタンの操作を始める。


 俺らが乗るこの機体は戦闘用に作られた物だ。しかし、一人で操縦も戦闘も行うのはさすがに無理なので、二人で操縦する。


 俺らの場合は俺がこの機体の操縦を、レイが武装を操る役目となっている。そういう風に出来ているのだ。


 すると、レイから声がかかる。


「そろそろ良い?」


「良いぜ。じゃあ……」


記憶結合コネクト!』


 すると視界がクリアになり、脳も冴えるような感覚になる。


 

 記憶結合を行った直後に俺らの目標を目視した。


 大きさは二十メートル程度でこの機体と同じくらいだ。

 しかし、その大きさは正しくない。背中から伸びた柱のようなものを含めると五十メートルは届くだろう。


 奴は遠距離型に特化したクリーチャーだ。背中の砲台から高威力の超長距離狙撃を行う厄介者だ。そして、俺らの敵である。

 しかし、奴はその狙撃を極至近距離で行うこともある。

 その攻撃で何人も死んでいるのだ。


 そんな相手をまるで二人羽織のような状態で倒せるのか?


 そう聞かれたら答えは一つ。


 「出来る」


 それだけだ。


「レイ、加速まであと三秒……二、一」


 俺は足元のペダルのようなものを思い切り押し込んだ。


 重低音が大きくなり、同時に身体にGがかなり掛かる。


 そんな中でも彼女は平然とレバーを握り、その時を待つ。


「目標接触まで僅か。──斬るよ」


「ああ。ミスるなよ?」


「まさか。私に言ってんの?」


 俺らはまるで日常会話のようにそう話す。

 さすがに戦闘開始直前で余裕は余りないのでいつもの様には話せないが。


 

 直後、僅かに引っかかるような振動。



 すぐに動き出したが、やはり硬い。

 だけどレイは笑みを浮かべている。


「シンマ、斬ったよ!倒したんだよ!」


 俺は近くのモニターを確認する。


 そこには背中の砲台をこちらに向けた状態で、上下に真っ二つになって地面に転がるクリーチャーの姿があった。


 どうやら一撃で決められたようだ。


 あっちもそろそろ終わった頃だろう。

 俺は部隊長に通信を入れる。


「こちらデルタ。こちらの目標は討伐。合流ポイントに向かいます」


『こちらアルファ。そっちは上手くやったようだね。なら早くこっちに来な。お客様が大人数で来やがった!追加報酬の交渉はアタシに任せな!』


「了解です。今からポイント6に向かいます」


 俺は通信を切ると、操縦桿をもう一度握る。


「さて、聞いてたようにもうひと仕事だ。報酬は弾んでくれるってよ」


「そう?ならば頑張らなくちゃね」



 俺たちは機体の中で獰猛に笑い、これからも戦場に向かっていくのだ。





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