ゴールデンクラッカーのせい
~ 一月三十日(水) 2.0 対 1.3 ~
ゴールデンクラッカーの花言葉 心躍る
昨日のチョコレート募集行脚にて。
クラブではなく、ボーリングのピンで。
新体操的な演技をご披露して歩いた
軽い色に染めたゆるふわロング髪を、頭のてっぺんでお団子にして。
そこに山盛りのゴールデンクラッカーを活けてわっさわさと揺らしていますが。
黄色いお花が、夏の夜に開いた花火のよう。
ぼぼぼぼんと空を埋め尽くしているようで。
久しぶりに、バカ丸出しなのです。
さて、そんなお花の様な。
派手なアピールではありませんでしたが。
ジャグリングショーにより、チョコをくださると約束してくれた方が二人増え。
予想得票数が再び二十人を超えた模様です。
「順調なの。ジャグリングのアピールは大成功だったの」
穂咲さん。
君は偉そうに。
ふんぞり返っていらっしゃいますが。
はっきり申しましょう。
一票は、「俺、ドジ萌えなんだ」。
一票は、「なんか、かわいそうだから」。
……まともなショーだったら。
もう少し票数を稼げたと思うのですけどね。
それにしても、ひどいものでした。
たった五分だけ教わったジャグリング。
もとい。
新谷さんが教えたのは新体操でしたね。
……さらにもとい。
新体操に、『ピン』なんて競技はありませんでしたね。
なんてややこしい。
結局、何と言い表せばよいのでしょう?
「今度は何をしよう」
シャーペンを上唇と鼻の間に挟んで。
うむむと唸る穂咲ですが。
そういえば。
先生が、かつて言いましたね。
こと、勝負なら。
ばかばかしくても、勝つために努力せよと。
チョコ勝負なんて、ほんとにばかばかしいのですけれど。
穂咲を見ていると。
勝つための努力が。
人の成長にとってどれほど大切な事か。
嫌でも伝わってくるのです。
「…………やっぱ、ワイロが良いの」
もとい。
こいつは、俺の成長にとって不要な方なのでした。
「さらに票を伸ばすために、高級なものを配ろうと思うの。どう?」
君はあれですね。
高級って言葉、お好きですよね。
このあいだのかりんとうと言い。
一粒三千円のチョコのために。
なんという本末転倒。
いろいろ突っ込みたいところですが。
先生に命じられて、新谷さんへの謝罪文を一万文字も書かされたばかりなので、目をつけられているのです。
ここは筆談にしておきましょう。
……それにしても。
先生はなぜ俺が新谷さんの絶対領域を見て鼻血を出したこと知っていたのでしょう。
さて、まず。
高級なものというのが何か気になりますね。
俺がノートの端に。
『?』と一つ書くと。
穂咲は押し殺しながらも。
楽しそうな声で返事をしてきます。
「ふかひれがいいと思うの」
は?
スープにして配る気でしょうか?
君、フカヒレっていくらするか知ってるの?
と言いますか。
そもそもフカヒレとは何か知ってるの?
俺が、『←』と書いて。
それを穂咲に向けると。
「そりゃもちろん知ってるの。ふかって魚のひれなの」
合ってます。
俺がノートに『〇』と書こうとしたら。
「ふか。きっと丸くてふかふかした、かわいい魚なの」
そのまま『✕』に早変わり。
でも、俺の突っ込みに耳も貸さず。
もとい。
目も貸さず。
『ふか』なる魚の想像図を。
自分のノートに書き始めたのですが。
……なんでしょう、このファンタジックな生き物。
海と言うより、夢の国の空に浮かんでいそうなお魚なのです。
フグの様な姿形にマーブル模様。
妖艶な唇に長いまつげ。
そして、相変わらずシャーペン一本で大したもの。
絶妙なタッチでふかふかが伝わって来る。
そんな毛皮を着ているのですが。
水を吸って溺れちゃいますよ。
さて、穂咲さんにはどう伝えましょう。
君は本当に日本で十七年暮らしてきたの?
俺が『十七』と書いてから、さっきの『✕』をとんとんと指で叩くと。
「七かける十? 七十点とは、なかなか辛口なの。でも、知らない魚なのにかなり近い絵がかけたってことなの」
……珍しく。
うまく伝わりませんでした。
仕方ない。
俺は下手くそながらそれと分かるレベルで。
サメの絵を書いてやります。
ここよここ。
そして、ひれをぐりぐり丸で囲むと。
「意地悪なの! あたしのふか、そのサメで食べちゃう気なの!」
バカなことに。
ふかちゃんの絵を胸に抱いて。
席から立って後ずさるのです。
「…………お前ら」
まあ、そうなりますよね。
俺も席から立って、沙汰を待ったのですが。
意外にもすぐにお叱りが飛んできません。
はて、これはどうしたことか。
「叱る前に、話の内容が気になって仕方ない。フカをサメが食うとは何の話だ?」
ああ、なるほど。
確かにさっきのだけ聞けば。
俺だって気になるところでしょう。
「こいつが、フカについて誤解していたので教えてあげていたのです」
「ウソなの! 道久君はサメの絵をかいてただけなの!」
「これがフカです」
「絶対ウソなの! ねえ先生、あたしのふかと道久君のふか、どっちが合格!?」
そして俺のノートをふんだくると。
自分の描いたふかちゃんと並べて先生に突き出します。
……やれやれ。
落ちは想像つきますね。
もともと、先生は穂咲に甘いのに。
先日のテレビ局事件以来、さらに彼の中で評価が上がったので。
きっと今日も。
俺の描いたサメに難癖をつけて立たせる気なのでしょう。
「ふむ。どちらと言われれば、不可なのは秋山の幼稚な絵だな」
ほれみたことか。
予想通りの返事が返って来ました。
まったく、なんというパワハラコンビ。
でも、逆らったら事態はいつもひどくなるばかりなので。
俺は素直に。
廊下へ出て行こうとしたのですが。
「がーん!」
どういうわけか。
穂咲が、ショックを受けてうな垂れて。
そのままノートを二つぶら下げて。
廊下へ行ってしまいました。
…………あ。
『不可なのは、秋山の絵』。
まさか君。
『フカ』と『不可』を勘違いしてます?
「こら。どうして藍川が廊下へ行くんだ?」
「いえ、合っているのです。今日は珍しく、正常な判決なのです」
「…………何が正常だ、ばかもん。貴様も間違っているだろう。廊下で立っとれ」
もとい。
先生は、異常な事を言い出しました。
「なんでです? 俺は正しいでしょうに!」
「何を言っているんだお前は。授業中に落書きしているのが正しい?」
あ。
いつから俺は。
フカの正誤でどちらが廊下に行くか決めると勘違いしていたのでしょう?
ということで。
またもやもとい。
正しいことを仰られた先生の指示により。
俺はうな垂れた穂咲の隣に立ちました。
でも、ちょっと悔しいので。
穂咲から俺のノートを取り上げて。
正解の絵を胸に掲げ続けたのでした。
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