ビバーナムのせい


 ~ 一月二十三日(水) 1.6 対 .7 ~


   ビバーナムの花言葉 落胆



 ドラマの主人公が母校を訪ねるというシーンに使おうかと。

 本日、我が校にはテレビの偉い人が来ているようですが。


 自分も出演することになるかもと。

 最初は浮ついていた俺たちも。

 彼らの横柄な態度にがっかりとしました。



 授業中、教室に勝手に入ってきたり。

 校内放送を使ってスタッフを呼び出したり。


 挙句に、俺たちの体育の授業。

 それを中断させて。

 なにやらトラックに機材を並べていますけど。


 いつもなら、文句を言いそうな俺たちですが。

 教頭先生直々に止められていては動けやしません。


 でも。

 融通の利かない石頭。

 これが二人ほど、わが校にはおりまして。


 そのうち一つ目の石。

 教頭先生に怒鳴られても。

 お構いなしにトラックを走り続けるのは藍川あいかわ穂咲ほさき。。


 軽い色に染めたゆるふわロング髪を、テレビドラマに出演できるかもというよこしまな気持ちでお姫様風な縦ロールにして。

 そこに、アジサイよりもぎゅぎゅっとボール状に白い小花をつけたビバーナムを突き立てて。


 ふらふら、よたよたと。

 いつもの調子で走り続けます。


 ……半年前、あれだけ鍛えた足の速さはどこへやら。

 最近、また丸くなり始めましたし。


 体育祭、過酷な種目にエントリーさせる必要がありますね。



 さて、そんな心配よりも。

 目下の罵声を何とかしないと。


 お客様の中で一番偉そうにしてる人が。

 邪魔だからあいつをどけろと騒ぎ立てると。

 スタッフの人が何人かで穂咲の元に走ります。



 この騒ぎに。

 学校中が注目している様子。


 ここから見てもわかるくらい。

 窓という窓に人影が映ります。


 そんな中。

 穂咲がいよいよ掴まろうかというタイミングで。

 窓が一つ、勢いよく開きました。



「お前ら、それでも俺が担任しているクラスの生徒か! 揃いも揃って授業をさぼるとはいい度胸だ! 藍川を見習え!」


 授業中の閑静な校内に響き渡るだみ声。

 何をしているのですかあなたは。



 でも、この声に。

 校舎が。

 全身から、おおと声をあげます。


 テレビの人たちの横暴に。

 みなさん不満があったようですね。


「藍川が取り押さえられでもしてみろ! 貴様ら全員、その格好で駅前に立たせてやるからな!」

「そうは言いましても。先生より偉い教頭先生に逆らうなんて、クビを覚悟じゃないとできませんよ」


 そんな教頭先生は。

 校舎から声を張る先生に向かって、なにやら怒っていらっしゃいますが。


 多分、何を言われても無理でしょうね。

 この人の頭。

 石より硬いのです。



「ばかもん! 授業を邪魔する奴は、たとえ教頭だろうと許さん! 立っとれ!」



 そして校舎が。

 割れんばかりの歓声を上げると。


 そのまま教頭先生への罵声と。

 穂咲への、逃げろ頑張れというエールに変わったのです。



 これは清々しい。

 俺たちは同時に腰をあげると。

 トラックへ駆け出しました。




 ……でも。




 学校中から、穂咲コールが巻き起こる中。

 当の本人は走るのをやめて。

 テレビ局の人が怒って帰っていくのを。

 残念そうに眺めています。


 俺は、そんな反逆の英雄が。

 何を考えているのか。

 一発で見抜きました。


「ねえ、穂咲。まさかお前……」

「ちっ。一人だけアピールできるチャンスだったのに、うまいことスカウトされなかったの」

「やっぱり」


 事の真相を伝えたら。

 この、歓喜に湧く学校は。

 どんな反応をするのでしょうね。


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