君がいた頃のはなし。

鳳ゆうた

第1話 あの日の話。

「海斗、大好きな海斗。

そういえば君はいつもわたしのそばにいたね」


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起立、礼、さよならー

「もう夏も終わりですが、熱中症にはくれぐれも注意してくださいね。」

「はーい」

クラスメイトは口々に言い、友達と帰っていく。

あいつが起きんのまだ一時間はあとだな。今日の数学の宿題でもして待っとくか。

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宿題はとっくに終わり、暇を持て余していた。空は赤く染まり、教室を見わたしたけれど誰もいない。

「もうそろそろだな。」

僕はそう言って立ち上がり、二つカバンを持って教室をあとにした。


ガラガラガラ、「柚、起きてる?」

僕がそう言うと、カーテン越しのベッドから小さくて少し高めの声が返ってくる。

「うん起きてる。ごめんね、毎日保健室まで迎えに来るのしんどいでしょ。柚、一人でもちゃんと帰れるから別にいいのに。」

「どうせ家が隣なんだから、一緒に帰っても帰らなくても同じだろ。」

「まあね」柚はくすくすと笑う。

彼女は六年前の夏祭りの日にトラックに頭をはねられた。助かったものの、後遺症は生きている以上、これからずっと消えることはない。後遺症を抑えるための薬も毎日たくさん飲んでいる。それでも発作が起きてしまうのだ。だから毎日保健室通いの日々なのである。

あの日僕が彼女と一緒にいたら、あの時彼女の手を離さなかったら、こんなことにはならなかったのに。

僕の心がまた痛んだ。

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君がいた頃のはなし。 鳳ゆうた @midorinota_nuki

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