第81話 一歩踏み出すその先に
――ドゥ……ティ……
……声がする。
僕を呼ぶミーナの声だ。
ついに僕は幻聴を聞くようになったのか。これが本物だったらどれほどよかったことか。
それにしても、幻聴か。それは名案だ。あの井戸の底に住む幻覚男に会いに行こう。あの男が自分自身にかけた幻覚魔法を、僕にもかけてもらうのだ。そうしたら、夢の中でミーナに会えるかもしれない。
――ドゥティ!
それにしても、幻聴ってものは思いの
――ドゥティ!!
……いや、違う!
これは、本当に聞こえる!
僕の体を内側から響かせるミーナの声が、聞こえる!
眼球の僕は体内を泳いで声の元に駆けつける。
そこで、裸で泳ぐミーナを見つける。洋服はもう僕が吸収してしまったようだ。しかし、ミーナは無事だ! ミーナ!
ドゥティ!と言ってミーナは眼球の僕を、もう離さないようにと強く抱きしめる。
ミーナだ! ミーナは生きていたのだ! 本当によかった!
――僕の作戦が、成功したのだ。
一か八かの賭けだった。成功する保証はどこにもなかった。検証なんてもちろんしてないし、ぶっつけ本番の大博打だった。
ノアが僕の身体で色々と実験をしたとき、
――お前の魔力なら吸収しないんじゃろか。
というノアの言葉を僕は覚えていた。
芳香剤がミーナのクソ魔方陣を無効化したとき、
――だから奪った魔力をそのままミーナちゃんに還元するように修正を加えるわ。
という芳香剤の言葉も僕は覚えていた。
――あのクソ魔方陣に僕の魔力を注ぎ込めば、僕の魔力がミーナに還元されるのではないか? そして僕の魔力でミーナが満たされたら、ミーナは僕の身体に吸収されないのではないだろうか?
僕はそう思って、身体全体に魔力を放出し、ミーナのクソ魔方陣が触れるだけで僕の魔力が流れ込むように待ち構えていたのだ。
あとはいつか芳香剤とやったように、ミーナの唾液を舐めて魔力のリンクを作ればいいだけだ。
ミーナの唾液? そんなものは隙を見つけてはこっそりと舐め続けてきた。会ったばかりの時のリコの実だって間接キスだし、ミーナが食べ終わった肉串だって舐め回した。それ以外でも唾液に限らず僕は散々ミーナの体液を舐め続けてきたのだ。魔力のリンクができていないはずがない。僕に抜かりはなかった。完璧な作戦だ。
僕は身体を震わせ、ミーナに好きだと伝える。これはいまや僕の本心だ。自信を持って言える。隠す必要もなければ、疑う必要もない。僕は本当にミーナのことが好きなのだ。
発声魔道具もないし、僕の声は音になったかすらも怪しい。
それでも、僕の言葉はミーナに伝わる。
――私も、ドゥティのこと、大好き!
と言ってミーナは、僕の眼球をさらに強く抱きしめる。
今僕はミーナと一つになった。肉体的にも、精神的にも一つになった実感がある。もはやこれはセックスではないだろうか?と僕は思う。僕はこんな身体でも、ミーナと気持ちを通じ会わせることができたのだ。僕のこの膨張した身体が元に戻るのかもわからない。破壊された球体が治るのかもわからない。それでも、僕はこれから、ミーナと一緒に明るい未来を築くのだ。
僕の体内を裸で泳ぐミーナは、僕の眼球にかぷりと噛みつく。
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