第80話 喪失

 ……ふざけるな。こんなクソみたいなことがあり得ていいわけがない。


 僕はミーナを殺してしまったのか? 僕の、この身体で。


 僕の身体はまだ膨張を続けている。城だけにとどまらず街も全て呑み込んでしまったようだ。


 僕は片方だけになってしまった眼球で、体内に飲み込まれてしまったミーナを必死に探す。


 しかし、城や建物の残骸しか見つからない。僕のクソみたいな身体に触れると、魔力を持ったものは全て吸収されてしまう。生きているものは一つとして見つけることができなかった。


 ミーナは自分の魔力をすべを身に付けていただろうか? 芳香剤が高等技術だと言っていたそれを。……いや、それはないだろう。魔力をつ練習をしていたら僕が気付くはずだし、ミーナのことだからできるようになったら真っ先に僕に言うはずだ。影でこっそりと練習していた? それもない。そんなものは僕の願望だ。そのわずかな可能性にすがりたいだけだ。


 ……こんな結末があり得ていいのか?


 僕はミーナを守るために戦っていたはずなのに、僕がミーナを殺してしまったのか?


 やはり僕のような全身凶器は、山で独りで野垂れ死ぬべきだったのだ。ミーナに話しかけるべきではなかったのだ。人間のような生活ができると、ミーナのことを好きになってもいいと、そんな馬鹿みたいな夢を見るべきではなかったのだ!


 ……どうして僕はここまでショックを受けているんだ? この世界に来てから、人間なんてもう何人も殺してきたじゃないか。


 はは。アホらしい。今になって気付いた。僕は本当に、ミーナのことが好きだったんだ。


 そうでなければ、僕自身を殺してやりたいこのクソみたいな感情に説明がつかない。このぽっかりと空いた喪失感に説明がつかない。この泣き出したい気持ちに説明がつかない。ノアママはやはり正しかった。


 ――僕のミーナへの思いは、好きという感情だったんだ。


 僕は馬鹿だ。どうしようもないクズだ。そんなことに今さら気付いても遅すぎる。


 ……遅すぎるんだ。


 ノアに死んでもミーナを守れと言われていたのに、僕にはそれができなかった。自分でもそれを誓ったはずなのに、僕が原因でミーナを死なせてしまった。ミーナにはまだ希望に溢れる未来があったはずなのに、それを全て奪ってしまった。死ぬべきなのは僕の方だったのに!


 僕は虚ろな感情のまま一縷いちるの望みにすがってミーナを探す。


 ザァメンが着ていた鎧が漂っていたが、そんなものはどうでもよかった。達成感も何もない。


 ……ミーナ。


 ミーナ。声を聞かせてくれ。もう一度、僕の名前を呼んでくれ……。


 誰も、返事をしてくれなかった。

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